Ⅳ.転移など各病態に対する治療

4

癌性胸膜炎

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2004年12月1日から2020年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:lung cancer, pleural effusion
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは医学図書館協会,2020年版からは国際医学情報センターの協力を得てより詳細な検索を行った。2021年版改訂は,下記の検索式で2020年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2021年2月11日)
#1 “Lung Neoplasms”[Mesh]NOT “Lung Neoplasms/secondary”[Mesh]
#2 Pleurisy[Mesh]
#3 (Non-Small-Cell Lung Cancer[TIAB]OR Nonsmall Cell Lung Cancer[TIAB]OR Non Small Cell Lung Carcinoma[TIAB]OR Nonsmall-Cell Lung Carcinoma[TIAB]OR NSCLC[TIAB]OR squamous lung cancer[TIAB]OR squamous lung carcinoma[TIAB]OR lung squamous[TIAB]OR squamous cell lung[TIAB]OR pulmonary squamous[TIAB]OR squamous cell pulmonary[TIAB]OR lung adenocarcinoma[TIAB]OR pulmonary adenocarcinoma[TIAB]OR pulmonary large[TIAB]OR lung large[TIAB]OR large cell lung[TIAB]OR large cell pulmonary[TIAB]OR Small-Cell Lung Cancer[TIAB]OR Small Cell Lung Carcinoma[TIAB]OR SCLC[TIAB])AND(Pleuris[TIAB]OR Pleurit[TIAB]OR Pleuropneumonia[TIAB]OR “peripheral effusion” OR pleural effusion[Mesh]OR pleural effusion[TIAB])
#4 (#1 AND #2)OR #3
#5 #4 AND 2019/12:2020/11[DP]
#6 #5 AND(JAPANESE[LA]OR ENGLISH[LA])
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験を中心に抽出し,総説もしくは検索時点で日本における未承認薬を用いた試験は除外した。なお,治療リスクに関する重要な文献,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
  • これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。

本文中に用いた略語および用語の解説

BLM ブレオマイシン
CBDCA カルボプラチン
CDDP シスプラチン
DOXY ドキシサイクリン
ETP エトポシド
MINO ミノサイクリン
OK-432 ピシバニール
PEM ペメトレキセド
PTX パクリタキセル
Talc タルク
TC テトラサイクリン
 
PS performance status 全身状態

CQ14.

胸腔穿刺・ドレナージを行った癌性胸膜炎に対して,どのような治療が勧められるか?

推 奨
  • a.
  • 胸腔ドレナージ後の症例には,胸膜癒着術を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:A,合意率:92%〕

  • b.
  • 薬物療法未治療例には,胸膜癒着術の代わりに薬物療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:88%〕

解 説
  • a.胸膜癒着術の使用薬剤としては抗菌薬(TC,DOXY,MINOなど),抗癌薬(BLM,CDDPなど),鉱物(Talc),溶連菌製剤(OK-432)などが報告されている。

     本邦でTalcが承認される前に行われたBLM,OK-432,CDDP+ETP(PE)胸腔内投与のランダム化比較第Ⅱ相試験(JCOG9515試験)では,4週間後の胸水コントロール率は,BLM 68.6%,OK-432 75.8%,PE 70.6%であった。PEでは消化器毒性の頻度が多く,治療効果に有意差は認めなかったものの胸水コントロール率の高いOK-432が汎用される根拠となった1)

     各薬剤を比較したメタアナリシスでは,Talc噴霧法による胸水制御が良好で,BLM,DOXY,TCなどより優れていた2)。Talc噴霧法とTalc懸濁法を比較した第Ⅲ相試験では,78%と71%で胸水制御が得られ,有意差は認めなかった3)。重篤な副作用として急性呼吸促迫症候群があるが,粒子径の大きいもの(平均24.5μm)では低頻度であった(558例中0例)4)。よって,2013年に本邦でもTalc懸濁法が承認されてから,胸水制御のエビデンスのあるTalcが汎用されるようになった。胸腔ドレナージ後の胸膜癒着術は,ドレナージ単独より胸水コントロール率に優れていることがエビデンスの質の高い研究で示されている。

     以上より,エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
92%
(22/24)
8%
(2/24)
0% 0% 0%
  • b.分子標的治療薬による胸水制御を前向きに検討した報告はなかったが,日常臨床において,ドライバー遺伝子変異/転座陽性例では,胸水に対しても分子標的治療薬が有効であることはしばしば経験される。一方,胸水に対して胸膜癒着術を行わずに,細胞傷害性抗癌薬の投与を行うことが有効であると示した報告が2つある。CBDCA+PEM+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験(NEJ013A試験)では,28例の胸水コントロール率は92.9%で5),CBDCA+PTX+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験では,23例の胸水コントロール率は86.9%であった6)。前者では貧血(Grade 3以上)が25%,後者では発熱性好中球減少症が26.1%で報告され,PointBreak試験やECOG4599試験より有害事象の頻度が高い傾向にあった。また,胸膜癒着術無効の非扁平上皮非小細胞肺癌に対して,CBDCA+PTX療法またはCBDCA+PEM療法にベバシズマブの併用治療を行った第Ⅱ相試験(NEJ013B試験)では,20例の胸水コントロール率は80%であった7)

     胸膜癒着術を行わずに全身薬物療法を導入することで,長期の持続ドレナージに伴うPSの増悪や全身薬物療法導入時期の遅れを回避できる可能性がある。一方で,前述の報告はドライバー遺伝子変異/転座陽性例や扁平上皮癌を対象としておらず,限られた患者集団およびレジメンでの単群の第Ⅱ相試験であり,十分なエビデンスがあるとは言い難い。

     以上より,エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
4%
(1/24)
88%
(21/24)
8%
(2/24)
0% 0%
引用文献
1)
Yoshida K, Sugiura T, Takifuji N, et al. Randomized phase II trial of three intrapleural therapy regimens for the management of malignant pleural effusion in previously untreated non-small cell lung cancer: JCOG 9515. Lung Cancer. 2007; 58(3): 362-8.
2)
Clive AO, Jones HE, Bhatnagar R, et al. Interventions for the management of malignant pleural effusions: a network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2016; (5): CD010529.
3)
Dresler CM, Olak J, Herndon JE 2nd, et al. Phase III intergroup study of talc poudrage vs talc slurry sclerosis for malignant pleural effusion. Chest. 2005; 127(3): 909-15.
4)
Janssen JP, Collier G, Astoul P, et al. Safety of pleurodesis with talc poudrage in malignant pleural effusion: a prospective cohort study. Lancet. 2007; 369(9572): 1535-9.
5)
Usui K, Sugawara S, Nishitsuji M, et al. A phase II study of bevacizumab with carboplatin-pemetrexed in non-squamous non-small cell lung carcinoma patients with malignant pleural effusions: North East Japan Study Group Trial NEJ013A. Lung Cancer. 2016; 99: 131-6.
6)
Tamiya M, Tamiya A, Yamadori T, et al. Phase 2 study of bevacizumab with carboplatin-paclitaxel for non-small cell lung cancer with malignant pleural effusion. Med Oncol. 2013; 30(3): 676.
7)
Noro R, Kobayashi K, Usuki J, et al. Bevacizumab plus chemotherapy in nonsquamous non-small cell lung cancer patients with malignant pleural effusion uncontrolled by tube drainage or pleurodesis: a phase II study North East Japan Study group trial NEJ013B. Thorac Cancer. 2020; 11(7): 1876-84.
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