Ⅰ.診 断

1

臨床症状と血液検査

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1980年1月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:胸腺腫,胸腺癌,臨床症状,血液検査,重症筋無力症,赤芽球癆,低γグロブリン血症,自己免疫疾患
  • 医学図書館協会の協力を得て詳細な検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 胸腺上皮性腫瘍の症候に関する文献に限定して採用した。
  • 上記条件以外のもので,必要と判断したものは採用した。

CQ1.

胸腺上皮性腫瘍が疑われる場合,血清抗アセチルコリン受容体抗体の測定は勧められるか?

推 奨
血清抗アセチルコリン受容体抗体の測定を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

解 説

 わが国の大規模な調査では胸腺腫症例の約23~25%に重症筋無力症が合併すると報告されている1)2)。また,ITMIGデータベースを用いた欧米の報告によれば,胸腺上皮性腫瘍の32.8%に重症筋無力症の合併を認めた3)。胸腺腫に合併した重症筋無力症では,ほとんどが抗アセチルコリン受容体抗体が陽性である。胸腺癌においても重症筋無力症の合併を少数に認めた報告がある4)

 また,無症状の胸腺腫患者においても術後重症筋無力症が0.9~20%に発症することが報告されている(postthymectomy myasthenia gravis)。術前無症状の患者に術後重症筋無力症が発症する場合,多くは術前の抗アセチルコリン受容体抗体が陽性である5)

 以上より,胸腺上皮性腫瘍を疑う前縦隔腫瘍患者に抗アセチルコリン受容体抗体の測定を行うことが推奨される。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸腺腫瘍小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(15/15)
0% 0% 0% 0%

CQ2.

胸腺上皮性腫瘍が疑われる場合,血球算定は勧められるか?

推 奨
赤芽球癆の存在の確認のため,血球算定を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

解 説

 赤芽球癆は胸腺上皮性腫瘍例の0.7~2.6%に合併すると報告されている1)~3)。胸腺上皮性腫瘍を疑う前縦隔腫瘍患者に貧血症状が認められる場合,血球数検査6)7)と貧血精査を行うことが推奨される。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸腺腫瘍小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
100%
(15/15)
0% 0% 0% 0%

CQ3.

胸腺上皮性腫瘍が疑われる場合,血清γグロブリンの測定は勧められるか?

推 奨
血清γグロブリンの測定を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:100%〕

解 説

 重症筋無力症や赤芽球癆と比べると頻度は低いが,低γグロブリン血症は胸腺上皮性腫瘍例の0.4~0.7%程度に合併すると報告されている1)2)。胸腺上皮性腫瘍を疑う前縦隔腫瘍患者に易感染性が認められる場合があり,γグロブリン8)の測定を行うことを提案する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸腺腫瘍小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 100%
(15/15)
0% 0% 0%
引用文献
1)
Kondo K, Monden Y. Therapy for thymic epithelial tumors: a clinical study of 1,320 patients from Japan. Ann Thorac Surg. 2003; 76(3): 878-84.
2)
Nakajima J, Okumura M, Yano M, et al; Japanese Association for Research of Thymus. Myasthenia gravis with thymic epithelial tumour: a retrospective analysis of a Japanese database. Eur J Cardiothorac Surg. 2016; 49(5): 1510-5.
3)
Padda SK, Yao X, Antonicelli A, et al. Paraneoplastic syndromes and thymic malignancies: an examination of the International Thymic Malignancy Interest Group retrospective database. J Thorac Oncol. 2018; 13(3): 436-46.
4)
Filosso PL, Guerrera F, Rendina AE, et al. Outcome of surgically resected thymic carcinoma: a multicenter experience. Lung Cancer. 2014; 83(2): 205-10.
5)
Nakajima J, Murakawa T, Fukami T, et al. Postthymectomy myasthenia gravis: relationship with thymoma and antiacetylcholine receptor antibody. Ann Thorac Surg. 2008; 86(3): 941-5.
6)
Masaoka A, Hashimoto T, Shibata K, et al. Thymomas associated with pure red cell aplasia. Histologic and follow-up studies. Cancer. 1989; 64(9): 1872-8.
7)
Hirokawa M, Sawada K, Fujishima N, et al; PRCA Collaborative Study Group. Long-term response and outcome following immunosuppressive therapy in thymoma-associated pure red cell aplasia: a nationwide cohort study in Japan by the PRCA collaborative study group. Haematologica. 2008; 93(1): 27-33.
8)
Tarr PE, Sneller MC, Mechanic LJ, et al. Infections in patients with immunodeficiency with thymoma(Good syndrome). Report of 5 cases and review of the literature. Medicine(Baltimore). 2001; 80(2): 123-33.
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