Ⅰ.診 断

3

確定診断

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1980年1月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:胸腺腫瘍,生検,針生検,細胞診断,組織診断
  • 医学図書館協会の協力を得て詳細な検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 胸腺上皮性腫瘍の確定診断目的の生検の文献に限り,原発巣診断のための患側胸腔鏡検査は除外した。
  • 上記条件以外のもので,必要と判断したものは採用した。

CQ7.

胸腺上皮性腫瘍が疑われる場合,経皮針生検は勧められるか?

推 奨
  • a.
  • 切除不能と判断される,術前治療を計画する,および他疾患との鑑別が必要な場合,経皮針生検を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:87.5%〕

  • b.
  • 切除可能と判断される場合は,経皮針生検は行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D,合意率:62.5%〕

解 説
  • a.縦隔腫瘍の鑑別診断は,臨床情報によりある程度可能であることが多い。奇形腫以外の胚細胞性腫瘍はほとんどが若年男性発生であり,重症筋無力症を合併していれば,ほぼ胸腺腫である。また前項に述べられているように,画像診断の精度も高くなっており,悪性リンパ腫や脂肪腫などの軟部腫瘍と胸腺上皮性腫瘍をある程度鑑別できるようになってきている。しかし,切除不能と判断される場合や,術前治療を計画する場合には,胸腺腫と胸腺癌で用いる化学療法レジメンが異なる場合が多いことより確定診断を得るべきである。また画像所見や臨床情報から悪性リンパ腫などの可能性が否定できない場合にも同様である。

     縦隔腫瘍に対する生検としては,多くの場合CTガイド下経皮針生検が行われる。しかしその方法は,穿刺吸引細胞診(FNA)から皮膚切開を行うものまでいくつかの報告があり,用いられた穿刺針の太さも一定ではない1)。Yonemoriらは18~20Gの生検針を用いた報告で,胸腺上皮性腫瘍においても高い確率でWHO組織型まで診断可能としている2)。また,免疫染色などを駆使すればFNAでも十分に診断できるとする報告なども散見される3)。しかし一方で,Morrisseyらは,FNA(19~22G)での60例とTru-Cut針(14G)での34例を比較し,診断正確度はFNAで77%,Tru-Cut針で94%であり,より正確な診断のためにはより大きな検体が必要との報告している4)。検体量に制限のある経皮針生検では,組織診断の確定に至らない場合も経験するという意見が委員から出された。よって,組織診断に大きな検体を要する悪性リンパ腫を強く疑う場合や,経皮針生検が困難または組織診断が得られなかった場合には,外科的生検(縦隔鏡,胸腔鏡を含む)を考慮してもよい5)

     経皮針生検の合併症(血痰,血腫,気胸など)については,ほとんどの報告で数%程度であるが,胸膜を貫通するルートでは,それに加えて悪性細胞の胸腔内散布のリスクもあり6),回避すべきと考えられている。

     以上より,胸腺上皮性腫瘍が疑われ,切除不能と判断される,術前治療を計画する,および他疾患との鑑別が必要な場合には,経皮針生検を行うよう勧められ,エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸腺腫瘍小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
87.5%
(14/16)
12.5%
(2/16)
0% 0% 0%
  • b.前項で述べたように,縦隔腫瘍の鑑別診断は,臨床情報によりある程度可能であることが多い。また経皮針生検では,a項で述べた副作用に加え,かなり稀ではあるが,穿刺通路に腫瘍の再発をきたしたとの報告もある6)7)。したがって,胸腺上皮性腫瘍が疑われ,切除可能ならば確定診断を得ることを省略して,外科的切除を行うことは妥当である。この診断・治療戦略には明確なエビデンスはないが,ESTSメンバーを対象としたサーベイランスにおいても,91%の施設が術前に組織診断をルーチンには行っていないと回答し,エキスパートのコンセンサスは得られていると考えられる8)

     したがって,切除可能と判断される場合には,経皮針生検は行わないよう推奨する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸腺腫瘍小委員会
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
推奨度決定不能 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 0% 0% 37.5%
(6/16)
62.5%
(10/16)
引用文献
1)
Marchevsky A, Marx A, Ströbel P, et al. Policies and reporting guidelines for small biopsy specimens of mediastinal masses. J Thorac Oncol. 2011; 6(7 Suppl 3): S1724-9.
2)
Yonemori K, Tsuta K, Tateishi U, et al. Diagnostic accuracy of CT-guided percutaneous cutting needle biopsy for thymic tumours. Clin Radiol. 2006; 61(9): 771-5.
3)
Powers CN, Silverman JF, Geisinger KR, et al. Fine-needle aspiration biopsy of the mediastinum. A multi-institutional analysis. Am J Clin Pathol. 1996; 105(2): 168-73.
4)
Morrissey B, Adams H, Gibbs AR, et al. Percutaneous needle biopsy of the mediastinum: review of 94 procedures. Thorax. 1993; 48(6): 632-7.
5)
Metin M, Sayar A, Turna A, et al. Extended cervical mediastinoscopy in the diagnosis of anterior mediastinal masses. Ann Thorac Surg. 2002; 73(1): 250-2.
6)
Kattach H, Hasan S, Clelland C, et al. Seeding of stage I thymoma into the chest wall 12 years after needle biopsy. Ann Thorac Surg. 2005; 79(1): 323-4.
7)
Okumura M, Shiono H, Inoue M, et al. Outcome of surgical treatment for recurrent thymic epithelial tumors with reference to world health organization histologic classification system. J Surg Oncol. 2007; 95(1): 40-4.
8)
Ruffini E, Van Raemdonck D, Detterbeck F, et al; European Society of Thoracic Surgeons Thymic Questionnaire Working Group. Management of thymic tumors: a survey of current practice among members of the European Society of Thoracic Surgeons. J Thorac Oncol. 2011; 6(3): 614-23.
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