Ⅰ.肺癌の診断

2

質的画像診断

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2000年1月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:肺結節(Solitary Pulmonary Nodule, Multiple Pulmonary Nodule, pulmonary nodule, pulmonary nodules, Lung Neoplasms),診断(Diagnosis, Computer-Assisted, Diagnosis, Differential, diagnosis, diagnostic, evaluation, evaluate, evaluated, Prognostic, prognoses, prognosis, screening),画像(Tomography, tomography, imaging),質(sensitivity and specificity, sensitivity, sensitivities, specificity, specificities, accuracy, accurate, ROC curve, Predictive value, evolution, validation, screening)
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,システマティックレビュー,ガイドライン,ランダム化比較試験,臨床試験,比較研究,評価研究から抽出した。
  • 選ばれた文献の抄録をレビューし原著論文のエビデンスの質の高いものから採用した。
  • 質的画像診断領域の文献では通常の基準によるエビデンスの質の高いものは極めて少数であった。したがって,分析疫学的研究やケースシリーズで症例の多い論文を次に採用した。
  • 臨床的疑問点によっては症例数が少なくても採用した。
  • 発行時期が古い論文でも2016年版で採用し今回も必要と判断したものは引き続き採用したが,新しい論文が出たものは整理して差し替えた。
  • 質的画像診断ではFleishner Society Statementも参考にした。

CQ4.

高分解能CTで肺癌かどうか判断できない結節に,造影CTやMRI,FDG-PET/CTを行うことは有用か?

推 奨
  • a.
  • 造影CTを行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

  • b.
  • MRIを行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:78%〕

  • c.
  • FDG-PET/CTを行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:67%〕

解 説
  • a.悪性の結節は高い造影効果をもつという仮説のもとに,非石灰化肺結節の良悪性の鑑別診断を,CTでヨード造影剤投与後の造影効果から判定する方法がある。多施設研究では,15 HUを超える造影効果を悪性とした場合の感度は98%,特異度は58%という結果が得られた1)。したがって,造影CTで造影効果がほとんどみられない場合(15 HU以下)には,良性であることが強く示唆されるが,造影された場合には質的診断は困難である1)。多時相撮像(dynamic study)を行う報告では,良性結節を除外診断できる可能性も指摘されている2)3)。しかし,造影CTの正診度や感度,特異度についてエビデンスの質の高い研究はない。

     以上より,エビデンスの強さはCである。その有用性はあるものの本邦では良悪性の鑑別診断として行われていることが少ないことも考慮し,総合的評価では行うことを弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会
行うことを
推奨
行うことを
提案
推奨度決定不能 行わないことを
提案
行わないことを
推奨
0% 100%
(18/18)
0% 0% 0%
  • b.MRIについては,造影剤を用いた多時相撮像や拡散強調像(DWI:diffusion-weighted magnetic resonance imaging)を用いた方法が孤立性肺結節の良悪性の鑑別診断や精査の必要性の判断に有用との報告がある4)5)。造影CTやFDG-PET/CTと遜色ないMRIの成績も報告されている6)。しかし,それらの報告のエビデンスの強さはCである。研究結果として有用性が高く被曝がない利点はあるが,本邦では肺病変の検査として行っている施設が限られている点も考慮し,総合的評価では行うことを弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会
[1回目]
行うことを
推奨
行うことを
提案
推奨度決定不能 行わないことを
提案
行わないことを
推奨
0% 50%
(9/18)
50%
(9/18)
0% 0%
[2回目]
行うことを
推奨
行うことを
提案
推奨度決定不能 行わないことを
提案
行わないことを
推奨
0% 78%
(14/18)
22%
(4/18)
0% 0%

MRI検査の海外での最近の研究成績や日本での検査状況を総説にも追記し,読者に誤解を与えないように変更するとして2回目の投票で推奨2(提案する)となった。

  • c.FDG-PETやFDG-PET/CTは,多くの研究によって,CTより良悪性の鑑別診断に対して良好な成績が報告されている7)~9)。多時相でstandardized uptake value(SUV)を計測する方法(Dual time point PET/CT)の報告がなされ10),良性結節を除外診断できる可能性も指摘されている。ただし,FDG-PET/CTの定量評価として用いられているSUVに関しては,比較定量性に問題があるとする報告11)も多いので,日常診療で標準的な指標として勧められない。また,1cm以下の結節のデータは少なく,診断能が確立していないこと,定型カルチノイドなどの低悪性度腫瘍や上皮内腺癌が偽陰性になる場合が多く,逆に肉芽腫の一部は偽陽性になるため,その診断に注意が必要である12)13)。PET-CTについての報告もエビデンスの強さはCである。また総合的評価では,その高い正診率や感度,特異度,低侵襲性から,コストは高いが良悪性の鑑別診断に使用することを強く推奨する(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会
行うことを
推奨
行うことを
提案
推奨度決定不能 行わないことを
提案
行わないことを
推奨
67%
(12/18)
33%
(6/18)
0% 0% 0%

CQ5.

画像診断で肺癌を否定できない結節に,経過観察を行うことは有用か?

推 奨
高分解能CTを用いて結節の性状や肺癌の危険因子の有無に基づいて,適切な観察期間で経過観察を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:94%〕

解 説

 CT技術の進歩や普及によって,肺癌を否定できない結節が数多く検出されるようになり,その扱いをどのようにすべきかが大きな問題となっている14)~16)。高分解能CTや他の画像検査で良悪性診断が困難な結節に対し,結節の大きさや性状などの変化を経時的(月単位,年単位)に評価する方法が提案されている15)16)

 本邦では,日本CT検診学会が「低線量CTによる肺がん検診の肺結節の判定基準と経過観察の考え方」を提案しており15),その中では,高分解能CTで結節を充実型結節と部分充実型結節,すりガラス型結節に分けて,10mm未満の小さい充実型結節や15mm未満の小さい部分充実型結節,すりガラス型結節で充実部が5mm以下の結節では,決められた間隔で高分解能CTによる経過観察を行い,増大の有無に応じて経過観察や観察終了,確定診断への移行を勧めている。

 欧米でも,Fleishner Societyが,高分解能CTでの結節の性状によって充実型結節とすりガラス部分を伴う結節に分けて,大きさと肺癌の危険性の程度に応じて,CTでの経過観察やFDG-PET/CTを用いた検査法,確定診断を組み合わせた経過観察の方法をガイドラインとして提案している16)

 その他,臨床情報と画像所見を併せて肺癌の可能性を予測する試み17)や,CTによる3次元的容量測定などの定量的手法18),また経時的な腫瘍体積計測とPETを併せた所見を用いて良悪性鑑別診断を行う報告19)などがあるが,結節の大きさの測定には誤差もあり慎重な対応が求められる。

 高分解能CTによる経過観察については,上記のように国際的なガイドラインも提案されているが,その根拠となる文献のエビデンスの強さはCである。しかし,肺癌を否定できない小さい結節に対しては,広く行われている高分解能CTで低侵襲に良悪性診断が可能となるため,総合的評価では行うことを強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会
行うことを
推奨
行うことを
提案
推奨度決定不能 行わないことを
提案
行わないことを
推奨
94%
(17/18)
6%
(1/18)
0% 0% 0%
引用文献
1)
Swensen SJ, Viggiano RW, Midthun DE, et al. Lung nodule enhancement at CT: multicenter study. Radiology. 2000; 214(1): 73-80.
2)
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3)
Shan F, Zhang Z, Xing W, et al. Differentiation between malignant and benign solitary pulmonary nodules: use of volume first-pass perfusion and combined with routine computed tomography. Eur J Radiol. 2012; 81(11): 3598-605.
4)
Kono R, Fujimoto K, Terasaki H, et al. Dynamic MRI of solitary pulmonary nodules: comparison of enhancement patterns of malignant and benign small peripheral lung lesions. AJR Am J Roentgenol. 2007; 188(1): 26-36.
5)
Li B, Li Q, Chen C, et al. A systematic review and meta-analysis of the accuracy of diffusion-weighted MRI in the detection of malignant pulmonary nodules and masses. Acad Radiol. 2014; 21(1): 21-9.
6)
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7)
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8)
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9)
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10)
Zhang L, Wang Y, Lei J, et al. Dual time point 18FDG-PET/CT versus single time point 18FDG-PET/CT for the differential diagnosis of pulmonary nodules: a meta-analysis. Acta Radiol. 2013; 54(7): 770-7.
11)
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15)
特定非営利活動法人日本CT検診学会 肺がん診断基準部会編.低線量CTによる肺がん検診の肺結節の判定基準と経過観察の考え方,第5版.2017.http://www.jscts.org/pdf/guideline/gls5th201710.pdf
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