Ⅰ.診 断

3

病理診断

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1990年1月1日から2021年11月30日
文献検索方法
  • キーワード:Malignant pleural mesothelioma, Pathology, Cytology, Pathophysiology, Frozen diagnosis, Pleural effusion, Classification, Epithelioid mesothelioma, Reactive mesothelium, Differential diagnosis, Desmoplastic mesothelioma, Fibrous pleuritis, Sarcomatoid mesothelioma, Pulmonary sarcomatoid carcinoma, Synovial sarcoma, p16, CDKN2A, BAP1, MTAP, SS18-SSX, Mesothelioma in situ
  • 国際医学情報センターの協力を得て以下の検索式で検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
検索式(検索日:2022年1月11日)
#1 悪性胸膜中皮腫
#2 #1×(PATHOLOGY,CYLOTOGY,PATHOPHYSIOLOGY)
#3 #1×胸水分類
#4 #1×線維形成性中皮腫×線維性胸膜炎
#5 #1×(MESOTHELIOMA IN SITU,上皮型中皮腫×反応性上皮過形成)
#6 #1×肉腫型中皮腫×(滑膜肉腫,肺肉腫様癌)
#7 #1×鑑別診断×(線維形成性中皮腫,線維性胸膜炎,上皮型中皮腫,反応性上皮過形成,肉腫型中皮腫,肺肉腫様癌,滑膜肉腫)
#8 #1×(BAP1,CDKN2A,p16,FISH,MTAP,SS18-SSX,MESOTHELIOMA IN SITU)
#2~#8
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,第Ⅱ相試験を中心に抽出した。
  • これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。

本文中に用いた略語および用語の解説

BAP1 BRCA1 associated protein-1
FISH fluorescence in situ hybridization 蛍光in situ ハイブリダイゼーション
HE Hematoxylin-Eosin ヘマトキシリン・エオジン
IHC immunohistochemistry 免疫組織化学
MTAP methylthioadenosine phosphorylase
MIS mesothelioma in situ 前浸潤性中皮腫
RT-PCR reverse transcription-polymerase chain reaction 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
 
ASCO American Society of Clinical Oncology
BTS British Thoracic Society
IMIG International Mesothelioma Interest Group

CQ6.

胸水・心嚢水が貯留している場合に,体腔液細胞診にBAP1,MTAP免疫染色を併用することは勧められるか?

推 奨
BAP1,MTAP免疫染色を行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:B,合意率:70%〕

解 説

 現時点での臨床的ガイドラインでは最終的には生検組織による診断を推奨しているが,近年発達してきた遺伝子変異に基づいた補助アッセイ〔BAP1免疫染色(IHC),MTAP IHC,CDKN2A/p16 FISHなど〕を用いることによって,上皮型および二相型にかぎり,パパニコロウ染色のみによる診断と比較して診断率は1.5~2.4倍(診断率:74~89%)に上昇すると報告されており1)2),その有用性が認められてきている。

 診断率:細胞診による中皮腫の確定診断には従来より議論のあるところであるが,前述のごとく状況は変化してきている。細胞診による中皮腫の形態学的criteriaを明確にしたIMIG細胞診ガイドライン3)の筆頭著者Hjerpeらによると,カロリンスカ大学病院での10年の経験では,76例の体腔液細胞診の62%(47例)で中皮腫と確定診断がなされ,中皮腫疑いを含めると79%であった4)。この診断率の数値は決して高いものではないが,米国・カナダの55施設での調査では約2/3の施設で体腔液検体から最終診断が行われている現状が報告されている5)。近年では中皮腫の遺伝子変異に基づく新たな診断アッセイの進歩があり,免染によるBAP1 lossあるいはMTAP loss(FISHによるCDKN2A/p16遺伝子のホモ欠失検出の代替アッセイ)の検出によって,組織とほぼ同様にセルブロックでも70~90%の症例で増殖する中皮細胞の良悪性の判定が可能となっている1)2)6)~11)。日本からの14文献を含む65文献のメタアナリシスにて,集積感度/特異度はBAP1 loss(0.41-0.86/0.86-1.00),MTAP loss(0.23-0.76/0.93-1.00),BAP1+MTAPの集積感度も0.7-0.85と報告されている12)。また,細胞診のみで中皮腫と診断された症例と,組織診で上皮型中皮腫と診断された症例では,その後の治療を含めて予後に差がないことが示されている13)

 しかし,2018年に発表されたASCOのガイドラインによると,体腔液を認めて症状がある場合には,体腔液細胞診を行うべきであるが,化学療法が行われる場合は,胸腔鏡により生検を行うことが強く推奨されると記載されている14)。2018年のBTSのガイドラインによると,中皮腫において体腔液細胞診で診断できる割合は16~73%と幅があり,これは細胞診診断医の経験に依存するとされている。しかし,施設によっては,セルブロックでCDKN2Aのホモ接合性欠失を検討しており,このことにより診断精度が向上すると記載されている15)。2018年発表のIMIG中皮腫病理診断ガイドライン2017 updateにおいても,細胞診による診断には議論があるところだとしながらも,塗抹標本あるいはセルブロックに免疫染色と分子生物学的技法を加えることにより診断精度が向上すると記載されている16)。最新のWHO 2021分類では,細胞診によって浸潤は確認することはできないが,補助アッセイ(BAP1 IHC,MTAP IHC,CDKN2A FISH)によって良性胸水との鑑別を助けるだろうと記載され,さらにBAP1 IHC,MTAP IHCは内在性陽性コントロールが存在するところで評価すべきだと追記されている17)

 以上より,体腔液が貯留している場合はBAP1,MTAP免疫染色を併用して体腔液細胞診を行うことを推奨する。したがって,エビデンスの強さはB,総合的評価ではBAP1,MTAP免疫染色を行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
70%
(14/20)
25%
(5/20)
5%
(1/20)
0% 0%

CQ7.

上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別診断にBAP1免疫染色,MTAP免疫染色,CDKN2A FISHは勧められるか?

推 奨
BAP1免疫染色,MTAP免疫染色,CDKN2A FISHを行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:B,合意率:80%〕

解 説

 上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別診断に関して,HEのみによる診断と診断率を比較検討した試験はないが,遺伝子変異に基づいた補助アッセイ(BAP1 IHC,MTAP IHC,CDKN2A FISHなど)の施行によって診断精度の上昇が報告されている。

 診断率:組織学的に,上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別は,腫瘍細胞による壁側胸膜・胸壁の脂肪組織や骨格筋層への浸潤または臓側胸膜・肺への浸潤が確認された場合にのみ可能だとされてきた。両者の細胞異型の程度は時に類似し,過形成においても表層部では間質浸潤様所見を呈し得るからである。しかし,近年の分子生物学的検討から,FISHによるCDKN2A遺伝子のホモ接合性欠失の検出と,免疫染色によるBAP1蛋白の核からの消失(BAP1 loss)の検出は,上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別において特異度100%であることが確認された10)16)18)19)。CDKN2A FISHの代替アッセイとして,免疫染色によるMTAP蛋白の細胞質からの消失(MTAP loss)の検出も有用であることが確認された20)~23)。これらの新たなアッセイの併用は両者の鑑別における診断率を上げ,日常診療に有用である17)18)20)22)~24)。WHO 2021分類において中皮腫のdesirable criteriaとしても記載されている。

 以上より,上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別診断には,脂肪組織への浸潤あるいはBAP1 loss,MTAP loss,CDKN2A/p16のホモ接合性欠失を確認するよう推奨する。したがって,エビデンスの強さはB,また総合的評価ではBAP1およびMTAP免疫染色,CDKN2A FISHを行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
80%
(16/20)
15%
(3/20)
5%
(1/20)
0% 0%

CQ8.

前浸潤性中皮腫(mesothelioma in situ)の診断にBAP1,MTAP免疫染色は勧められるか?

推 奨
BAP1,MTAP免疫染色を行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:60%〕

解 説

 前浸潤性中皮腫(mesothelioma in situ;MIS)という概念は1990年代にHenderson,Whitaker等によって提唱された。しかし当時は反応性中皮過形成との組織学的鑑別が困難であったため,明らかな浸潤性中皮腫が存在し,その一部に胸膜表面を覆う一層の中皮細胞の増殖が認められる際に,その部分をMISと捉えるとされていた25)。これに対しては当然ながら浸潤性中皮腫の一部が胸膜表面に進展したものではないかとの疑問もあった。ところが最近,CQ67で記載のごとく遺伝子変異に基づいた補助アッセイ(BAP1 loss,MTAP loss,CDKN2Aホモ欠失の検出)の発達によって,浸潤性病変がなく,胸膜の表面を一層の中皮細胞にて覆われる病変においても,その腫瘍性を確認することが可能となった。そこでChurgらは新たなMISの診断基準(①表面を覆う一層の中皮細胞にBAP1 lossが認められ,②生検の時点で画像的にも胸腔鏡的にも腫瘍の存在を示唆する所見は認められず,③生検後少なくとも1年は浸潤性腫瘍が生じてこないもの)を提唱した26)。これを受けてWHO 2021分類では初めてMISを良性・前浸潤性中皮腫瘍の1つとして記載した。その定義は「腫瘍性中皮細胞の胸膜表面における一層の浸潤を伴わない増殖(前浸潤性増殖)」で,診断のための必須項目として,(ⅰ)繰り返す胸水貯留,(ⅱ)胸腔鏡/画像にて腫瘤性病変を認めない,(ⅲ)胸膜表面の一層の中皮細胞(細胞異型の有無は問わず),(ⅳ)組織学的に浸潤性増殖の欠如,(ⅴ)免疫染色によるBAP1 loss,MTAP loss,FISHによるCDKN2Aホモ欠失のいずれかを認める,(ⅵ)分野の異なる専門家の合議による診断,を挙げている17)。病理診断のためには胸腔鏡下に得られた大きな生検組織(理想的には100~200mm2)での評価が望ましいとされている。

 診断率:現時点ではMISに関する報告は,症例集積研究2報と症例報告数報のみで,HEのみでの診断とBAP1,MTAP免疫染色を用いた診断との比較を行ったものはないが,いずれもChurgらあるいはWHO 2021の診断基準に従って,BAP1 loss,MTAP loss,CDKN2Aホモ接合性欠失のいずれかを呈している26)~31)。FISH設備を有しない通常の施設においては,免疫染色によって判定可能なBAP1 loss,MTAP lossが有用と考えられる。

 以上より,MISの診断には,BAP1 loss,MTAP lossの確認を行うように推奨する。したがって,エビデンスの強さはC,総合的評価ではBAP1,MTAP免疫染色を行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
60%
(12/20)
25%
(5/20)
10%
(2/20)
0% 5%
(1/20)

CQ9.

線維形成性中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別診断にCDKN2A FISHは勧められるか?

推 奨
CDKN2A FISHを行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:85%〕

解 説

 HE標本における線維形成性中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別に関して直接的に診断率をみたものはないが,IMIG中皮腫病理診断ガイドライン2017 update16)には組織学的鑑別に関して以下のごとく記載されている。「線維形成性中皮腫は,密な膠原線維性組織とその線維間に疎に存在する紡錘形の中皮腫細胞が特徴である。異型はあっても弱いのが一般的で,線維性胸膜炎では核がやや腫大した紡錘形の反応性中皮細胞を伴うことが多いので,鑑別が難しい。胸膜炎ではzonationと呼ばれる所見〔胸膜の胸腔側では肉芽組織形成を伴って細胞密度が高く,深部(胸壁側)にいくにしたがって線維化が優勢となり細胞密度が低くなる〕が特徴的だが,線維形成性中皮腫では認められない。また,胸膜炎では特に胸腔側で,毛細血管の発達がよく,胸膜表面に対して直交するように増生するが,線維形成性中皮腫では毛細血管の増生はさほど目立たない。一方で,線維形成性中皮腫では一部に細胞密度の高い部分が結節様に認められることがあるが(cellular stromal nodules),胸膜炎ではみられない。また,脂肪組織まで浸潤する紡錘形中皮細胞が認められれば,線維形成性中皮腫の診断を支持する。」WHO 2021にも同様の記載があるが,さらに鑑別の困難な症例では補助アッセイが有用だと記載されている17)。補助アッセイの項には,BAP1 lossは上皮型中皮腫で多く認められ,肉腫型中皮腫では80%以上の症例でCDKN2Aホモ接合性欠失が認められると記されている。

 診断率:HE所見との診断率に関する比較試験はないが,線維性胸膜炎との鑑別におけるFISHによるCDKN2Aホモ接合性欠失検出の有用性を指摘した論文はみられる。線維形成性中皮腫を含む肉腫型中皮腫においてはCDKN2Aのホモ接合性欠失が高頻度(80~100%)に認められるが,線維性胸膜炎では認められず(特異度100%),両者の鑑別にCDKN2A FISHは有用である16)17)32)~35)

 以上より,線維形成性中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別診断には,組織学的鑑別に加えてCDKN2Aホモ接合性欠失の確認を行うことを推奨する。エビデンスの強さはC,総合的評価ではCDKN2A FISHを行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
85%
(17/20)
10%
(2/20)
5%
(1/20)
0% 0%

CQ10.

肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌との鑑別診断には補助診断のみならず画像情報も含めた総合的判断が勧められるか?

推 奨
  • a.
  • 補助診断を行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:65%〕

  • b.
  • 画像情報を含めて総合的判断を行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:85%〕

解 説
  • a.肉腫型中皮腫と肉腫様癌は組織像が類似しているため,病理所見だけで診断することはできず,免疫染色で検討する必要がある。サイトケラチンが陽性で,中皮マーカーが2種以上陽性,癌腫マーカーが2種以上陰性ならば肉腫型中皮腫と診断する36)。GATA3は肉腫型中皮腫の100%(19/19)および肺肉腫様癌の15%(2/13)で陽性37),MUC4は肉腫型中皮腫の0%(0/31)および肺肉腫様癌の72%(21/29)で陽性38)と報告された。その後の報告では,肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌においてGATA3とMUC4の感度にばらつきがみられるものの39)~41),GATA3とMUC4は両者の鑑別に応用できる可能性がある。上皮マーカーであるclaudin-4,MOC-31,Ber-EP4は,肺肉腫様癌で陽性になることがあるが,肉腫型中皮腫では陰性であり42),これらが陽性の場合は肉腫型中皮腫を排除できる可能性がある。一方,肺肉腫様癌における感度は低く(24~38%),その57%(12/21)はすべてが陰性であるため,陰性の場合は両者を鑑別することは難しい。MTAP lossは,肉腫型中皮腫と肉腫様癌において同程度の頻度で検出されるため,MTAP lossの検討は両者の鑑別に役立たない43)。肉腫様癌はBAP1 retainedであるが,BAP1 lossを示す肉腫型中皮腫は極めて少ないため,BAP1 lossの検討は両者の鑑別に役立つとはいえない43)

     診断率:GATA3は肉腫型中皮腫の100%(19/19)37),70.6%(12/17)39),73%(29/40)40),98%(63/64)41)が陽性,肺肉腫様癌の15%(2/13)37),16.7%(2/12)39),47%(15/32)41)が陽性である。MUC4は肉腫型中皮腫の0%(0/31)38),3%(2/64)41)が陽性,肺肉腫様癌の72%(21/29)38),38%(12/32)41)が陽性である。claudin-4,MOC-31,Ber-EP4は,すべての肉腫型中皮腫(31例)が陰性であるが,肺肉腫様癌ではclaudin-4は33%(7/21),MOC-31は38%(8/21),Ber-EP4は24%(5/21)に陽性を認める42)。MTAP lossは,肉腫型中皮腫の61%(38/62),肉腫様癌の50%(17/34)が陽性である43)。すべての肉腫様癌(34例)はBAP1 retainedであるが,肉腫型中皮腫の10%(6/62)にしかBAP1 lossを認めない43)

  • b.免疫染色において,CAM5.2,CK AE1/AE3などのサイトケラチンが陽性で,中皮マーカー,癌腫マーカーのいずれも陰性である場合,肉腫型中皮腫と肉腫様癌の鑑別はできない。免疫染色や分子生物学的検討を行っても肉腫型中皮腫と肉腫様癌の鑑別ができない場合,臨床情報,画像情報を含めて総合的判断を行うことが重要である。

     診断率:臨床情報,画像所見などの情報の有無による肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌の鑑別診断における診断率を算出した論文はないが,WHO2021分類17)や欧米の中皮腫ガイドライン36)には,臨床情報,画像所見を含めて総合的判断を行うことの重要性が記載されている。びまん性に胸膜が肥厚し病変の主座が胸膜にあれば肉腫型中皮腫,限局性腫瘤であり肺内にあれば肉腫様癌の可能性がある17)

     よって,肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌との鑑別診断には,補助診断のみならず画像情報も含めた総合的判断が推奨される。

     以上より,肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌との鑑別診断には,推奨aについてはエビデンスの強さはD,総合的評価では補助診断を行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。推奨bについてはエビデンスの強さはD,総合的評価では画像情報を含めて総合的判断を行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
a 65%
(13/20)
25%
(5/20)
10%
(2/20)
0% 0%
b 85%
(17/20)
10%
(2/20)
5%
(1/20)
0% 0%

CQ11.

肉腫型中皮腫と滑膜肉腫との鑑別診断にSS18-SSX融合遺伝子検索は勧められるか?

推 奨
SS18-SSX融合遺伝子検索を行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:B,合意率:85%〕

解 説

 滑膜肉腫は,特異的な染色体相互転座t(x;18)(p11.2;q11.2)によってSS18-SSX融合遺伝子を形成する間葉系紡錘形細胞肉腫である。胸膜に生じるものは単相型が多く,その組織学的パターンは肉腫型中皮腫と時に類似し,免疫組織化学における染色性(免疫形質)にも共通点が多い。滑膜肉腫の診断ではSS18-SSX融合遺伝子を確認することがゴールドスタンダードであり,その検出にはFISHまたはRT-PCRが用いられているが44)45),FISHを行える施設が限られることやRNAが分解しやすいなどの問題があった。最近,一般の医療機関においても利用しやすいSS18-SSX融合遺伝子産物(SS18-SSX蛋白)を検出する免疫染色が開発された46)。文献検索で収集された論文にはSS18-SSX免疫染色に合致するものは含まれなかったが,ハンドサーチによりSS18-SSX免疫染色に関する重要な論文(4編)が見出されたので文献に追加した46)~49)

 診断率:肉腫型中皮腫と滑膜肉腫の鑑別診断における診断率を直接検討した試験はないが,滑膜肉腫の診断におけるSS18-SSX融合遺伝子の有用性を指摘した論文は報告されている。滑膜肉腫ではFISHあるいはRT-PCRによりSS18-SSX融合遺伝子を高頻度(97.5~100%)に認めるが44)45),肉腫型中皮腫ではRT-PCRによりSS18-SSX融合遺伝子は認められず(特異度100%)50),両者の鑑別にSS18-SSX融合遺伝子の検索が有用と考えられる。また,滑膜肉腫では免疫染色によりSS18-SSX蛋白を高頻度(87~95%)に認めるが46)~49),肉腫型中皮腫ではSS18-SSX蛋白は認められず(特異度100%)46)47),両者の鑑別にSS18-SSX融合遺伝子産物(SS18-SSX蛋白)の検索が有用と考えられる。36例の滑膜肉腫の検討において,SS18-SSX免疫染色とSS18-FISHの結果に相関が認められている49)

 以上より,肉腫型中皮腫と滑膜肉腫の鑑別診断にはSS18-SSX融合遺伝子検索を行うことを推奨する。エビデンスの強さはB,総合的評価では上記融合遺伝子検索を行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2名含む)/実施年度:2022年
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
85%
(17/20)
10%
(2/20)
5%
(1/20)
0% 0%
引用文献
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