Ⅳ.転移など各病態に対する治療
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Oligometastatic disease(オリゴ転移)
文献検索と採択
- 文献検索期間
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- 2010年1月1日から2023年11月30日
- 文献検索方法
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- キーワード:oligometasta, lung neoplasm, radiation therapy
- 委員がPubMedを用いて検索し,国際医学情報センターの協力を得てより詳細な検索を行った。2024年版改訂は,下記の検索式で2023年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
- 検索式(検索日:2023年12月28日)
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#1 S LUNG NEOPLASMS+NT/CT OR (LUNG OR PULMONARY)(3A)(ADENOCARCINOM? OR CARCINOM? OR CANCER? OR TUMOR? OR TUMOUR?) #2 S OLIGOMETASTA? OR OLIGO(W)METASTA? #3 S #1 AND #2 #4 S #3 NOT LUNG NEOPLASMS+NT/CT(L)SC/CT #5 S #4 AND ENGLISH/LA AND (2022-2024)/PY AND (20221201-20231130)/UP #6 S #5 AND (META-ANALYSIS/DT OR META-ANALYSIS AS TOPIC+NT/CT OR (METAANALYSIS OR META(W)ANALYSIS)/TI,AB) #7 S #5 AND (SYSTEMATIC REVIEW/DT OR SYSTEMATIC REVIEWS AS TOPIC+NT/CT OR SYSTEMATIC(W)REVIEW?/TI,AB) #8 S #5 AND (PRACTICE GUIDELINE/DT OR PRACTICE GUIDELINES AS TOPIC+NT/CT OR CONSENSUS+NT/CT OR CONSENSUS DEVELOPMENT CONFERENCES AS TOPIC+NT/CT OR CONSENSUS DEVELOPMENT CONFERENCE/DT OR (GUIDELINE? OR CONSENSUS?)/TI) #9 S #5 AND (RANDOMIZED CONTROLLED TRIAL?/DT OR PRAGMATIC CLINICAL TRIAL/DT OR EQUIVALENCE TRIAL/DT OR RANDOMIZED CONTROLLED TRIALS AS TOPIC+NT/CT OR (RANDOM?/TI,AB NOT MEDLINE/FS)) #10 S #5 AND (CLINICAL TRIAL/DT OR CLINICAL STUDY/DT OR CLINICAL TRIALS AS TOPIC+NT/CT OR CLINICAL(W)(TRIAL? OR STUD?) OR (CASE(W)(CONTROL? OR COMPARISON?)/TI,AB NOT MEDLINE/FS)) #11 S #5 AND (EPIDEMIOLOGIC STUDIES+NT/CT OR EPIDEMIOLOGIC RESEARCH DESIGN+NT/CT OR COMPARATIVE STUDY/DT OR MULTICENTER STUDY/DT OR MULTICENTER STUDIES AS TOPIC+NT/CT OR ((COHORT? OR COMPARATIVE? OR FOLLOWUP OR FOLLOW(W)UP OR MULTICENTER?)(3W)STUD?/TI,AB NOT MEDLINE/FS)) #12 S(#6 OR #7 OR #8 OR #9 OR #10 OR #11) #13 S #12/HUMAN OR (#12 NOT ANIMALS/CT)
- 採択方法
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- 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験を中心に抽出し,総説もしくは検索時点で本邦における未承認薬を用いた試験は除外した。なお,治療リスクに関する重要な文献,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
- これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。
本文中に用いた略語および用語の解説
ALK | anaplastic lymphoma kinase | 未分化リンパ腫キナーゼ |
---|---|---|
EGFR | epidermal growth factor receptor | 上皮成長因子受容体 |
HR | hazard ratio | ハザード比 |
OS | overall survival | 全生存期間 |
PFS | progression free survival | 無増悪生存期間 |
QOL | quality of life | 生活の質 |
SBRT | stereotactic body radiation therapy | 体幹部定位放射線治療 |
CQ16.
Ⅳ期非小細胞肺癌に対し,局所治療を追加することは勧められるか?
- 推 奨
- 転移臓器・転移個数が限られているsynchronous oligometastatic diseaseで,薬物療法により病勢が安定している場合,局所治療の追加を行うよう弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C〕
少数の転移性病変(oligometastatic disease)を有するⅣ期非小細胞肺癌に対する局所治療の追加に関して,いくつかのランダム化比較第Ⅱ相試験の報告がある。それらの報告では,原発の診断から6カ月以内にoligometastatic diseaseと診断されたsynchronous oligometastatic diseaseが主な対象である。すなわち,臓器数・転移個数が限定されており,病変が限局しない転移様式(癌性胸膜炎・心膜炎,癌性リンパ管症,髄膜癌腫症など)は除外された。
初回化学療法後3カ月間増悪のない,3個以下の転移病変を有する非小細胞肺癌患者を対象に,維持薬物療法に対する局所治療(切除もしくは放射線治療)の追加を比較したランダム化第Ⅱ相試験が行われた。ランダム化された49例の中間解析において,PFSのHRが0.35(90%CI 0.18-0.66,P=0.005,中央値:11.9カ月 vs 3.9カ月)と,局所治療群で有意に延長することが示された1)。その後の長期フォローの報告では,OS中央値41.2カ月 vs 17.0カ月であり,局所治療群で良好な傾向であった。有害事象については両群で同様であった2)。
プラチナ製剤併用療法4~6サイクル後に病変が安定しており,EGFR遺伝子変異/ALK融合遺伝子のない,5個までの転移巣(肝転移,肺転移は3個以下)を有する非小細胞肺癌を対象に,維持薬物療法に対する体幹部定位放射線治療(SBRT)の追加を比較した単施設ランダム化第Ⅱ相試験が行われた。29例が登録され,中間解析においてPFSはHR 0.30(95%CI 0.11-0.82,P=0.01,中央値:9.7カ月 vs 3.5カ月)と,局所治療群で有意な延長を認めた。有害事象は両群で同様であった3)。
非小細胞肺癌を含む固形癌を対象にしたランダム化第Ⅱ相試験(SABR-COMET試験)では,3カ月以上薬物療法で制御されている,原発を含む5個以下の転移病変を有する症例に対して,維持療法に対するSBRTの追加効果が評価された。この試験では,非小細胞肺癌が18%含まれていた。ランダム化された99例において,主要評価項目であるOSはHR 0.57(95%CI 0.30-1.10,P=0.090,中央値:41カ月 vs 28カ月)であり,有意な延長を認めた4)。OSの更新された報告では,HR 0.50(95%CI 0.30-0.84)であり,8年OS率は27.2% vs 13.6%であった5)。Grade 2以上の有害事象は,SBRT群で19例(29%)と維持療法群3例(9%)と比較し有意に多く,治療関連死はSBRT群では3例(4.5%)に認められ,維持療法群では認められなかった4)。長期報告でも新たに出現したGrade 3以上の有害事象はなかった5)。またQOLに関しては,両群間に差を認めなかった6)。
これらの複数の比較試験により,synchronous oligometastatic diseaseに対し薬物療法で安定が得られている場合には,局所治療の追加によって予後の延長が得られる可能性が示唆された。しかし,実際に登録された患者集団の転移個数については,いずれの試験でも転移病変が2個以内の症例が9割を占めており,患者選択に偏りがあった。また毒性について,局所治療により治療関連死が認められた試験もあることから,安全性については慎重に検証する必要がある。さらには,実地診療において局所治療へのアクセスの問題やそれぞれの転移に対して明確な治療法が示されていないこともあり,これらのエビデンスを日常臨床に外挿する際には,複数の領域を含めた集学的治療検討チームにより慎重に吟味されなければならない。
以上より,転移臓器・転移個数が限られているsynchronous oligometastatic diseaseで,薬物療法によりそれらの病勢が安定しているⅣ期非小細胞肺癌症例の場合,局所治療を追加することは症例によっては増悪までの期間を延長させることでメリットが得られる可能性がある。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 強く推奨 |
行うことを 弱く推奨 |
推奨に至る根拠が 明確ではない |
行わないことを 弱く推奨 |
行わないことを 強く推奨 |
---|---|---|---|---|
2% (1/56) |
66% (37/56) |
32% (18/56) |
0% | 0% |
- 1)
- Gomez DR, Blumenschein GR Jr, Lee JJ, et al. Local consolidative therapy versus maintenance therapy or observation for patients with oligometastatic non-small-cell lung cancer without progression after first-line systemic therapy:a multicentre, randomised, controlled, phase 2 study. Lancet Oncol. 2016;17(12):1672-82.
- 2)
- Gomez DR, Tang C, Zhang J, et al. Local Consolidative therapy vs. maintenance therapy or observation for patients with oligometastatic non-small-cell lung cancer:long-term results of a multi-institutional, phase II, randomized study. J Clin Oncol. 2019;37(18):1558-65.
- 3)
- Iyengar P, Wardak Z, Gerber DE, et al. Consolidative Radiotherapy for limited metastatic non-small-cell lung cancer:a phase 2 randomized clinical trial. JAMA Oncol. 2018;4(1):e173501.
- 4)
- Palma DA, Olson R, Harrow S, et al. Stereotactic ablative radiotherapy versus standard of care palliative treatment in patients with oligometastatic cancers(SABR-COMET):a randomised, phase 2, open-label trial. Lancet. 2019;393(10185):2051-8.
- 5)
- Harrow S, Palma DA, Olson R, et al. Stereotactic radiation for the comprehensive treatment of oligometastases(SABR-COMET):extended long-term outcomes. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2022;114(4):611-6.
- 6)
- Olson R, Senan S, Harrow S, et al. Quality of life outcomes after stereotactic ablative radiation therapy(SABR)versus standard of care treatments in the oligometastatic setting:a secondary analysis of the SABR-COMET randomized trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2019;105(5):943-7.
※本エビデンスの元となっているoligometastatic diseaseは,そのほとんどが原発+2個以内に限られている。