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Ⅰ.診 断

存在診断と画像的鑑別診断

文献検索と採択

存在診断と画像的鑑別診断
2-1.存在診断と画像的鑑別診断
推 奨

a.胸部CTは,胸腺上皮性腫瘍検出を目的として行うよう勧められる。(グレードA)

b.縦隔病変の鑑別には造影CTを行うよう勧められる。(グレードB)

*なお,造影剤投与不能例,胸腺過形成,嚢胞性病変,その他の腫瘍との鑑別にMRIを行うことを考慮してもよい。

エビデンス
a.
重症筋無力症患者154例での検討で,26例に存在した胸腺腫の検出率は単純X線写真15例(58%)に対し,CTは実施された20例中17例(85%)と優れていた1)。また,単純X線写真の異常所見はわずかと記載されている。また,NCCNガイドラインにおいても単純X線写真の記載はみられない2)。したがって胸腺上皮性腫瘍の存在診断において単純X線写真はまず行われる検査ではあるが,その役割は限定的である。
 重喫煙者に対する低線量CTを用いた肺癌検診のコホート研究において,縦隔病変の発見率がELCAPより報告されている3)。最初の検診時の縦隔病変発見率は,9,263例中71例(0.77%)であり,うち胸腺病変が41例(0.45%)であった。10 mm以下が6例(15%),30 mm以下が68%,30 mm超が5例(12%)と小胸腺病変の検出率の高さが示されている。
 CT装置の性能が飛躍的に向上した現在ではさらに検出率が向上しており,胸腺上皮性腫瘍の存在診断におけるCTの有用性は十分にコンセンサスが得られていると考えグレードAとした。
b.
造影CTはNCCNガイドラインでも実施が明記されている(グレードB)。胸腺上皮性腫瘍において,嚢胞の鑑別の目的にも用いられるが,診断が確定しないことが稀ならずみられる(274例中61例,22%)4)。こうした例ではMRIによる評価が有用である4)5)。胸腺過形成と胸腺上皮性腫瘍との鑑別が時に必要となるが,MRI,chemical shift imagingにより胸腺過形成と腫瘍とが識別でき胸腺上皮性腫瘍の存在を疑うことができる6)。Chemical shift MR imagingが重症筋無力症をもった患者での胸腺腫とそれ以外の疾患を区別するのに役立つ7)。前縦隔に発生する悪性腫瘍は,胸腺上皮性腫瘍の他に悪性胚細胞性腫瘍と悪性リンパ腫とが挙げられ,これらの画像的な鑑別はしばしば困難であるが5),FDG-PET/CTが有効との報告もある8)。また,FDG-PET/CTにおけるmaximum standard uptake value(SUVmax)は,胸腺癌と胸腺腫の鑑別に有用とする報告は多い9)10)
 胸腺上皮性腫瘍を対象としてCTとMRIの各所見の描出能を比較した報告11)によると腫瘍周囲被膜はCT 18%,MRI 75%,腫瘍内隔壁はCT 13%,MRI 43%,腫瘍内出血はCT 5%,MRI 17%と,MRIの描出能が有意に優れており,MRIで腫瘍を分割する線維性の隔壁や腫瘍を取り囲む被膜が描出された場合には,低悪性度の胸腺腫を示唆するとされ,悪性度の高い胸腺腫や胸腺癌との鑑別に有用と考えられる。なお,胸腺上皮性腫瘍の大血管浸潤の評価に関しては,CTとMRIは同程度11)であることから,ヨードアレルギーなどのためCTで造影剤が使用できない場合に,MRIを用いた評価が可能となる。
 その他,ダイナミックMRIを用いて胸腺腫の悪性度が鑑別可能という報告12)や前縦隔腫瘍から胸腺上皮腫瘍を識別可能という報告8)もある。また,胸腺上皮性腫瘍の拡散強調像の検討13)では,高リスク胸腺腫や胸腺癌は低リスク胸腺腫よりも見かけ上の拡散係数(apparent diffusion coefficient;ADC)の値が低いと報告されている。非造影で縦隔腫瘍の内部性状に関して付加的な情報が得られる可能性がある。
 胸腺上皮性腫瘍鑑別に対するMRIの役割は,多くの症例による検討が尽くされてはおらず,現時点では限定的ではあるが,造影CTに付加する情報を得られる場合がある。
引用文献
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