Ⅰ.診 断

1

画像診断

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1990年1月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:Malignant pleural mesothelioma, Diagnosis, CT, MRI, FDG-PET
  • 委員がPubMedを用いて検索し,国際医学情報センターの協力を得て以下の検索式で検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2021年1月11日)
悪性胸膜中皮腫×診断×(CT,MRI,FDG-PET)
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,第Ⅱ相試験を中心に抽出した。なお,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
  • これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。

本文中に用いた略語および用語の解説

SUV standardized uptake value

CQ1.

胸膜中皮腫の存在診断に,
a.胸部造影CT
b.胸部単純/造影CT+胸部MRI
c.胸部単純/造影CT+FDG-PET/CT
は勧められるか?

推 奨
  • a.
  • 胸膜中皮腫の存在診断に,胸部造影CTを行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

  • b.
  • 胸膜中皮腫の存在診断に,胸部単純/造影CTに加え胸部MRIを
    行わない
    ことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:85%〕

  • c.
  • 胸膜中皮腫の存在診断に,胸部単純/造影CTに加えFDG-PET/CTを
    行わない
    ことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:65%〕

解 説
  • a.胸膜中皮腫の患者を対象に単純CTに対する造影CTの有用性を検討した比較試験はない。

     存在診断時には,胸膜不整所見の有無が重要な所見となるが,造影剤を使用することにより胸膜不整のより詳細な描出が可能となる1)2)

     胸膜中皮腫が存在する際には血性胸水を伴うことが多く,漏出性胸水に比し高吸収化する。その場合単純CTのみでは,胸膜と胸水のコントラストが付きづらい場合がある。造影剤を使用することにより中皮腫病変は造影され,より詳細な胸膜所見の描出が可能となる3)

     また胸膜プラークが同時に存在する場合に中皮腫は造影効果を有するのに対し,胸膜プラークは造影効果を認めず,その鑑別が容易となる4)

     以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではCT撮像時に造影剤を使用することを強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(20/20)
0% 0% 0% 0%
  • b.胸膜中皮腫の患者を対象に存在診断に関する単純/造影CTに対するMRIの有用性を検討した比較試験はない。また,MRIは常にCTに付加する情報が得られるわけではなく,実臨床において多くの施設で存在診断のためにルーチンに用いられていない5)

     以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では胸膜中皮腫の存在診断において胸部単純/造影CTに加えMRIを行わないことを強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 5%
(1/20)
0% 10%
(2/20)
85%
(17/20)
  • c.FDG-PETは局所浸潤の評価には向かないが,無症状あるいは他の画像診断で発見されていない胸郭外遠隔転移の検出に優れており6)~9),実臨床において多くの施設で使用されている。また,病変の存在診断において有用な症例が経験されることはあるが,胸膜中皮腫の患者を対象に存在診断に関するCT,MRIに対するFDG-PET/CTの有用性を検討した比較試験はない。

     以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では胸膜中皮腫の存在診断において胸部単純/造影CTに加えFDG-PET/CTを行わないことを強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
20%
(4/20)
0% 0% 15%
(3/20)
65%
(13/20)

CQ2.

胸膜病変の良悪性の鑑別に,
a.胸部造影CT
b.胸部単純/造影CT+胸部MRI
c.胸部単純/造影CT+FDG-PET/CT
は勧められるか?

推 奨
  • a.
  • 胸膜病変の良悪性の鑑別に,胸部造影CTを行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:70%〕

  • b.
  • 胸膜病変の良悪性の鑑別に,胸部単純/造影CTに加えMRIを
    行わない
    ことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:60%〕

  • c.
  • 胸膜病変の良悪性の鑑別に,胸部単純/造影CTに加えFDG-PET/CTを
    行わない
    ことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:75%〕

解 説
  • a.胸膜中皮腫において胸水貯留と胸膜肥厚が高頻度に認められる所見である10)11)。早期の胸膜中皮腫では,胸水貯留のみか,胸膜肥厚はあっても軽微であり,縦隔側や葉間の胸膜不整像に注目する必要がある12)

     典型例では,①肺を取り囲む全周性の胸膜肥厚(pleural rind)がみられる。さらに,②結節状の胸膜肥厚,③厚さが1cmを越える胸膜肥厚,④縦隔胸膜の肥厚,を加えた4つの所見が胸膜病変の良悪性の鑑別に重要であり,感度はそれぞれ41%,51%,36%,56%であり,特異度はそれぞれ100%,94%,94%,88%と報告されている13)。また,これらの1つないし複数の所見がある場合,悪性病変である可能性が極めて高い14)。しかし,胸膜中皮腫と転移性胸膜腫瘍の画像所見にはオーバーラップがみられ,鑑別は困難である。胸膜中皮腫は,単発や多発の胸膜腫瘤,縦隔腫瘍や胸壁腫瘍類似の所見を呈することもある。

     以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では胸膜病変の良悪性の鑑別に,胸部造影CTを行うことを強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
70%
(14/20)
5%
(1/20)
5%
(1/20)
5%
(1/20)
15%
(3/20)
  • b.胸膜病変の良悪性の鑑別においては,MRIによる病変の信号強度15)16)や造影剤を用いたT1強調画像の所見4)17),拡散強調画像18)が有用であるとする報告がある。しかし,MRIは常にCTに付加する情報が得られるわけではなく,実臨床において多くの施設で胸膜病変の良悪性の鑑別にルーチンに用いられていない5)

     以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では胸膜病変の良悪性の鑑別に,胸部単純/造影CTに加えMRIを行わないことを強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
5%
(1/20)
15%
(3/20)
10%
(2/20)
10%
(2/20)
60%
(12/20)
  • c.FDG-PETは,胸膜病変の良悪性の鑑別においてもその有用性が報告されている19)~21)。多時相で,定量評価として用いられているSUVを計測する方法において,悪性病変では遅延相での集積の増加が認められる20)21)。しかし,半定量的評価によるFDG-PET/CTの診断能は中等度であり,鑑別のためのルーチンの検査としては推奨できないとするメタアナリシスの論文がある22)

     以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では胸膜病変の良悪性の鑑別に,胸部単純/造影CTに加えFDG-PET/CTを行わないことを強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
5%
(1/20)
5%
(1/20)
0% 15%
(3/20)
75%
(15/20)
引用文献
1)
Hooper C, Lee YC, Maskell N. Investigation of a unilateral pleural effusion in adults:British Thoracic Society Pleural Disease Guideline 2010. Thorax. 2010;65 Suppl 2:ii4-17.
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3)
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4)
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5)
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