第5章 症状がある場合,転移がある場合の治療
Q52
呼吸が苦しいのですが,やわらげることはできますか

 呼吸が苦しくなる原因は,病気そのものによるもの以外にも,治療の影響などさまざまなものがあります。息苦しさをやわらげるためには,まずは息苦しさの原因となっているものに対しての治療を行います。それでも症状がつづく場合には,酸素の吸入やモルヒネなどの薬物療法でやわらげることができます。日常生活を工夫することでも,息苦しさをやわらげることができますので,ぜひ医療者にご相談してみてください。

A
1.息苦しさの原因と評価

 息苦しさの原因には,肺がんによるもの(きょうすい貯留ちょりゅう,がんせいリンパかんしょうどう狭窄きょうさくなど)のほか,治療の影響〔こうがんざい細胞さいぼう傷害性しょうがいせいこうがんやく)など薬物療法の副作用,放射線療法後の肺臓炎〕,がん以外の心臓などの病気の影響,心理的な影響などがあります。

 いつから,どのくらい,何をしていると,どのように息苦しいのかを,担当医に伝えてください。パルスオキシメータという簡単な機器を指にはさんで,血液中の酸素が不足していないかチェックし,聴診や胸部X線検査などで呼吸不全の状態と原因の評価がなされます。

2.息苦しさの治療

 「原因を治す治療」(たとえば,胸水のはいえき,肺炎に対する抗菌薬治療など)が,まず行われます。必要な酸素が不足しているようであれば,「酸素療法」も併せて行います。空気中の酸素を濃縮する機器を自宅に設置して使用することも,携帯用酸素ボンベを携行して散歩することも可能です。

 症状を緩和する薬剤としては,モルヒネなどの医療用麻薬,抗不安薬,ステロイドなどが使われます。

 「モルヒネ」や「オキシコドン」は,痛み止めとして知られていますが,息苦しい感覚を緩和し,たんがらみのないせきを抑える役割があります。動くと息苦しさが強くなるような場合は,動く前に予防的に速放剤(すぐ効くタイプ)を使うとよいでしょう。必要な量には個人差がありますので,相談しながら調整していきます(副作用についてはQ51参照)。

 「抗不安薬」は,モルヒネとの併せて使うことが勧められており,緊張がほぐれリラックスして深呼吸することで呼吸を楽にする効果も期待されています。

 「ステロイド」は,がん性リンパ管症や気道の狭窄などに有効です。

3.生活の工夫

 ご自身でできることとしては,深呼吸や呼吸法の工夫,ストレッチ,リラックスや気分転換,十分な睡眠の確保などがあります。また,扇風機やうちわで空気の流れを作ったり,部屋の温度と湿度をやや低めに設定するなどの工夫で楽になることもあります。

 原因や全身状態により,これらの方法を上手に組み合わせて調整し,息苦しさをやわらげていきます。

 しかし,病気の進行に伴って息苦しさが徐々に進み,酸素吸入や薬剤の効果を実感しにくくなることも,ときにあります。その場合は,息苦しさが増すような動作をできるだけ避けて体力を温存したり,モルヒネなどの医療用麻薬や抗不安薬をさらに調節してうとうと眠ってやり過ごすという方法も可能です。何を優先して,どのように過ごしたいかを,家族や医療者・介護者と話し合っておくとよいでしょう(Q26参照)。

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