Ⅰ.肺癌の診断
6
分子診断
文献検索と採択
- 文献検索期間
-
- 2001年1月1日から2019年12月31日
- 文献検索方法
-
- キーワード:lung cancer, molecular diagnosis, companion diagnostics, next generation sequencing, EGFR, KRAS, ALK, RET, ROS, PD-L1, BRAF, MET, MSI, NTRK
- 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,さらに今回,国際医学情報センターの協力により,下記の検索式で2018年版以降の検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
- 検索式(検索日:2020年3月18日)
-
#1 LUNG NEOPLASMS+NT/CT OR(LUNG OR PULMONARY)(3A)(NEOPLASM? OR ADENOCARCINOM? OR CARCINOM? OR CANCER? OR TUMOR? OR TUMOUR?)/TI,AB #2 MOLECULAR DIAGNOSTIC TECHNIQUES+NT/CT OR MOLECUL?(3A)DIAGNOS? #3 COMPANION?(3A)DIAGNOS? OR NEXT(3A)GENERAT?(3A)SEQUEN? #4 EGFR OR ALK OR ROS1 OR ROS OR PD(W)“#1” OR PDL1 OR EPIDERM?(3A)GROWTH?(3A)FACTOR?(3A)RECEPTOR? OR ANAPLAST?(3A)LYMPHOM?(3A)KINASE? OR PROGRAM?(3A)DEATH(3A)LIGAND?(W)1 #5 KRAS OR K(W)RAS OR KI(W)RAS OR BRAF OR B(W)RAF OR RET OR REARRANG?(2A)TRANSFECT? OR MET OR MESENCH?(3A)EPITHEL?(3A)(TRANSIT? OR TRANSFORM?)OR MSI OR MICROSATEL?(3A)INSTABIL? OR NTRK OR NEUROTROP?(3A)TYROSIN?(3A)KINASE? #6 #1 AND #2 #7 #1 AND #3 #8 #7 AND(#4 OR #5) #9 ((#4 OR #5)AND(SEQUENCE ANALYSIS+AUTO/CT OR PROTO-ONCOGENE PROTEINS+AUTO/CT OR MICROSATELLITE INSTABILITY+NT/CT))OR(EGFR/TI OR ALK/TI OR ROS1/TI OR ROS/TI OR PD/TI(W)“#1”/TI OR PDL1/TI OR EPIDERM?/TI(3A)GROWTH?/TI(3A)FACTOR?/TI(3A)RECEPTOR?/TI OR ANAPLAST?/TI(3A)LYMPHOM?/TI(3A)KINASE?/TI OR PROGRAM?/TI(3A)DEATH/TI(3A)LIGAND?/TI(W)1/TI)OR(KRAS/TI OR K/TI(W)RAS/TI OR KI/TI(W)RAS/TI OR BRAF/TI OR B/TI(W)RAF/TI OR RET/TI OR REARRANG?/TI(2A)TRANSFECT?/TI OR MET/TI OR MESENCH?/TI(3A)EPITHEL?/TI(3A)(TRANSIT?/TI OR TRANSFORM?/TI)OR MSI/TI OR MICROSATEL?/TI(3A)INSTABIL?/TI OR NTRK/TI OR NEUROTROP?/TI(3A)TYROSIN?/TI(3A)KINASE?/TI) #10 #9 AND #1 #11 (#6 OR #7 OR #10)AND(DI/CT OR DIAGNOS?/TI,AB) #12 #11 AND(“SENSITIVITY AND SPECIFICITY”+NT/CT OR(SENSITIV? OR SPECIF?)/TI,AB) #13 #11 AND((COMPARATIVE STUDY OR EVALUATION STUDY OR VALIDATION STUDY)/DT OR EVALUATION STUDIES AS TOPIC+NT/CT OR VALIDATION STUDIES AS TOPIC+NT/CT) #14 #12 OR #13 #15 #14/HUMAN AND ENGLISH/LA AND(2018-2019)/PY AND(20180101-20191231)/UP NOT EPUB?/FS
- 採択方法
-
- 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験から抽出した。
- 原著論文のみを選択し,エビデンスの質の高いものを最初に採用した。
- review articleもしくは検索時点で日本における未承認薬を用いた試験は除外した。
- 分子診断領域の文献では通常の基準によるエビデンスの質の高いものは極めて少数であった。したがって,分析疫学的研究や症例数の多い論文を次に採用した。
- 診断上,重要と考えられる文献,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
- 2018年版で採用し,今回も必要と判断したものは引き続き採用した。
CQ23.
治療方針を決めるための,分子診断の項目は何か?
- 推 奨
-
- a.
- 進行・再発非扁平上皮非小細胞肺癌の場合は,EGFR遺伝子変異検査,ALK融合遺伝子検査,ROS1融合遺伝子検査,BRAF遺伝子変異検査,MET遺伝子エクソン14スキッピング検査,PD-L1免疫組織化学染色検査(IHC)を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:A,合意率:100%〕
-
- b.
- 第一・二世代EGFR-TKIに治療抵抗性(耐性)となった進行・再発非扁平上皮非小細胞肺癌の場合は,EGFR遺伝子変異検査を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:B,合意率:100%〕
-
- c.
- 進行・再発扁平上皮肺癌の場合は,PD-L1 IHCを行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:A,合意率:95%〕
-
- d.
- 進行・再発扁平上皮肺癌の場合は,臨床背景(若年・非喫煙者など)などを考慮してEGFR遺伝子変異検査,ALK融合遺伝子検査,ROS1融合遺伝子検査,BRAF遺伝子変異検査,MET遺伝子エクソン14スキッピング検査を行うよう提案する。
〔推奨の強さ2:,エビデンスの強さ:D,合意率:89%〕
-
- e.
- NTRK融合遺伝子検査,MSI検査は固形癌が対象となるため,肺癌の場合においても行うよう提案する。
〔推奨の強さ2:,エビデンスの強さ:B,合意率:95%〕
-
a.EGFR遺伝子変異,ALK融合遺伝子を有する症例のみを対象とした第Ⅲ相試験において,いずれもEGFR-TKI単剤もしくはALK阻害薬単剤が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFSの有意な延長をもたらすことが報告された1)2)。ROS1遺伝子転座症例やBRAF遺伝子変異症例,MET遺伝子エクソン14スキッピング症例では,患者数が少ないことからそれらのキナーゼ阻害薬と細胞傷害性抗癌薬との第Ⅲ相試験は実施されていないが,第Ⅱ相試験でキナーゼ阻害薬の有効性が示されている3)〜5)。したがって,EGFR遺伝子変異検査,ALK遺伝子転座検査,ROS1遺伝子転座検査,BRAF遺伝子変異検査,MET遺伝子エクソン14スキッピング検査は,それぞれのキナーゼ阻害薬の適応を決定するために行うよう勧められる。
PD-L1 IHCにて腫瘍細胞の50%以上が陽性と判定された非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,ペムブロリズマブ単剤が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OSの有意な延長を示した6)7)。また,PD-L1 IHCにて腫瘍細胞の1%以上が陽性と判定された既治療非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験にて,ペムブロリズマブ単剤がドセタキセル単剤と比較してPFS,OSの有意な延長を示した8)。さらに,未治療非扁平非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,細胞傷害性抗癌薬+ICI併用療法が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OSの有意な延長を示し,サブグループ解析において,PD-L1が高発現症例において良好な結果を示した9)10)。したがって,PD-L1 IHC検査はペムブロリズマブによる治療の適否や細胞傷害性抗癌薬+ICI併用療法の効果を予測するために行うよう勧められる。
以上より,エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 推奨 |
行うことを 弱く推奨(提案) |
推奨度決定不能 | 行わないことを 弱く推奨(提案) |
行わないことを 推奨 |
---|---|---|---|---|
100% (19/19) |
0% | 0% | 0% | 0% |
-
b.第一・二世代のEGFR-TKIによる治療の後にT790M変異陽性となった患者を対象とした第Ⅲ相試験において,第三世代EGFR-TKIであるオシメルチニブが細胞傷害性抗癌薬と比較してPFSの有意な延長をもたらすことが報告された11)。したがって,EGFR遺伝子変異検査は第一・二世代のEGFR-TKIに治療抵抗性(耐性)となった患者に対するオシメルチニブ治療の適応を決定するために行うよう勧められる。
以上より,エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 推奨 |
行うことを 弱く推奨(提案) |
推奨度決定不能 | 行わないことを 弱く推奨(提案) |
行わないことを 推奨 |
---|---|---|---|---|
100% (19/19) |
0% | 0% | 0% | 0% |
-
c.PD-L1 IHCにて腫瘍細胞の50%以上が陽性と判定された非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,ペムブロリズマブ単剤が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OSの有意な延長を示した6)7)。また,PD-L1 IHCにて腫瘍細胞の1%以上が陽性と判定された既治療非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験にて,ペムブロリズマブ単剤がドセタキセル単剤と比較してPFS,OSの有意な延長を示した8)。また,ICI併用療法に関しても,未治療扁平上皮肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,細胞傷害性抗癌薬+ICI併用療法が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OSの有意な延長を示し,サブグループ解析において,PD-L1が高発現症例において良好な結果を示した12)。したがって,PD-L1 IHCはペムブロリズマブによる治療の適否や,細胞傷害性抗癌薬+ICI併用療法の効果を予測するために行うよう勧められる。
以上より,エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 推奨 |
行うことを 弱く推奨(提案) |
推奨度決定不能 | 行わないことを 弱く推奨(提案) |
行わないことを 推奨 |
---|---|---|---|---|
95% (18/19) |
5% (1/19) |
0% | 0% | 0% |
-
d.肺扁平上皮癌におけるEGFR遺伝子変異,ALK遺伝子転座,ROS1遺伝子転座,BRAF遺伝子変異,MET遺伝子エクソン14スキッピングの陽性頻度は極めて低い13)〜17)が,腺扁平上皮癌など腺癌成分を含む腫瘍ではこれらの遺伝子異常が検出される可能性がある。生検試料や細胞診試料などの微量なサンプルにおいては,腫瘍組織の全体像を把握することは困難であり腺癌成分の完全な除外を行うことは不可能であるため,扁平上皮癌と診断された症例においても,臨床背景(若年,非喫煙者など)により検査を行うことを考慮してもよい。
以上より,扁平上皮癌を対象としたデータは少なく,エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 推奨 |
行うことを 弱く推奨(提案) |
推奨度決定不能 | 行わないことを 弱く推奨(提案) |
行わないことを 推奨 |
---|---|---|---|---|
89% (17/19) |
11% (2/19) |
0% | 0% | 0% |
-
e.NTRK融合遺伝子陽性の固形癌を対象としたTRK阻害薬エヌトレクチニブの第Ⅰ相および第Ⅱ相臨床試験の統合解析において,高い奏効割合〔54%(95%CI:43.2-70.8%)〕が示された18)。また,前治療歴のあるミスマッチ修復(MMR)欠損またはマイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(大腸癌を除く)を対象とした抗PD-1抗体薬ペムブロリズマブの第Ⅱ相臨床試験の奏効割合は34.3%(95%CI:28.3-40.8%)であった19)。いずれも対象疾患が希少であるため肺癌患者のみを対象とした標準治療との比較試験は実施されていないが,これらの結果から,各々,治療薬の効果が期待される。したがって,その適応判定の補助となるNTRK融合遺伝子検査,MSI検査を行うよう提案する。
以上より,エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 推奨 |
行うことを 弱く推奨(提案) |
推奨度決定不能 | 行わないことを 弱く推奨(提案) |
行わないことを 推奨 |
---|---|---|---|---|
95% (18/19) |
5% (1/19) |
0% | 0% | 0% |
CQ24.
非小細胞肺癌の治療方針決定のために行う分子診断は,検査項目に優先順位をつけるか?
- 推 奨
- 検査項目に優先順位をつけず,同時に行うよう提案する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:68%〕
EGFR遺伝子検査,ALK遺伝子検査,ROS1遺伝子検査,BRAF遺伝子検査,MET遺伝子エクソン14スキッピング検査,PD-L1 IHCは,いずれもキナーゼ阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬選択のために必要な検査である。
EGFR遺伝子変異は肺腺癌の約半数に存在するものの,ALK遺伝子転座,ROS1遺伝子転座,BRAF遺伝子変異,MET遺伝子エクソン14スキッピングは,非小細胞肺癌の2〜3%と希少頻度である20)。またそれぞれのドライバー変異は相互排他的に存在していることから,これらの遺伝子検査を順次個別に行う方法も考えられるが,治療開始までの時間を短縮するために,また最適な治療薬の投与機会を逸しないために,初回診断時にこれらのドライバー遺伝子検査をPD-L1 IHCと同時にすべて行うことが望まれる。
これらのドライバー遺伝子においては,それぞれの項目に対するコンパニオン検査に加えて,複数遺伝子を対象にコンパニオン診断機能を有する遺伝子パネル検査が承認されている。また,がんゲノムプロファイリングを目的に行う遺伝子パネル検査においても,コンパニオン検査が存在する遺伝子の異常が検出された場合は,エキスパートパネルで推奨され担当医が適切と判断すれば,コンパニオン検査を行うことなく当該遺伝子異常に対する承認薬の投与が可能である。遺伝子パネル検査の適応や運用については,「肺癌患者における次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査の手引き」(日本肺癌学会ホームページ:各種ガイドライン インデックスページ)を参照すること。
以上より,現時点で優先順位をつけるかどうかについて示されたデータはなく,エビデンスの強さはD,また総合的評価では,優先順位をつけないよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 推奨 |
行うことを 弱く推奨(提案) |
推奨度決定不能 | 行わないことを 弱く推奨(提案) |
行わないことを 推奨 |
---|---|---|---|---|
32% (6/19) |
68% (13/19) |
0% | 0% | 0% |
- 1)
- Mitsudomi T, Morita S, Yatabe Y, et al. Gefitinib versus cisplatin plus docetaxel in patients with non-small-cell lung cancer harbouring mutations of the epidermal growth factor receptor(WJTOG3405): an open label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2010; 11(2): 121-8.
- 2)
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