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Ⅰ.診 断

病理診断
*病理診断の推奨グレードについて
病理・細胞診断では,診断方法や鑑別診断等を記載することとし,推奨グレードは示していない。
*エビデンスについて
3-1~3-2の各項目のエビデンスは,日本肺癌学会編「悪性胸膜中皮腫病理診断の手引き」(日本 肺癌学会ホームページに掲載中)を参考にして頂きたい(https://www.haigan.gr.jp/uploads/photos/647.pdf)。

文献検索と採択

病理診断

樹形図

悪性胸膜中皮腫の診断
胸水細胞診
組織診断
3-1.胸水細胞診
推 奨

a.Papanicolaou染色,Giemsa染色,PAS染色などの通常の染色を行った胸水細胞診標本だけで中皮腫の診断を付けることは勧められない。

b.中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別には,セルブロックを含む細胞診標本で免疫染色などを検討することが勧められる。

c.細胞診で中皮腫が疑われる場合は,組織学的検査を行うことが勧められる。

3-2.病理組織診断
推 奨

a.深部脂肪組織を含めた十分な胸膜検体のもとに病理診断を行うことが勧められる。

b.病理診断には組織型〔上皮型,肉腫型(線維形成型を含む),二相型〕(表1)を記載することが勧められる。

c.中皮腫の診断には常に免疫染色を行うことが勧められる。

d.診断が困難な場合は,経験豊富な専門家に意見を聞くことが勧められる。

3-2-1.上皮型中皮腫と癌腫(特に肺腺癌)の鑑別(表1,2)
推 奨
上皮型中皮腫の診断に際しては,中皮腫の場合に陽性となる抗体および陰性となる抗体をそれぞれ2抗体以上確認することが勧められる(表2)
3-2-2.上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別(表1,3)
推 奨

a.上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別には,間質あるいは深部脂肪組織への浸潤所見を評価することが勧められる(表3)

b.上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別に有用な抗体(Desmin,EMAなど)は存在するが,その結果のみで診断することは勧められない(表3)

c.上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別にfluorescence in situ hybridization(FISH)法によるp16遺伝子欠失の解析は有用であるが,手技に精通した施設で行うことが勧められる(表3)

3-2-3.肉腫型中皮腫と肉腫や肉腫様癌の鑑別(表1)
推 奨

a.肉腫型中皮腫と肉腫との鑑別には,中皮腫で陽性となるcytokeratin(CAM5.2,AE1/AE3)の発現を検討することが勧められる。

b.肉腫型中皮腫と肺の肉腫様癌との鑑別に有用な抗体は存在するが,その結果のみで診断することは勧められない。

3-2-4.中皮腫と滑膜肉腫の鑑別(表1)
推 奨
中皮腫と滑膜肉腫の鑑別が困難な場合は,t(X;18)(p11;q11)によって形成されるSS18-SSX融合遺伝子の有無を検討することが勧められる。
3-2-5.線維形成型中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別(表1,4)
推 奨
線維形成型中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別には,浸潤性増殖,壊死,明らかな肉腫様成分,転移巣の存在を評価することが勧められる(表4)
表1.悪性中皮腫と鑑別すべき疾患
組織型 鑑別すべき疾患
上皮型中皮腫 原発性肺癌
胸膜への転移・浸潤性腫瘍
反応性中皮過形成
肉腫型中皮腫

 線維形成型中皮腫
胸壁,胸膜,肺由来の肉腫
肉腫様癌
線維性胸膜炎
二相型中皮腫 二相型滑膜肉腫
癌肉腫
肺芽腫
表2.中皮腫の診断に有用な抗体
陽性抗体 陰性抗体
calretinin
Wilms’ tumor 1(WT1)
D2-40(Podoplanin)
carcinoembryonic antigen(CEA)
thyroid transcription factor-1(TTF-1)
Napsin A
surfactant apoprotein A
estrogen receptor(ER)
p63
p40
claudin 4
MOC-31
BerEP4
表3.上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別点
上皮型中皮腫 反応性中皮過形成
間質浸潤,深部脂肪組織浸潤 通常あり なし
細胞密度 高い 高いこともある(表層)
乳頭状構造 複雑,多層性 単純,単層性
炎症 少ない 通常あり
Desmin 陰性 陽性
EMA 細胞膜に陽性 陰性
BAP11 核に陰性 核に陽性
p16遺伝子欠失2 あり なし

1反応性中皮過形成では核にBAP1が陽性であり,核にBAP1が陰性である場合は中皮腫の可能性が高い。しかし,核にBAP1が陽性の中皮腫もあるので注意が必要である。

2FISH解析による。反応性中皮過形成ではp16遺伝子欠失はみられず,p16遺伝子欠失がある場合は中皮腫と考えられる。しかし,p16遺伝子欠失がみられない中皮腫もあるので注意が必要である。

表4.線維形成型中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別点
線維形成性中皮腫 線維性胸膜炎
Storiform pattern 目立つ 目立たない
壊死 あり(散在) なし(あっても糜爛)
発育 不均一な厚み,浸潤性増殖
expansile nodule
細胞密度の異なる部分が混在
均一な厚み
肉腫様成分 あり なし
Zonation1 なし あり
毛細血管 血管は少なく,向きは不規則 垂直に走行

1胸膜の胸腔側で細胞密度が高く,胸壁側の深部にいくにつれて細胞密度が低くなる所見。

参考文献
*文献のエビデンスレベルについて
病理診断に関わる参考文献にはエビデンスレベルの記載はしていない。
日本肺癌学会「悪性胸膜中皮腫病理診断の手引き」を参考にして頂きたい。
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