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Ⅱ.治 療

外科治療

1-1.手術適応

文献検索と採択

手術適応
1-1.手術適応
推 奨
臨床病期Ⅰ-Ⅲ期の選択された一部の患者に対して手術を行うことを考慮してもよい。(グレードC1) 手術適応判定は呼吸器外科医を含む集学的治療チームにより判定することが勧められる。(グレードA)

a.手術の利益:切除可能中皮腫において外科的切除が生存率を改善するか否かは明らかでない。

b.手術の目的:手術の目的は肉眼的完全切除である。

c.集学的治療:集学的治療により許容し得る周術期リスクと遠隔予後が得られる可能性がある。

エビデンス
a.
1つのシステマティックレビュー1)によれば,胸膜肺全摘術(EPP)は生存率や症状コントロールに寄与しなかった。ある後ろ向き研究において,1,365人の中皮腫患者のうち予後因子良好な313人に限れば,内科的治療,胸膜切除・肺剥皮術(P/D),EPP群のMSTはそれぞれ18.6,24.6,20.9カ月で差がなかった2)。1つの第Ⅲ相試験においてEPP群では非EPP群より予後不良であった3)。一方,ある後ろ向き研究において,5,937人の中皮腫患者の背景因子を補正しても手術を受けた患者が有意に非手術患者より良好な予後を得た4)。また,別の945人の中皮腫患者の後ろ向き研究において,手術例が予後良好であった5)。以上のように,中皮腫に対する外科治療が予後改善に貢献するか否か,現時点では明らかでない。1つの本邦における第Ⅱ相臨床試験において,42例の登録患者におけるMSTは19.9カ月,治療関連死亡は9.5%であった6)
b.
単一施設におけるradical pleurectomyにおいて,肉眼的腫瘍遺残(R2切除)群が肉眼的完全切除(R1切除)群より予後不良であった7)。また,1つの大規模国際登録の解析調査においてpalliative surgery群がcurative-intent surgery群よりの予後不良であることが明らかにされている8)
c.
1つの非ランダム化試験メタアナリシスにおいて,選択された患者に専門的な施設で行われる集学的治療(trimodality treatment)が許容し得る周術期値リスクと遠隔予後をもたらす可能性があると指摘されている9)。別の非ランダム化試験メタアナリシスにおいてEPPを含む集学的治療が生存率に寄与する可能性が指摘されている10)
引用論文

1-2.手術術式

文献検索と採択

手術術式
1-2.手術術式
推 奨
肉眼的完全切除を得るための術式には胸膜肺全摘術(EPP)と胸膜切除・肺剥皮術(P/D)があり,完全切除が可能と判断される場合には患者の状態と個々の呼吸器外科医の経験と判断によっていずれかを行うことを考慮してもよい。(グレードC1)
エビデンス
 2011年にIASLCおよびIMIGから悪性胸膜中皮腫の術式名称の統一が提唱された。肉眼的完全切除を得るための手術術式としては,壁側胸膜,臓側胸膜を含む肺および,症例に応じて同側横隔膜,心膜も含めて一塊として切除する胸膜肺全摘術(EPP)と,壁側胸膜と臓側胸膜を含め肉眼的腫瘍のすべてを完全に切除し,肺実質を温存する胸膜切除・肺剥皮術(P/D)がある。P/Dの中で横隔膜または心膜を切除する場合はextended P/Dという名称が用いられる。一方,部分的胸膜切除術(Partial pleurectomy)は,壁側あるいは臓側胸膜を部分的に切除する姑息的な術式で肉眼的腫瘍は残存する1)
 EPPのシステマティックレビューによれば,EPPの手術死亡率は0~11.8%,MSTは9.4~27.5カ月であった2)。導入化学療法,EPP,術後放射線治療を行った本邦を含む前向き臨床試験に限れば,手術死亡率0~3.7%,MSTは16.8~25.5カ月であった3)~6)。P/Dのシステマティックレビューによれば,手術死亡率は0~11%,MSTは7.1~31.7カ月であった7)。EPPとP/Dを比較するシステマティックレビューによれば,手術死亡率(6.8% vs 2.9%,P=0.02)および有害事象発生率(62.0% vs 27.9%,P<0.0001)において有意にP/Dが良好で,MSTは同等(12~22カ月vs 13~29カ月)であった8)。EPPとP/Dを比較する別のメタアナリシスでも術後短期死亡率がEPPで有意に高いが(4.5% vs 1.7%,P<0.05),長期予後は同等であった9)。EPPとP/Dを比較するランダム化前向き試験は存在せず,患者選択基準,背景因子が異なる後ろ向き解析報告しかないため,EPPとP/Dのいずれが適切な術式かは不明であり,個々の症例に応じて検討されるべきである。
引用論文
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