Ⅰ.診 断

1

臨床症状,危険因子

文献検索と採択

文献検索期間
  • 1990年1月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:malignant pleural mesothelioma AND(epidemiology OR risk)
  • 委員がPubMedを用いて検索し,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,第Ⅱ相試験を中心に抽出した。なお,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
  • これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。

CQ1.

中皮腫にみられる臨床症状は何か?

推 奨
胸膜中皮腫の臨床症状として,胸部圧迫感,労作時呼吸困難,咳嗽などが認められる。
解 説

 悪性胸膜中皮腫は,初期は無症状であるが,胸水の増加に伴い胸部圧迫感や労作時呼吸困難が出現する1)。胸壁に浸潤が始まると胸痛,背部痛を自覚するようになる。疼痛は病期の進行につれて高度になる。中皮腫細胞は胸腔穿刺路や手術創に沿って播種病変を形成することがある。病気が進行すると,体重減少,食欲不振,発熱,寝汗,血小板増多症,低アルブミン血症,貧血などを呈することがある。

CQ2.

中皮腫発生の危険因子は何か?

推 奨
中皮腫の危険因子には,アスベスト曝露歴(職業性曝露,環境曝露),中皮腫の家族歴がある。
解 説

 中皮腫の発生とアスベスト曝露の関係は明らかである2)。非アスベストであるエリオナイトも中皮腫を発生させるが,国内からの報告はみられない。中皮腫の発生リスクを増加させない安全な累積アスベスト曝露量は明らかではない3)。がんの家族歴を有する中皮腫の6%に,生殖細胞系列(Germline)BAP1遺伝子変異があり,BAP1遺伝子変異の保因者は変異のない中皮腫患者よりも若く発症し,腹膜中皮腫の比率が高いとの報告があり,遺伝的素因の可能性が示唆されている4)

 放射線治療後に,電離放射線によって中皮腫が引き起こされる可能性を示唆する報告がある。一方,電離放射線と中皮腫発生との関係は明らかではないとの報告5)もあり,両者の因果関係は明らかでない。

引用文献
1)
Lee YC, Light RW, Musk AW. Management of malignant pleural mesothelioma: a critical review. Curr Opin Pulm Med. 2000; 6(4): 267-74.
2)
Wagner JC, Sleggs CA, Marchand P. Diffuse pleural mesothelioma and asbestos exposure in the North Western Cape Province. Br J Ind Med. 1960; 17: 260-71.
3)
Hillerdal G. Mesothelioma: cases associated with non-occupational and low dose exposures. Occup Environ Med. 1999; 56(8): 505-13.
4)
Ohar JA, Cheung M, Talarchek J, et al. Germline BAP1 Mutational Landscape of Asbestos-Exposed Malignant Mesothelioma Patients with Family History of Cancer. Cancer Res. 2016; 76(2): 206-15.
5)
Laurent O, Metz-Flamant C, Rogel A, et al. Relationship between occupational exposure to ionizing radiation and mortality at the French electricity company, period 1961-2003. Int Arch Occup Environ Health. 2010; 83(8): 935-44.
このページの先頭へ