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Ⅲ.小細胞肺癌(SCLC)

予防的全脳照射(PCI)

文献検索と採択

予防的全脳照射(PCI)

本文中に用いた略語および用語の解説

CR complete remission 完全寛解
ED extensive disease 進展型
HR hazard ratio ハザード比
LD limited disease 限局型
OS overrall survival 全生存期間
PCI prophylactic cranial irradiation 予防的全脳照射
PR partial response 部分奏効
GRADE
CQ75.限局型小細胞肺癌(LD)の初回治療で完全寛解が得られた症例に対して予防的全脳照射は勧められるか?
推 奨
予防的全脳照射を行うよう推奨する。(1B)
解 説
 メタアナリシスでは,予防的全脳照射(PCI)は完全寛解(CR)例(CRの判定には胸部単純X線撮影によるものも含まれていた)に限れば3年脳転移再発率を58.6%から33.3%へと有意に低下させ,3年生存率を15.3%から20.7%へと有意に向上させることが報告1)されている。そのうちの大多数をLD例が占めており,LD例では小細胞癌の初期治療でCRが得られた症例には,PCIを行うことが標準治療として推奨される。
 毒性に関しては,PCIの脳に対する毒性の評価を加えたランダム化比較試験が行われ,PCIによる精神症状や脳萎縮の発現などの有意な増強は認められなかったとの報告2)があり,また,他のランダム化比較試験においても,PCIによる明らかな脳への毒性の増強は認められなかったとの報告3)がある。いずれの試験においてもPCIの開始前にすでに40~60%の症例で精神神経症状が認められていたが,その原因として喫煙,腫瘍随伴症候群(paraneoplastic syndrome)あるいは薬物療法の影響などが挙げられ,PCIによる毒性の増強に否定的な見解が示されているが,観察期間も1~2年と短く,長期生存例における晩期の神経毒性については明らかとなっていない。
 以上より,限局型小細胞肺癌の初回治療でCRが得られた症例に対してPCIを行うよう推奨される。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Bとした。
GRADE
CQ76.予防的全脳照射の勧められる線量は?
推 奨
25 Gy/10回相当を行うよう提案する。(2B)
解 説
 予防的全脳照射(PCI)の線量についてはこれまで24~36 Gy/8~18回が用いられ,線量が多いほど効果が高い傾向が示唆されていたが1),25 Gy/10回と36 Gy/18回あるいは36 Gy/24回(1日2回)のランダム化比較第Ⅲ相試験4)が行われ,主要評価項目である2年での脳転移の発生率に高線量群29%,標準線量群23%(HR 0.80,95%CI:0.57–1.11,P=0.18)と有意差を認めないだけでなく,2年生存率が高線量群37%,標準線量群42%(HR 1.20,95%CI:1.00–1.44,P=0.05)と高線量群において悪いことが報告された。また,3年以上の経過観察の結果では,遅発性有害反応の出現が線量によって差がないとの報告5)がある一方で,他の評価法では,認知機能障害が高線量群に多いとの報告6)もある。軽度の会話能力の低下や下肢の筋力低下,知的障害や記銘力の低下は両群ともに報告されている5)。また,1回線量については,遅発性有害反応軽減のため,1回2.5 Gyを超えないことが望ましい6)
 なお,PCIの施行時期については,メタアナリシスにおいて,化学放射線療法終了後6カ月以上たってからのPCIは有意に脳転移を抑制しないことが示されており1),化学放射線療法終了後に良好な治療効果が確認され次第,できるだけ早期(治療開始から6カ月以内)に行うことが提案する。
 以上より,PCIの線量分割法は25 Gy/10回相当を行うことが提案される。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Bとした。
GRADE
CQ77.進展型小細胞肺癌(ED)における薬物療法後の予防的全脳照射は勧められるか?
推 奨
予防的全脳照射を行わないよう推奨する。(1B)
解 説
 EDで初期治療に反応したもの(PR症例が87%)に対するランダム化比較第Ⅲ相試験が行われ,予防的全脳照射(PCI)により生存期間中央値が約1カ月延長すること(6.7カ月vs 5.4カ月,HR 0.68,95%CI:0.52–0.88,P=0.003)を報告7)しているが,登録前に脳転移の有無が画像診断により確認されていたものが29%にとどまっているなど,試験デザインの問題が指摘されている。
 プラチナ製剤併用初回薬物療法後に奏効した脳転移のないEDに対するPCI施行群とPCI未施行群との比較第Ⅲ相試験の結果が本邦より報告8)され,12カ月時点で脳転移の出現頻度は,PCI施行により有意に減少したが(32.4% vs 58.0%,P<0.001),主要評価項目であるOSは中間解析の結果,10.1カ月と15.1カ月(HR 1.38,95%CI:0.95–2.02,P=0.091)であり,早期無効中止の結果であった。
 以上より,EDにおける薬物療法後のPCIを行わないよう推奨される。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Bとした。
引用文献

レジメン:予防的全脳照射(PCI)

25 Gy/10回(2週),30 Gy/15回(3週)
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