臨床診療ガイドラインの目的は,肺癌に関してEBMの手法に基づいた効果的・効率的な診断・治療法を体系化し,効果的な保健医療を確立し,ひいては豊かで活力ある長寿社会を創造するための一翼を担うことである。本ガイドラインの対象は,肺癌診療に携わる医師としたため,一般の方々にとっては専門的すぎる内容もみられるが,肺癌診療医とともに御覧になっていただきたい。
本ガイドラインは,日本肺癌学会ガイドライン検討委員会と各小委員会の多くの委員ならびに協力者(別掲)による討論の上,理事会の議を経て承認されたものである。今回からは,悪性胸膜中皮腫および胸腺腫についても項目に含めることにした。各項目の文献の検索方法や検索式,さらには文献採択の基準を記載した。そして,項目ごとに,「推奨」「エビデンス」「引用文献」の順に記載した。クリニカルクエスチョンに相当する各項目の勧告事項をその推奨グレードとともに示した。「推奨」の科学的根拠を「エビデンス」として解説した。「引用文献」では「推奨」および「エビデンス」の根拠となった文献を記載し,それぞれのエビデンスレベルをローマ数字で示した。ただし,「病理・細胞診断」では,臨床で有用な検体の取扱いや診断方法等を記載することとし,推奨グレードは示さないこととした。推奨グレードとエビデンスレベルの決定方法を表1に示す。
診療ガイドラインは,あくまでも診断や治療に対する「判断指針」であり,強制力をもつものではない。しかしながら,ガイドラインを「診療の聖書」と勘違いしている人も少なくない。ガイドライン作成の基になったエビデンスはある特定の症例集団を基にした臨床試験の結果であり,日常の診療においてはこれらのデータがそのまま実践に応用できるとも限らないことを十分に認識すべきである。一方,次々に出てくる臨床試験の結果を踏まえてガイドラインの内容を逐次変更していくことは現実的に難しい。ガイドラインの情報を踏まえた上で,個々のレベルで新しい情報を整理することが勧められる。また,提示された診療の推奨グレードは一つの大規模臨床試験の結果のみで左右されるものではない。診療に伴う害やコストのことも考慮しながら決定されるものであり,Evidence-based Consensus Guidelineと理解されたい。コンセンサス形成の過程を明確化するため,次回以降は,推奨度作成GRADEシステムを採用する予定である。