2017年版の肺癌診療ガイドライン改訂では,昨年版の序文で宣言していたとおり,2003年発刊の第1版から踏襲してきた策定方法を一歩進め,世界標準のガイドライン作成手法であるGRADEアプローチを取り入れた。
従来どおりの樹形図に基づく標記は残しながら,記載については,各領域のクリニカルクエスチョン(CQ)毎にシステマティックレビュー(SR)を行い,これらに対する推奨度を策定している。ここでGRADEアプローチによる推奨度の記載について,従来との違いを簡単に述べておく。
GRADEの表記は数字(1か2)+英語(AからD)の組み合わせから成るが,最初に決定されるのは数字の末尾についている英語表記で,これはエビデンスの強さを示す。エビデンスの評価は従来の手法では各文献に対して行ってきたが,GRADEではCQに対するエビデンス総体に対して評価する(表1)。エビデンスの解釈に当たっては2名の生物統計学者に批判的吟味を依頼し,近年様々に報告されているメタ解析の質の評価やサブセット解析の意義などについて検討を行っている。
次に前方の数字が決定されるが,これが推奨度を示す。GRADEアプローチの推奨度は,まったくの中立地点を起点として「行う・行わない」という2つの方向性を「推奨する(=1)・提案する(=2)」という2つの強さで示す(図1)。従来の推奨度ではAを最高評価としB・C(1・2)・Dと連なる5段階評価であったが,①GRADEでは1と2の2段階になること,②数字と英語の関係性が独立していることに注意が必要である。つまり,推奨度が1であれば1Aでも1Bでも(エビデンスの強さに差はあれ)同じように「推奨される」のである。なお,そうは言っても「行う・行わない」の2元論では表現しづらい命題もあり,これについては「行うよう勧めるだけの根拠が明確でない」としている。推奨度の決定については,エビデンスの強さを基にしつつ,臨床的有用性の大きさ・その臨床適応性・有害事象なども踏まえて委員会で議論を尽くし,最終的に60%以上の賛同を得られた結果を記載している。また,今回の改訂から医師のみならず,薬剤師2名,看護師2名,患者団体代表者2名を加えており,多職種による推奨度の評価を行った。
GRADEアプローチを採用した収穫として,従来からの課題であった稀少な遺伝子変異陽性例に対する分子標的治療薬の推奨度決定が挙げられる。一方で,エビデンスの質が低い場合に「臨床的有用性」だけが独り歩きする懸念もある。前述した多職種でのアプローチに加え,作成の過程では分野毎に不定期のウェブ会議を頻回にもち最終的に7回の判定会議を行うと同時に,放射線療法を含めた判定が必要な場合には放射線治療小委員会と合同で会議を行った。また,新たな試みとして,何度も議論を要したCQについては,推奨度に加えて小委員会で行われた議論や投票結果を記載しているので,こちらも参考にしていただけると幸いである。