Ⅱ.治 療

2

放射線治療

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1990年1月1日から2019年12月31日
文献検索方法
  • 2018年版では委員がPubMedを用いて検索し,今回,国際医学情報センターの協力を得て以下の検索式で検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2020年3月18日)
キーワード 検索式
Malignant pleural mesothelioma, Radiotherapy
  • #1:悪性胸膜中皮腫(ヒト,言語,年代限定)
  • #2:#1×指定キーワード
  • #3:#1×EPP×片側胸郭照射
  • #4:#1×放射線×(胸膜切除/肺剝皮術,手術非適応)
  • #5:EPP×(3D-CRT,IMRT)

#2+#3+#4+#5

採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,第Ⅱ相試験を中心に抽出した。なお,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
  • これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。

CQ5.

胸膜肺全摘術(EPP)の術後に片側胸郭照射を行うことは勧められるか?

推 奨
EPPの術後に片側胸郭照射を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:85%〕

解 説

 OSと局所制御:放射線治療は集学的治療の1つとして,EPP後の片側胸郭照射として用いられてきた。MSKCCのグループは通常照射による54Gyの片側胸郭照射を試み,1995〜98年の第Ⅱ相試験では,EPPと片側胸郭照射を施行した54例において,局所領域再発(遠隔転移再発を伴うものを含む)が13%,局所領域再発のみは4%であったと報告している1)。また,1993〜2008年に治療を行った78例の後方視的解析においても,局所領域制御が約60%に上ったと報告している〔全局所領域再発(遠隔転移再発を伴うものを含む):41%,うち局所領域再発のみ:19%〕2)。一方,Harvard大学のグループは低線量(30.6Gy)の片側胸郭照射において,通常照射より局所領域再発率が高いことを報告3)4)した。これらの報告では領域や局所の定義,評価時期についての統一はなされていないものの,線量増加により局所領域制御の改善が得られる可能性が示唆される。

 なお,OSへの寄与については様々な報告がある。2000〜13年のSEERデータベースからの傾向スコアマッチング2,166例を対象とした研究では469例で術後放射線治療が行われ,術後放射線治療群でOSの延長がみられた。しかし,conditional survival analysisでは生存率改善は確認できなかった。この報告では,肉腫型,リンパ節転移陽性,70歳以上が予後不良因子であったとしている5)。同様に2004〜13年のNCDからの傾向スコアマッチング24,914例を対象とした研究では,手術単独群,術後照射群のそれぞれ454例を比較し,術後照射群で有意にOSの延長がみられた。多変量解析では,術後照射に加えて組織型(上皮型),化学療法の実施もOSを改善する有意な因子であった6)。また,Milano大学のグループは,2003〜15年に三者併用療法(導入化学療法,EPP,術後放射線治療)を行った83例について,完遂率が45%と低かったが,完遂できた症例では局所制御が良好で,粗生存率も良好であったと報告している7)。一方,2005〜12年に151例を対象として,導入化学療法+EPP後に片側胸郭照射の有無によるランダム化前向き第Ⅱ相試験(SAKK 17/04)が行われたが,OSに関して,片側胸郭照射の有効性を確認することはできなかった〔中央値:照射群20.8カ月(95%CI 14.4-27.8),非照射群19.3カ月(95%CI 11.5-21.8)〕8)。無増悪生存期間(PFS)に関しての報告は少なく,同ランダム化前向き第Ⅱ相試験において,術後照射群でわずかに改善のみられるのみであった〔中央値:照射群7.6カ月(95%CI 5.2-10.6),非照射群5.7カ月(95%CI 3.5-8.8)〕。

 安全性:悪心や倦怠感以外に重篤な有害事象の報告はみられないが,特に強度変調放射線治療(IMRT)においては,対側肺への影響が避けられないことから,放射線肺臓炎への注意が必要である(CQ7)。

 悪性胸膜中皮腫に対するEPP後の局所制御改善には片側胸郭照射は有効であるとされながらも,完遂率の低さや,生存率向上への寄与が低いことが指摘されている。ただし,いずれの報告も単施設からの後方視的観察もしくは第Ⅱ相試験であり,片側胸郭照射の可否を目的とした第Ⅲ相試験は現在のところ存在しない。

 以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価ではEPPの術後に片側胸部照射を行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2020年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
15%
(3/20)
85%
(17/20)
0% 0% 0%

CQ6.

胸膜切除/肺剝皮術(P/D)の術後または手術非適応症例に放射線治療は勧められるか?

推 奨
P/Dの術後または手術非適応症例に放射線治療を行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:74%〕

解 説

 OSと安全性:MSKCCのグループは,P/D後に通常照射での片側胸郭照射(median 42.5Gy)を施行した123例について,2年全生存率23%,1年局所制御率42%で,Grade 3以上の放射線肺臓炎が10.6%(Grade 5:1例)と報告し,P/D後の片側胸郭照射は有効な治療選択肢ではないとしている9)。一方,P/D施行後および非切除例に対してIMRTを用いた片側胸郭照射を行った36症例について2年生存率がそれぞれ53%,28%であったが,Grade 3以上の放射線肺臓炎は20%(Grade 5:1例)であり実行可能と報告している10)。その後,P/D後の209例について,hemithoracic intensity-modulated pleural radiation therapy(IMPRINT)を行った78例と3次元原体放射線治療を用いたconventional RT(CONV)を行った131例の結果について報告している。この結果,OS中央値と2年生存率は,IMPRINT群で20.2カ月と42%,CONV群で12.3カ月と20%であった。Kamofsky PSが高いこと,上皮型,顕微鏡的完全切除,化学療法の併用,IMPRINTの使用がOS延長の因子とされた。

 有害事象については,食道炎がIMPRINT群で有意に少ないが,Grade 2以上の放射線性肺臓炎は両群で有意差を認めなかった11)。MDACCのグループは,P/D施行後,IMRTにて45Gyの片側胸郭照射を行った24症例(P/D-IMRT群)とEPP施行後にIMRTを行った24例(EPP-IMRT群)とのマッチング比較を行い,OS中央値は28.4カ月と14.2カ月(P=0.04)でP/D-IMRT群でやや良好で,Grade 4〜5の有害事象に有意差は認めなかった(0% vs 12.5%,P=0.23)と報告している12)。その後,MSKCCとMDACCによるIMPRINTの前向き第Ⅱ相試験が行われ,放射線性肺臓炎については27例中Grade 2〜3が8例で,Grade 4〜5はみられなかった。この結果,P/D後のIMPRINTは安全で,許容できる放射線性肺臓炎発生率であると結論している13)

 これらの結果を受け,ASCOからのガイドライン14)においても,P/D後にIMPRINTを行うことを考慮してよいとしている。このように海外ではIMPRINTの導入により有害事象の低減が期待できるようになっているが,本邦においては効果と安全性の確認は行われておらず,P/D術後または手術非適応症例に対して放射線治療を行う場合には,十分な経験を有する施設で臨床試験として行われるべきである。

 以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では,現時点では実臨床においてP/D後に片側胸郭照射を行わないよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2020年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 0% 5%
(1/19)
74%
(14/19)
21%
(4/19)

CQ7.

EPP後放射線治療として3次元原体放射線治療(3D-CRT)や強度変調放射線治療(IMRT)は勧められるか?

推 奨
EPP後放射線治療として,3D-CRTやIMRTを行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:80%〕

解 説

 OS:EPP後の片側胸郭照射の方法としてX線と電子線を組み合わせた3次元原体放射線治療(3D-CRT)が行われてきた15)。標的体積が胸腔から腹腔を含む広範囲かつ複雑な形状を呈している片側胸郭照射の場合,強度変調放射線治療(IMRT)は3D-CRTよりも標的体積への線量分布の改善が期待できる16)

 EPP後に3D-CRTを行った35例では局所再発が37%と報告されている15)。一方,EPP後にIMRTを用いた63例の治療成績として,照射野内再発がわずか5%と良好な成績が報告されている17)。さらに3D-CRTを施行した24例とIMRTを施行した14例の比較では,IMRT群で有意に局所再発が低かったとの報告がある(41.7% vs 14.3%,P=0.03)18)。IMRTに関するレビューでもIMRTを施行することで従来の成績を超える可能性はあるとしている19)20)。国内からの報告では,前向き第Ⅱ相試験であるJMIG0601試験の結果,三者併用療法の完遂率の低さには課題があるが,EPP後の3D-CRTは19例中17例で完遂(有害事象による中止1例)でき,術後放射線治療を行った群で生存率,2年PFSが良好であった21)。また,京都大学のグループはEPP後にIMRTを行った21例について,17例で完遂でき,良好な局所制御(3年局所再発率12.3%)が得られたとしている22)

 安全性:Harvard大学からのEPP後のIMRTに関する初期報告で13例中6例に致死的な放射線肺臓炎を生じ,対側健常肺への照射線量が問題とされ23),EPP後のIMRTによる有害事象として放射線肺臓炎に留意する必要がある。特に低線量域の拡大を示すパラメータを抑制することが重要であることが示された。IMRTを施行した63例の報告では6例(9.5%)の呼吸器関連死を認めており,肺のV20Gy(20Gy以上照射される肺体積の全肺体積に対する割合)は多変量解析にて有意な因子であったとしている24)。以上の報告から,IMRTによる放射線肺臓炎は対側健常肺への照射線量に依存する傾向にあり,肺毒性低減のためにIASLCなどのグループからは厳格な線量制約(V20Gy<7%,Mean Lung Dose<8Gy)を守ることを推奨している25)

 このように胸膜中皮腫に対する術後IMRTは,局所制御やリスク臓器保護の面で期待されるものの,重篤な放射線肺臓炎などの有害事象を引き起こす可能性があるため,症例数が見込める経験のある施設またはプロトコールを確立した状態で行うべきである。

 現時点では,いずれの報告も後方視的観察もしくは第Ⅱ相試験であり,IMRTと3D-CRTを比較した第Ⅲ相試験は現在のところ存在しないことから,放射線治療の方法として3D-CRTまたはIMRTを行うことを考慮してもよい。

 以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではEPP術後放射線治療として,3D-CRTやIMRTを行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2020年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
15%
(3/20)
80%
(16/20)
0% 5%
(1/20)
0%
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