Ⅱ.治 療

4

緩和医療

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1990年1月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:malignant pleural mesothelioma AND(palliative OR palliation)
  • 委員がPubMedを用いて検索し,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,第Ⅱ相試験を中心に抽出し,総説もしくは検索時点で日本における未承認薬を用いた試験は除外した。なお,治療リスクに関する重要な文献,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
  • これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。

CQ17.

疼痛緩和目的の放射線治療は勧められるか?

推 奨
疼痛緩和目的の放射線治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:91%〕

解 説

 進行した胸膜中皮腫では,圧迫や浸潤により疼痛をきたすことが多い。緩和目的で放射線治療を施行した報告では,約60%の症例に疼痛緩和が得られたとされている1)2)。これらの報告では,主として40 Gy/20回または36 Gy/13回が用いられていた。また,単施設で189症例,227コースの緩和照射例を検討した報告で,1回線量4 Gyの症例のほうが,1回線量4 Gy未満の症例よりも緩和効果が高かった(50% vs 39%)3)。20 Gy/5回の多施設第Ⅱ相試験の報告で,35%の症例で疼痛緩和効果があったとの報告もある4)。一方,Austin Healthのグループによる報告で,45 Gy以上の高線量でGrade 3以上の重症な有害事象の発現率が3D-CRTで53%,IMRTで78%と高率に認められたとされている。緩和照射の際には,低線量で小さな範囲での照射が有用と考えられる5)

 現在のところ最適な分割方法や至適線量は不明であるが,胸膜中皮腫の疼痛に対して緩和照射は有効であり行うよう勧められる。

 以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2018年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
91%
(10/11)
9%
(1/11)
0% 0% 0%

CQ18.

症状緩和目的の胸膜癒着術は勧められるか?

推 奨
胸水制御と胸水貯留による症状の軽減を目的とした緩和療法として,薬剤による胸膜癒着術を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:73%〕

解 説

 胸膜中皮腫を臨床的に診断し得る最も早期の病態は胸水貯留であり,発見の動機になることが多い。縦隔を変位させるほど,大量に貯留することもある。胸水による症状は,労作時呼吸困難,胸部圧迫感などがある。

 胸水制御と症状軽減を目的とした胸膜癒着術は,外科治療などの積極的な治療の適応の有無にかかわらず施行することができる。硬化剤にはタルク(含水珪酸マグネシウム)またはOK432を用いる。

 タルクを用いた172人の前向き観察研究では,胸水コントロール率は3カ月時点で49%(85/172例),1年生存者においては93%(79/85例)であった6)。また,タルクによる胸膜癒着術88例とVATSによる胸膜部分切除87例とのランダム化比較試験では,1年生存率は前者が57%,後者が52%であり,1年生存者の胸水コントロール率はそれぞれ77%(27/35例)と70%(23/33例)であった。一方,合併症はそれぞれ14%と31%であり,胸水貯留のある中皮腫に対する胸膜部分切除の有用性は示されなかった7)

 以上より,胸水制御と胸水貯留による症状の軽減を目的とした緩和療法として,薬剤による胸膜癒着術を行うよう提案するが,生検を予定する場合は生検後に行うことを提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2018年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
27%
(3/11)
73%
(8/11)
0% 0% 0%
引用文献
1)
Akmansu M, Erpolat OP, Goksel F, et al. Radiotherapy applications of patients with malignant mesothelioma: A single center experience. Rep Pract Oncol Radiother. 2012; 18(2): 82-6.
2)
Jenkins P, Milliner R, Salmon C. Re-evaluating the role of palliative radiotherapy in malignant pleural mesothelioma. Eur J Cancer. 2011; 47(14): 2143-9.
3)
de Graaf-Strukowska L, van der Zee J, van Putten W, et al. Factors influencing the outcome of radiotherapy in malignant mesothelioma of the pleura--a single-institution experience with 189 patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1999; 43(3): 511-6.
4)
MacLeod N, Chalmers A, O’Rourke N, et al. Is Radiotherapy Useful for Treating Pain in Mesothelioma?: A PhaseⅡ Trial. J Thorac Oncol. 2015; 10(6): 944-50.
5)
Foroudi F, Smith JG, Putt F, et al. High-dose palliative radiotherapy for malignant pleural mesothelioma. J Med Imaging Radiat Oncol. 2017; 61: 797-803.
6)
Rena O, Boldorini R, Papalia E, et al. Persistent lung expansion after pleural talc poudrage in non-surgically resected malignant pleural mesothelioma. Ann Thorac Surg. 2015; 99(4): 1177-83.
7)
Rintoul RC, Ritchie AJ, Edwards JG, et al; MesoVATS Collaborators. Efficacy and cost of video-assisted thoracoscopic partial pleurectomy versus talc pleurodesis in patients with malignant pleural mesothelioma(MesoVATS): an open-label, randomised, controlled trial. Lancet. 2014; 384(9948): 1118-27.
このページの先頭へ