Ⅱ.治 療

2

放射線療法

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1990年1月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:malignant pleural mesothelioma AND radiotherapy
  • 委員がPubMedを用いて検索し,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,第Ⅱ相試験を中心に抽出し,総説もしくは検索時点で日本における未承認薬を用いた試験は除外した。なお,治療リスクに関する重要な文献,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
  • これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。

CQ5.

胸膜肺全摘術(EPP)の術後に片側胸郭照射を行うことは勧められるか?

推 奨
EPPの術後に片側胸郭照射を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:91%〕

解 説

 放射線治療は集学的治療の1つとして,EPP後の片側胸郭照射として用いられてきた。Memorial Sloan-Kettering Cancer Center(MSKCC)のグループは通常照射による54Gyの片側胸郭へのEPP後の照射を行い,1993~95年の55例の報告では,局所領域再発を13%に認め,4%は局所領域再発のみであったとしている1)。一方,Harvard大学のグループは低線量(30.6Gy)の片側胸郭照射を行い,局所領域再発率が高いことを報告2)3)し,1993~2008年に行われた78例の解析において,局所領域制御が約40%に上ったと報告している(局所領域再発:41%,局所領域再発のみ:19%)4)。以上から,線量増加による局所領域制御の改善の可能性が示唆される。

 2000~13年のSEERデータベースからの傾向スコアマッチング2,166例を対象とした研究では469例で術後放射線治療が行われ,術後放射線治療群で生存期間の延長がみられた。しかし,conditional survival analysisでは生存率改善は確認できなかった。この報告では,肉腫型,リンパ節転移陽性,70歳以上が予後不良因子であったとしている5)。また,Milano大学のグループは,2003~15年に三者併用療法(導入化学療法,EPP,術後放射線治療)を行った83例について,完遂率が45%と低かったが,完遂できた症例では局所制御が良好で,粗生存率も良好であったと報告している6)

 2005~12年に151例を対象として,導入化学療法+EPP後に片側胸郭照射の有無によるランダム化前向き第Ⅱ相試験(SAKK 17/04)が行われたが,片側胸郭照射の有効性を確認することはできなかった7)

 悪性胸膜中皮腫に対するEPP後の局所制御改善には片側胸郭照射は有効であるとされながらも,完遂率の低さや,生存率向上への寄与が低いことが指摘されている。ただし,いずれの報告も単施設からの後方視的観察もしくは第Ⅱ相試験であり,片側胸郭照射の可否を目的とした第Ⅲ相試験は現在のところ存在しない。

 以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
9%
(1/11)
91%
(10/11)
0% 0% 0%

CQ6.

胸膜切除/肺剝皮術(P/D)の術後または手術非適応症例に放射線療法は勧められるか?

推 奨
P/Dの術後または手術非適応症例に放射線療法を行うことを勧めるだけの根拠が明確ではない。
解 説

 MSKCCのグループは,P/D後に通常照射での片側胸郭照射(median 42.5Gy)を施行した123例について,2年全生存率23%,1年局所制御割合42%で,Grade 3以上放射線肺臓炎が10.6%(Grade 5:1例)と報告し,P/D後の片側胸郭照射は有効な治療選択肢ではないとしている8)。一方,P/D施行後および非切除例に対してIMRTを用いた片側胸郭照射を行った36症例について2年生存率がそれぞれ53%,28%であったが,Grade 3以上の放射線肺臓炎を20%(Grade 5:1例)であり実行可能と報告している9)。その後,P/D後の209例について,hemithoracic intensity-modulated pleural radiation therapy(IMPRINT)を行った131例とconventional RT(CONV)を行った78例の結果について報告している。この結果,生存期間中央値(MST)と2年生存率は,IMPRINT群で20.2カ月と42%,CONV群で12.3カ月と20%であった。KPSが高いこと,上皮型,顕微鏡的完全切除,化学療法の併用,IMPRINTの使用が生存期間延長の因子とされた。有害事象については,食道炎がIMPRINT群で有意に少ないが,Grade 2以上の放射線性肺臓炎は両群で有意差を認めなかった10)

 MD Anderson Cancer Center(MDACC)のグループは,P/D施行後,IMRTにて45Gyの片側胸郭照射を行った24症例(P/D-IMRT群)とEPP施行後にIMRTを行った24例(EPP-IMRT群)とのマッチング比較を行い,MSTは28.4カ月と14.2カ月(P=0.04)でP/D-IMRT群でやや良好で,Grade 4~5の有害事象に有意差は認めなかった(0% vs 12.5%,P=0.23)と報告している11)

 米国のNCCN12)および欧州のERS/ESTSからのガイドライン13)においても,毒性の観点からP/D後に放射線治療を行うことは推奨していない。一方,MSKCCとMDACCによるIMPRINTの前向き第Ⅱ相試験が行われ,放射線性肺臓炎については27例中Grade 2/3が8例で,Grade 4/5はみられなかった。この結果,P/D後のIMPRINTは安全で,許容できる放射線性肺臓炎発生率と結論している14)。IMPRINTの導入により有害事象の低減が期待できるようになっているが,P/D術後または手術非適応症例に対して放射線療法を行う場合には,臨床試験として行われるべきである。

 現時点では,P/D後に片側胸郭照射を行うよう勧められるだけの科学的根拠は明確ではない。

CQ7.

EPP後放射線治療として3次元原体放射線治療(3D-CRT)や強度変調放射線治療(IMRT)は勧められるか?

推 奨
EPP後放射線治療として,3D-CRTやIMRTを行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:91%〕

解 説

 EPP後の片側胸郭照射の方法としてX線と電子線を組み合わせた3次元原体放射線療法(3-dimensional conformal radiotherapy;3D-CRT)が行われてきた15)。標的体積が胸腔から腹腔を含む広範囲かつ複雑な形状を呈している片側胸郭照射の場合,強度変調放射線治療(intensity-modulated radiotherapy;IMRT)は3D-CRTよりも標的体積への線量分布の改善が期待できる16)

 EPP後に3D-CRTを行った場合に局所再発が50%に上ると報告されている15)。一方,EPP後にIMRTを用いた治療成績として,63例において照射野内再発がわずか5%と良好な成績が報告されている17)。さらに3D-CRTを施行した24例とIMRTを施行した14例の比較では,IMRT群で有意に局所再発が低かったとの報告がある(41.7% vs 14.3%,P=0.03)18)。IMRTに関するレビューでもIMRTを施行することで従来の成績を超える可能性はあるとしている19)20)。国内からの報告では,前向き第Ⅱ相試験であるJMIG0601試験の結果,三者併用療法の完遂率の低さには課題があるが,EPP後の3D-CRTは19例中17例で完遂(有害事象による中止1例)でき,術後放射線治療を行った群で生存率が良好であった21)。また,京都大学のグループはEPP後にIMRTを行った21例について,17例で完遂でき,良好な局所制御(3年局所再発率12.3%)が得られたとしている22)

 ただし,Harvard大学からのEPP後のIMRTに関する初期報告で13例中6例に致死的な放射線肺臓炎を生じ,対側健常肺への照射線量が問題とされ23),EPP後のIMRTによる有害事象として放射線肺臓炎に留意する必要がある。特に低線量域の拡大を示すパラメータを抑制することが重要であることが示された。IMRTを施行した63例の報告では6例(9.5%)の呼吸器関連死を認めており,肺のV20Gy(20Gy以上照射される肺野の体積の割合)は多変量解析にて有意な因子であったとしている24)。以上の報告から,IMRTによる放射線肺臓炎は対側健常肺への照射線量に依存する傾向にあり,MDACCのグループからは厳格な線量制約(V5Gy<60%,V20Gy<20%,MLD<8.5Gy)を守ることで肺毒性を低減できる可能性を示唆している19)

 このように胸膜中皮腫に対する術後IMRTは,局所制御やリスク臓器保護の面で期待されるものの,重篤な放射線肺臓炎などの有害事象を引き起こす可能性があるため,症例数が見込める経験のある施設またはプロトコールを確立した状態で行うべきである。

 現時点では,いずれの報告も後方視的観察もしくは第Ⅱ相試験であり,IMRTと3D-CRTを比較した第Ⅲ相試験は現在のところ存在しないことから,放射線治療の方法として3D-CRTまたはIMRTを行うことを考慮してもよい。

 以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
9%
(1/11)
91%
(10/11)
0% 0% 0%
引用文献
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