臨床病期(ステージ)Ⅰ期から一部のⅢ期の患者さんでは外科治療(手術)が中心になりますが,手術だけではがんを抑えることが難しいことがあります。とくに病期が進んだ患者さんでは,手術単独では治療の効果が必ずしも高くないので,手術の前に薬物療法や放射線療法を加えて,治療効果を高める導入療法を行うことが検討されます。
臨床病期(ステージ)で一部のⅡ期,Ⅲ期の患者さんに対しては手術を先行し,切除後の病理病期を確認して,術後補助療法を行うこともありますが(手術後の追加治療についてはQ59参照),手術前に薬物療法(細胞傷害性抗がん薬あるいは細胞傷害性抗がん薬+免疫チェックポイント阻害薬 )による治療,あるいは細胞傷害性抗がん薬による化学療法と放射線療法の両方を行う「導入療法(ネオアジュバント療法)」が検討されることもあります。
導入療法を行う場合があるのは,一部の臨床病期Ⅱ期,Ⅲ期の患者さんです。手術前に薬物療法を加えることで,腫瘍の縮小効果により完全切除率(完全に切除できる確率)の向上や肺全摘(片肺を全て取ってしまう手術)の回避,顕微鏡的なわずかな転移(微小遠隔転移)の制御などが期待される一方で,導入療法が効かない場合は手術のタイミングを逃してしまったり,治療による副作用により手術の延期や中止を余儀なくされるおそれもあります。
導入療法には従来,細胞傷害性抗がん薬もしくは細胞傷害性抗がん薬と放射線治療を組み合わせる方法が用いられてきましたが,2023年からは免疫チェックポイント阻害薬と細胞傷害性抗がん薬を組み合わせた導入療法ができるようになりました。導入療法として細胞傷害性抗がん薬と免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブを追加する群と,細胞傷害性抗がん薬のみを行う方法を比較した臨床試験(CheckMate 816試験)において,ニボルマブを追加する群でより悪化・再発のない生存期間の有意な延長が認められました。特に臨床病期Ⅲ期,PD‒L1タンパクが高発現の患者さんで効果が高いことが報告されています。ただし,手術前に導入療法を行うべきか否かは同じような臨床病期であっても肺がんの病状(病期やPD-L1タンパクの発現率,EGFR遺伝子変異の有無等)や患者さんの状況などによっても異なる可能性があり,メリット・デメリットを考慮して患者さんごとに十分に検討されるべきですので,担当医とよく相談して決めるのがよいでしょう。