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Ⅱ.治 療

再発腫瘍の治療

文献検索と採択

再発腫瘍の治療
5-1.再発腫瘍の治療
推 奨

a.切除可能な再発巣には,外科切除を行うことを考慮してもよい。(グレードC1)

b.可能な場合は外科治療を含めた集学的治療を行うことを考慮してよい。(グレードC1)

c.切除不能な再発巣には,化学放射線治療,化学療法,放射線照射を行うことを考慮してもよい。(グレードC1)

エビデンス
a.
再発胸腺上皮性腫瘍の治療に関する国内外のデータベース研究は行われているが,前向き研究は存在しない。1990年代の国内データベースにおいて胸腺上皮性腫瘍完全切除後の病期別再発率はⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ期でそれぞれ0.9%,4.1%,28.4%,34.3%であった1)。ITMIGのデータベースにおいて,WHO分類別再発率はtype A,AB,B1,B2,B3でそれぞれ4%,2%,8%,13%,14%と報告されている2)。JARTのデータベースでは胸腺上皮性腫瘍の術後無再発期間は2.7±2.3年,術後再発部位・頻度は胸膜,肺,局所,遠隔転移(脳,骨,肝臓)がそれぞれ54.1%,21%,17.3%,11.3%であった3)。一方胸腺癌は同じくJARTデータベースでは完全切除後の再発率は39.1%であり,再発部位・頻度は局所再発,肺転移がそれぞれ41%,33%であった4)
 術後再発治療は外科治療と非外科治療に大別される。胸腺上皮性腫瘍術後再発に対し外科的治療は40%に施行されている3)ものの,JARTデータベース研究やメタアナリシスによる外科治療・非外科治療に対する後ろ向き比較研究が存在し外科治療の優位性が報告されているが,対象症例の背景はそれぞれ異なる3)5)。外科治療成績は,5年および10年生存率がそれぞれ58.0~82.7%,56.0~68.2%であり,非外科治療成績は43.5~68.2%,23.4~37.0%であった。後ろ向き研究では外科治療の全生存率に対する有効性が示唆される3)5)6)10)。また,非手術治療に対する手術治療の生存率に関するHazard Ratioは,5年/10年で0.34(0.21-0.48),0.47(0.24-0.71)であり,手術群が良好であった5)。さらに,48例の再発胸腺上皮性腫瘍に対する治療法による長期予後の比較研究では,外科治療のみが再発胸腺上皮性腫瘍における長期生存と無再発生存期間に寄与した。Ⅳa期症例を含め再発胸腺上皮性腫瘍(胸膜・心膜播種症例)に対し,胸膜肺全摘術が良好な長期生存を提供する可能性があるとの報告もあるが,再発症例は8例と少なく今後の検討が待たれる7)。一方,再発胸腺上皮性腫瘍に対する完全切除が生命予後を改善したとの報告8)9)はみられるが,不完全切除(debulking surgery)と非外科治療を直接比較した報告はみられない。以上より切除可能な再発巣には切除を行うことを考慮してもよいとした(グレードC1)。
b.
胸腺上皮性腫瘍再発に対して外科治療を受けた患者に対する集学的治療は,外科的治療の結果を改善することができたとの報告がある6)11)。胸腺癌に関しては,手術のみでは生存率は改善せず,化学療法が(P=0.0295)再発後の無増悪生存期間延長に寄与した6)。再発胸腺上皮性腫瘍に対して,外科治療兼胸腔内温熱療法の報告12)もあり,14例の5年,10年,15年生存率はそれぞれ67%,56%,28%であった。症例数は少ないが考慮してもよい治療法と考える(グレードC1)。
c.
切除不能例の非外科治療としては,化学放射線治療,化学療法,放射線照射,支持療法3)4)に加え,温熱療法12)が挙げられるが,少数であり,比較試験はない。
引用文献
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