Ⅱ.非小細胞肺癌(NSCLC)

4

周術期

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2004年12月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:術前治療・術後補助化学療法(lung cancer, adjuvant therapy, non small cell lung cancer),術後放射線療法(lung cancer, postoperative radiotherapy, non small cell lung cancer)
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験を中心に抽出し,総説もしくは検索時点で日本における未承認薬を用いた試験は除外した。なお,治療リスクに関する重要な文献,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
  • これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。

本文中に用いた略語および用語の解説

CDDP シスプラチン
DTX ドセタキセル
GEM ゲムシタビン
PTX パクリタキセル
UFT テガフール・ウラシル配合剤
VDS ビンデシン
VNR ビノレルビン
 
DFS disease free survival 無病生存期間
OS overall survival 全生存期間
 
ANITA Adjuvant Navelbine International Trial Association
IALT International Adjuvant Lung Cancer Trial Collaborative Group
総 論
周術期における治療方針
解 説

 外科切除可能なⅠ-Ⅲ期非小細胞肺癌に対しては,外科切除に加えて,術前あるいは術後に化学療法または放射線療法を追加することで,治療成績のさらなる改善を目指す試みが検討されてきた。化学療法に関しては,外科治療単独に対して術前補助化学療法,術後補助化学療法を追加する意義が,それぞれ臨床試験により検証された。一方,放射線療法に関しては外科切除後の術後放射線療法の意義が検証された。また,縦隔リンパ節転移を有する切除可能なⅢA期(N2)非小細胞肺癌に対しては,術前化学放射線療法後の外科切除の有用性を問う臨床試験が行われた。

 これらの周術期の治療に関する推奨,治療方針決定に関しては,病期診断に関する評価が大きく関連している。術前治療に関する臨床試験は,主に画像診断による臨床病期(clinical stage)に基づいた集団を対象としており,一方,術後治療に関する臨床試験は,外科切除検体の病理学的評価による術後病理病期(pathological stage)に基づいた集団を対象として行われた結果であることを理解することが重要である。また,本ガイドラインにおける治療推奨は肺癌取扱い規約第8版に準じている。しかし,周術期領域の臨床試験に関しては試験が実施された時期における病期分類に基づいており,第7版以前の病期分類が採用されていることに留意されたい。

 以下に,術前および術後化学療法(CQ25CQ27~30),術前化学放射線療法(CQ26),術後放射線療法(CQ3132)について解説する。

1) 術前および術後化学療法:CQ25CQ27~30

 1980年代後半から2000年代を中心に,外科切除単独に対して,それぞれ術前補助化学療法あるいは術後補助化学療法を追加する意義を検証する臨床試験が行われた1)~3)。術後補助化学療法のエビデンスが術前化学療法よりも早く確立したことから,術前補助化学療法の第Ⅲ相試験が早期中止され,エビデンスの質・量ともに術後補助化学療法のものと比較すると十分ではない。

 臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者には外科切除が勧められるため,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期に対して外科切除に先行する術前補助化学療法は行わないよう勧められる(CQ25)。

 術後補助化学療法については,術後病理病期Ⅰ期に対するテガフール・ウラシル配合剤療法(CQ2728),術後病理病期Ⅱ-ⅢA期に対するシスプラチン併用療法(CQ29)が,それぞれ外科治療単独に対して生存の改善を示しエビデンスが確立されている2)3)。術後補助化学療法のこれらの薬剤選択に関して,術後病理病期の評価が重要であるが,特に肺癌取扱い規約第8版ⅡA期T2b(T分類>4-5cm)N0M0に関しては,旧7版ではⅠB期の分類に相当する。第8版ⅡA期はテガフール・ウラシル配合剤療法,シスプラチン併用化学療法の術後補助化学療法の有用性を検証する臨床試験に関して,いずれにも対象となったサブセットである。なお,EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤による術後補助化学療法は生存の延長効果が現時点で示されておらず,本邦では保険適用外であることから,行わないよう推奨される(CQ30)。

2) 術前化学放射線療法:CQ26

 臨床病期ⅢA期(N2)については,外科切除を行う意義を問う臨床試験が行われた4)~6)。なかでも同時化学放射線療法を対照として同時化学放射線療法後に外科切除を追加する意義を問う臨床試験では全体の生存割合に改善が認められなかったものの,無再発生存割合では外科切除を加えた群で改善を認めた4)。また肺葉切除が行われた群においては外科切除を加える意義があると報告された。また術前化学療法と術前化学放射線療法を比較した臨床試験では明らかな差を認めなかった7)8)。切除可能な臨床病期ⅢA期(N2)に対しては,術前化学放射線療法を行うことを提案する(CQ26)。

3) 術後放射線療法:CQ3132

 外科切除後の術後放射線療法の意義については,メタアナリシスでの検証がなされている9)10)。術後病理病期Ⅰ-Ⅱ期に対する術後放射線療法は生存を増悪することが明確に示されており,行わないよう勧められる(CQ31)。術後病理病期Ⅲ期(N2)に対する術後放射線療法については,有望な可能性があるものの十分なエビデンスは得られていない(CQ32)。

引用文献
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4-1
術前治療

CQ25.

臨床病期Ⅰ-ⅢA期に対して,術前プラチナ製剤併用療法は勧められるか?

推 奨
  • a.
  • 臨床病期Ⅰ-Ⅱ期(第8版)に対して,術前プラチナ併用化学療法を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:74%〕

  • b.
  • 臨床病期ⅢA期(第8版)に対して,術前プラチナ併用化学療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:65%〕

解 説
  • a.術前補助化学療法については,臨床病期Ⅰ-ⅢA期を対象としたメタアナリシスによって外科治療単独と比べ,生存期間を延長することが示されており1),薬物療法のレジメンはこれまで多くの試験でプラチナ併用療法が採用されている。しかし,術後補助化学療法のエビデンスが術前補助化学療法よりも早く確立したことから,術前補助化学療法の第Ⅲ相試験が早期中止され,エビデンスの質・量ともに術後補助化学療法のものと比較して十分でない。また,CDDP+GEM療法を用いた第Ⅲ相試験における臨床病期ⅠB-ⅡA期のサブグループ解析では,OSにおけるHR 1.02(生存期間中央値7.8年vs未到達,95%CI:0.58-1.19,P=0.94)と外科治療単独と比較して生存を延長しなかった2)。CBDCA+PTX療法を用いた第Ⅲ相試験でも,DFSにおけるHR 0.92(95%CI:0.81-1.04,P=0.176)と術前化学療法は外科治療単独と比較してDFSを延長しなかった3)。N2が除外されたこの試験で有効性が示されなかったことから,N0/N1の病期における術前化学療法の意義は乏しいと考えられ,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期に対しての生存に対する有効性も低いと考えられる。現在,術後補助化学療法のエビデンスが確立しており,術前臨床病期診断に基づく術前化学療法よりも,術後病期診断に基づく術後補助化学療法が選択されるべきである。

     以上より,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期(第8版)に対しては,術前プラチナ併用化学療法を行わないよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法小委員会,放射線治療小委員会,外科療法小委員会/白票1
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 0% 5%
(2/39)
21%
(8/39)
74%
(29/39)
  • b.前述のように術前補助化学療法について,臨床病期Ⅰ-ⅢA期を対象としたメタアナリシスによって外科治療単独と比べ,生存期間を延長することが示されている1)。薬物療法のレジメンはこれまで多くの試験でプラチナ併用療法が採用されており,化学療法の時期について,術前補助化学療法と術後補助化学療法を比較したメタアナリシスでは同等の有効性が示されている4)。しかし,術後補助化学療法のエビデンスが術前補助化学療法よりも早く確立したことから,術前補助化学療法の第Ⅲ相試験の多くが早期中止され,エビデンスの質・量ともに術後補助化学療法のものと比較して十分でない。一方で,CDDP+GEM療法を用いた第Ⅲ相試験における臨床病期ⅡB-ⅢA期のサブグループ解析において,OSにおけるHRは0.42(生存期間中央値 未到達vs 2.1年,95%CI:0.25-0.71,P<0.001)と術前プラチナ併用化学療法は,外科治療単独と比較して生存期間の延長を示した2)

     以上より,術後補助化学療法と比較して術前補助化学療法のエビデンスの質・量は十分でないことに留意する必要があるものの臨床病期ⅢA期(第8版)に対しては,切除可能性を鑑み,術前プラチナ製剤併用療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

     なお,臨床病期ⅢA期(N2)(第8版)については,同時化学放射線療法および外科切除後の術後病期診断に基づく術後補助化学療法のエビデンスが確立されていること,また術前化学放射線療法後の外科切除(CQ26を参照)の選択肢があることを踏まえて,治療選択を検討する必要がある。

投票者の所属委員会:薬物療法小委員会,放射線治療小委員会,外科療法小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 65%
(26/40)
35%
(14/40)
0% 0%

CQ26.

切除可能な臨床病期ⅢA期(N2)に対して,術前化学放射線療法は勧められるか?

推 奨
切除可能な臨床病期ⅢA期(N2)に対しては,術前化学放射線療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:68%〕

解 説

 切除可能・病理学的に確認されたN2例に対し,化学放射線療法と術前化学放射線療法後の外科切除を比較した第Ⅲ相試験のINT0139試験では,外科切除による生存期間の延長は示されなかった5)。サブグループ解析では肺葉切除された症例では外科切除追加の有用性が示唆されているが,事後解析であるため,解釈には注意が必要である。北米,欧州でも術前化学放射線療法を介入群とした複数のランダム化比較試験が報告されているが,いずれの試験も早期中止などにより検出力が十分ではなく,生存に対するベネフィットが示されなかった6)7)。本邦でも同様の対象について,術前化学療法と術前化学放射線療法を比較する第Ⅲ相試験が行われたものの,同様に症例集積が進まなかったため有効性を十分に評価できなかった8)

 これらの結果より,肺葉切除可能かつ病理学的に確認されたN2の臨床病期ⅢA期に対して術前化学放射線療法の忍容性は示されている。また有効性に関するエビデンスの質が不十分であるものの,前述のように1つの第Ⅲ相試験で切除可能性と有用性を示されている。

 以上より,肺葉切除可能な臨床病期ⅢA期(N2)に対しては,術前化学放射線療法を行うことを提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法小委員会,放射線治療小委員会,外科療法小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 68%
(25/37)
27%
(10/37)
5%
(2/37)
0%
4-2
術後補助化学療法

CQ27.

病変全体径>2cmの術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA期(第8版)完全切除,腺癌症例に対して,テガフール・ウラシル配合剤療法は勧められるか?

推 奨
病変全体径>2 cmの術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA期(第8版)完全切除,腺癌症例に対して,テガフール・ウラシル配合剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:A,合意率:85%〕

解 説

 Ⅰ-Ⅲ期を対象にCDDP+VDS+テガフール・ウラシル配合剤(UFT)とUFT,手術単独の3群についての比較試験を行い,5年生存割合でUFT群は64%と,手術単独群の49%と比し有意に良好であった9)。その後,Ⅰ期肺腺癌に対するUFTの効果を検討する第Ⅲ相試験が行われ,全体では3%(85%→88%),ⅠB期(T>3cm)においては11%(74%→85%)の上乗せ効果が認められた10)。これらに,4つの臨床試験を加えて行われたメタアナリシス(2,003症例;腺癌84%,非腺癌16%)の結果,全体で5%(77%→82%)の5年生存割合の改善を認め,UFTの有効性が確認された。組織型別にみると,腺癌においてHR 0.69(95%CI:0.56-0.85)に対し,扁平上皮癌においてはHR 0.82(95%CI:0.57-1.19)であった11)。TNM分類の第7版への改訂に伴い,腫瘍径が2cm以下の患者群と>2cmかつ3cm未満の患者群に分けてサブグループ解析が実施され,腫瘍径>2cmかつ3cm未満の患者群において6%(82%→88%)の5年生存割合の改善,HR 0.62(95%CI:0.42-0.90)と良好な結果を示した12)。なお,肺癌取扱い規約第8版では,「病変全体径」とは高分解能CTによるすりガラス成分と充実成分を合わせた最大径を,「充実成分径」とは充実成分の最大径を表し,pT分類では浸潤性増殖を示す部分の最大径を「充実成分径」に置き換えて分類を行う。しかし,上記の臨床試験におけるpT分類は浸潤部分の最大径ではなく,非浸潤部分を含めた腫瘍径で評価されていることに留意する必要がある。これらの臨床試験の登録期間である1985~1995年には,高分化能CTの普及が一様ではなく,TNM分類第8版におけるT1miのように,主に肺胞置換型増殖を示す症例の多くは臨床試験に組み入れられていないと考えられ,この群については術後補助化学療法の意義は不明である。なお,TNM分類第8版におけるⅡA期は,第7版以前の分類ではⅠ期またはⅠB期に相当する。

 以上より,病変全体径>2cmの術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA期(第8版)の完全切除,腺癌症例に対してUFT療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。なお,術後病理病期Ⅰ期(腺癌)の完全切除例では手術単独でも74%が無再発であり,化学療法の安全性を十分考慮すべきである。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法小委員会,放射線治療小委員会,外科療法小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
85%
(34/40)
13%
(5/40)
3%
(1/40)
0% 0%

CQ28.

病変全体径>2cmの術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA期(第8版)完全切除,非腺癌症例に対してテガフール・ウラシル配合剤療法は勧められるか?

推 奨
病変全体径>2 cmの術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA期(第8版)完全切除,非腺癌症例に対してテガフール・ウラシル配合剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 Ⅰ-Ⅲ期を対象にCDDP+VDS+テガフール・ウラシル配合剤(UFT)とUFT,手術単独の3群についての比較試験を行い,5年生存割合でUFT群は64%と,手術単独群の49%と比し有意に良好であった9)。その後,他の臨床試験を加えて行われたメタアナリシス(2,003症例;腺癌84%,非腺癌16%)の結果,全体で5%(77%→82%)の5年生存割合の改善を認め,UFTの有効性が確認された。組織型別にみると,腺癌においてHR 0.69(95%CI:0.56-0.85)に対し,扁平上皮癌においてはHR 0.82(95%CI:0.57-1.19)であった11)。TNM分類の第7版への改訂に伴い腫瘍径2cm以下の患者群と>2cmかつ3cm未満の患者群に分けてサブグループ解析が実施され,腫瘍径2cm以上かつ3cm未満の患者群において6%(82%→88%)の5年生存割合の改善,HR 0.62(95%CI:0.42-0.90)と良好な結果を示した12)。しかしながら,扁平上皮癌患者に限定した解析ではHR 0.93(95%CI:0.38-2.27)であった12)。なお,TNM分類第8版におけるⅡA期は,第7版以前の分類ではⅠ期またはⅠB期に相当する。

 以上より,病変全体径>2cmの術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA期(第8版)の完全切除,非腺癌症例に対してUFT療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。ただし,前述のように腺癌を中心としてUFTの有効性が証明されているが,非腺癌では検討症例数が少数であることなどから,そのエビデンスは十分とはいえない。また,非小細胞肺癌(非腺癌)の完全切除例で手術単独でも57.1%が無再発であり,化学療法の安全性を十分考慮すべきである。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法小委員会,放射線治療小委員会,外科療法小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 100%
(40/40)
0% 0% 0%

CQ29.

術後病理病期Ⅱ-ⅢA期(第8版)完全切除例に対して,シスプラチン併用化学療法は勧められるか?

推 奨
術後病理病期Ⅱ-ⅢA期(第8版)完全切除例に対して,シスプラチン併用化学療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:A,合意率:95%〕

解 説

 1995年にNon-small Cell Lung Cancer Collaborative Groupより手術単独群と術後補助化学療法群のランダム化比較試験のメタアナリシスが報告され,CDDP併用療法の術後補助化学療法で相対死亡危険率を13%減少し,有意差は認めないが5年生存率を5%改善するとの結果であった13)。その後,International Adjuvant Lung Cancer Trial Collaborative Group(IALT),JBR.10およびAdjuvant Navelbine International Trial Association(ANITA)trialなどの比較試験が行われ,いずれもCDDP併用療法を術後補助化学療法として行うことで無病生存率および5年生存率の向上が得られた14)~16)。長期フォローアップの結果においても術後補助化学療法の有用性が再確認されたが17)18),術後5年を超えるとその差が縮まることも示された17)。これらの比較試験に,Adjuvant Lung Cancer Project Italy(ALPI)19),Big Lung Trial(BLT)20)を加えた5つの比較試験について,4,584症例の個々のデータに基づくメタアナリシスが行われた(Lung Adjuvant Cisplatin Evaluation;LACE)。その結果,術後生存に対するHR 0.89(95%CI:0.82-0.96)と,術後補助化学療法による有意な延命効果が示された。病期別のHRでは,ⅠA期で1.40(95%CI:0.95-2.06),ⅠB期で0.93(95%CI:0.78-1.10),Ⅱ期で0.83(95%CI:0.73-0.95),Ⅲ期で0.83(95%CI:0.72-0.94)という結果であった21)。サブグループ解析として,CDDP+VNRに限ったメタアナリシスもなされ,HR 0.80(95%CI:0.70-0.91),手術単独に対するCDDP+VNRの生存率向上は,Ⅱ期で43%が54%,Ⅲ期で25%が40%と,生存率向上効果が顕著であった22)。これまでの34の臨床試験,8,447症例を集めたメタアナリシスでも同様の結果が示された23)。これらのメタアナリシスに含まれるエビデンスはすべて国外からの報告であり,化学療法のレジメンや投与方法が本邦と異なるものが多く含まれている。なお,第8版におけるⅡA期は,第7版以前の分類ではⅠ期またはⅠB期に相当する。ⅡA(第8版)の患者群は,JBR.10のサブセット解析で生存期間の延長を示された集団(腫瘍径4cm以上のⅠB期)に含まれていた。

 以上より,術後病理病期Ⅱ-ⅢA期(第8版)完全切除例に対してCDDP併用化学療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法小委員会,放射線治療小委員会,外科療法小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
95%
(38/40)
5%
(2/40)
0% 0% 0%

CQ30.

EGFR遺伝子変異陽性の術後病理病期ⅠB-ⅢA期完全切除例に対してEGFRチロシンキナーゼ阻害剤による治療は勧められるか?

推 奨
EGFR遺伝子変異陽性の術後病理病期ⅠB-ⅢA期完全切除例に対してEGFRチロシンキナーゼ阻害剤による治療を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:100%〕

解 説

 完全切除されたⅠB-ⅢA期非小細胞肺癌に対し,術後補助化学療法としてゲフィチニブを投与した第Ⅲ相試験が本邦で行われた。しかし,試験に登録された38例(ゲフィチニブ群18例)のうち,ゲフィチニブ群で肺臓炎による死亡が1例認められたこと,および同時期に報告された進行非小細胞肺癌における本邦での肺臓炎の頻度を考慮し,試験が途中で中止された24)。また,同様の患者集団に対して海外で行われた第Ⅲ相試験ではゲフィチニブ群は,対照群と比較しHR 1.24(95%CI:0.94-1.64,P=0.14)と生存期間の延長は示さなかった25)。術後補助化学療法としてエルロチニブを投与したRADIANT試験でも無病生存期間はエルロチニブ群と対照群で有意な差を認めず(50.5カ月vs 48.2カ月,HR 0.90,95%CI:0.74-1.10,P=0.324),OSの延長は示さなかった(両群とも中央値に到達せず,HR 1.13,95%CI:0.88-1.45)。RADIANT試験においてEGFR遺伝子変異陽性患者に限定したサブグループ解析が公表されており,エルロチニブ群は,対照群と比較し無病生存期間(46.4カ月vs 28.5カ月,HR 0.61,95%CI:0.38-0.98)の延長を示したものの,生存期間の延長は示さなかった(両群とも中央値に到達せず,HR 1.09,95%CI:0.55-2.16)26)。術後の明らかな再発病変のない患者については,EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を投与すべきではないと考える。

 以上より,EGFR遺伝子変異陽性の術後病理病期ⅠB-ⅢA期完全切除例に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤による術後補助化学療法は,行わないよう勧められる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法小委員会,放射線治療小委員会,外科療法小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 0% 0% 0% 100%
(39/39)
引用文献
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Pignon JP, Tribodet H, Scagliotti GV, et al. Lung adjuvant cisplatin evaluation: a pooled analysis by the LACE Collaborative Group. J Clin Oncol. 2008; 26(21): 3552-9.
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4-3
術後放射線療法

CQ31.

術後病理病期Ⅰ-Ⅱ期完全切除例に対して,術後放射線療法は勧められるか?

推 奨
術後病理病期Ⅰ-Ⅱ期完全切除例に対して,術後放射線療法は行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:A,合意率:100%〕

解 説

 PORT Meta-analysis Trialists Groupによるメタアナリシスは2016年に改訂版が報告され,術後放射線療法によりむしろ予後は悪化し(HR 1.18,95%CI:1.07-1.31,P=0.001),2年生存率を58%から53%に5%引き下げる結果であった1)。無再発生存率は術後放射線療法群で悪い傾向があり(HR 1.10,95%CI:0.99-1.21,P=0.07),局所無再発生存率は有意に悪かった(HR 1.12,95%CI:1.01-1.24,P=0.03)。術後病理病期について,2005年版のメタアナリシスでは術後放射線療法の予後増悪効果はⅠ-Ⅱ期において明確であった2)。2016年版では解析方法が変更されたものの,やはり早期症例で予後増悪効果が顕著である可能性が示唆されている。

 以上より,メタアナリシスによって生存に対する悪影響が明確に示されていることから,術後病理病期Ⅰ-Ⅱ期完全切除例に対する術後放射線療法は行わないよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法小委員会,放射線治療小委員会,外科療法小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 0% 0% 0% 100%
(40/40)

CQ32.

術後病理病期Ⅲ期(N2)完全切除例に対して,術後放射線療法は勧められるか?

推 奨
術後病理病期Ⅲ期(N2)完全切除例に対して,術後放射線療法は考慮してもよいが,行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解 説

 前述のPORT Meta-analysis Trialists Groupによるメタアナリシスについて,2005年版のメタアナリシスでは術後放射線療法の予後増悪効果はⅠ-Ⅱ期N0-1において明確である一方,Ⅲ期N2においては明確ではないとされた1)2)。2016年版では解析方法が変更され,N因子による影響は乏しいと報告されたものの,早期よりは局所進行期において予後増悪の効果は少ない可能性が示唆されている(局所進行期の早期に対するHR 0.87,95%CI:0.72-1.04,P=0.12)。これに加えて,不完全ではあるもののⅢ期N2症例に対する術後化学放射線療法の有効性を示す前向き試験の報告が複数ある。非小細胞肺癌完全切除例に対する術後補助化学療法の有効性を示した第Ⅲ相試験(ANITA試験)で,術後放射線療法に関するサブセット解析が報告されており,pN2症例に限れば術後放射線療法による予後改善の可能性が示唆された(術後補助化学療法群:47.4カ月vs 23.8カ月,経過観察群:22.7カ月vs 12.7カ月)。ただし,この試験において術後放射線療法を行うか否かは施設毎の判断であり,実際に放射線治療を受けたpN2症例は全体の半数であった3)。また,症例集積不良のため途中中止となった試験ではあるが,Ⅲ期N2症例に対する術後化学療法と術後化学放射線療法とのランダム化比較試験の結果,無再発生存期間は後者で有意に長く(18カ月vs 28カ月,前者の後者に対するHR 1.49,95%CI:1.01-2.20,P=0.04),生存期間中央値も同様に後者で長い傾向が示された(28カ月vs 40カ月,後者の前者に対するHR 0.69,95%CI:0.46-1.04,P=0.07)。一方で,この試験で術後に化学放射線療法を完遂できたものは2/3にとどまっていた4)

 以上より,Ⅲ期N2症例に対する術後放射線療法は有望な可能性があり,術後化学療法後に考慮してもよいが,十分に質の高い有効性が示されているわけではないことから,エビデンスの強さはC,また,その毒性も十分考慮する必要があることから,総合的評価では行うよう勧めるだけの根拠が明確ではないと判断し,推奨度決定不能とした。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法小委員会,放射線治療小委員会,外科療法小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0%
(0)
13%
(5/39)
67%
(26/39)
21%
(8/39)
0%
(0)
引用文献
1)
Burdett S, Rydzewska L, Tierney J, et al. Postoperative radiotherapy for non-small cell lung cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2016; 10: CD002142.
2)
PORT Meta-analysis Trialists Group. Postoperative radiotherapy for non-small cell lung cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2005; (2): CD002142.
3)
Douillard JY, Rosell R, De Lena M, et al. Impact of postoperative radiation therapy on survival in patients with complete resection and stageⅠ, Ⅱ, or ⅢA non-small-cell lung cancer treated with adjuvant chemotherapy: the adjuvant Navelbine International Trialist Association(ANITA)Randomized Trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2008; 72(3): 695-701.
4)
Shen WY, Ji J, Zuo YS, et al. Comparison of efficacy for postoperative chemotherapy and concurrent radiochemotherapy in patients with ⅢA-pN2 non-small cell lung cancer: an early closed randomized controlled trial. Radiother Oncol. 2014; 110(1): 120-5.
レジメン
非小細胞肺癌の術後補助化学療法

術後テガフール・ウラシル配合剤療法

テガフール・ウラシル配合剤 250mg/m2 per day 1~2年間内服

術後シスプラチン併用療法(本邦での投与量)

CDDP 80mg/m2 on day 1 3週毎,4サイクル
VNR 25mg/m2 on day 1,8
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