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Ⅲ.小細胞肺癌(SCLC)
進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)
文献検索と採択

本文中に用いた略語および用語の解説
AMR | アムルビシン | ||
---|---|---|---|
CBDCA | カルボプラチン | ||
CDDP | シスプラチン | ||
CPA | シクロフォスファミド | ||
CPT-11 | イリノテカン | ||
DTX | ドセタキセル | ||
DXR | ドキソルビシン | ||
ETP | エトポシド | ||
GEM | ゲムシタビン | ||
VCR | ビンクリスチン | ||
VNR | ビノレルビン | ||
プラチナ製剤 | CDDPとCBDCAの総称 | ||
ACE | ドキソルビシン+シクロフォスファミド+エトポシド | ||
CAV | シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン | ||
CE | カルボプラチン+エトポシド | ||
PA | シスプラチン+アムルビシン | ||
PE | シスプラチン+エトポシド | ||
PI | シスプラチン+イリノテカン | ||
SPE | 分割投与シスプラチン+エトポシド | ||
BSC | best supportive care | 緩和治療,ベストサポーティブケア | |
ED | extensive disease | 進展型 | |
HR | hazard ratio | ハザード比 | |
JCOG | Japan Clinical Oncology Group | 日本臨床腫瘍研究グループ | |
LD | limited disease | 限局型 | |
OS | overall survival | 全生存期間 | |
PS | performance status | 一般状態 | |
SCLC | small cell lung cancer | 小細胞肺癌 |
樹形図
GRADE
CQ71.進展型小細胞肺癌(PS 0-2,70歳以下)における最適な1次治療は何か?
- 推 奨
a.シスプラチン+イリノテカン療法を行うよう推奨する。(1A)
b.シスプラチン+エトポシド療法を行うよう提案する。(2A)
解 説
進展型小細胞肺癌に対しては,1980年代以降 CDDP+ETP(PE)との比較試験が行われた。2000年に報告されたCDDPを含む薬物療法とそれ以外との比較試験のメタアナリシスでは,CDDPを含むレジメンが奏効率および 1年生存率が有意に高く,治療関連死には差を認めなかったとしている1)。2000年以降,PEとDXR+CPA+ETP(ACE)との比較試験で,奏効率,生存期間に有意差はなく,ACE が有意に好中球減少,敗血症の割合が高かったことが示されていることから2),世界的には PE が標準治療と考えられてきた。
本邦で 70 歳以下の PS 0–2 を対象とした,PEとCDDP+CTP-11(PI)との比較試験(JCOG9511)が行われ,PIが有意に生存期間を延長することが示された(生存期間中央値 9.4 カ月 vs 12.8 カ月, P=0.002)3)。その後,北米を中心に PEとPIとの比較第Ⅲ相試験による追試が行われたが,各試験単独では両群間で生存期間に有意差を認めず,JCOG9511の結果を再現することはできなかった4)~6)。しかしながら,これら第Ⅲ相試験を含むプラチナ製剤+ETPとプラチナ製剤+CPT-11とのランダム化試験のメタアナリシスでは,CPT-11群が有意に生存期間を延長し,無増悪生存期間および奏効率もCPT-11群で改善する傾向にあることが示された7)8)。
また,PIもしくはPEと CDDP+AMR(PA)との比較試験が,本邦および中国で非劣性のデザインで行われ,PIに対してPAは非劣性を証明することはできなかった(PI対PA:生存期間中央値 17.7カ月 vs 15.0カ月,HR 1.43,95%CI:1.10-1.85)9)。一方,PEに対しては,非劣性は証明されたものの両群の生存期間に有意差はなかった(PE対PA:生存期間中央値10.3カ月 vs 11.8カ月,HR 0.81,95%CI:0.63–1.03)10)。
PIの特徴として血液毒性が軽度な一方,嘔吐,下痢の頻度が高いことが示されている7)8)11)。また,間質性肺炎を有する患者には禁忌とされている。そのため,下痢の発症が懸念される患者,間質性肺炎の発症が懸念される,もしくは間質性肺炎を合併している患者には PEを行うよう勧められる。
以上の結果から,PS 0–2の70歳以下の患者にはPIを行うよう推奨される。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。一方,PEは世界的に標準とされるレジメンであるが,JCOG9511においてPIに劣り,メタアナリシスでも同様の結果が認められている。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Aとした。
本邦で 70 歳以下の PS 0–2 を対象とした,PEとCDDP+CTP-11(PI)との比較試験(JCOG9511)が行われ,PIが有意に生存期間を延長することが示された(生存期間中央値 9.4 カ月 vs 12.8 カ月, P=0.002)3)。その後,北米を中心に PEとPIとの比較第Ⅲ相試験による追試が行われたが,各試験単独では両群間で生存期間に有意差を認めず,JCOG9511の結果を再現することはできなかった4)~6)。しかしながら,これら第Ⅲ相試験を含むプラチナ製剤+ETPとプラチナ製剤+CPT-11とのランダム化試験のメタアナリシスでは,CPT-11群が有意に生存期間を延長し,無増悪生存期間および奏効率もCPT-11群で改善する傾向にあることが示された7)8)。
また,PIもしくはPEと CDDP+AMR(PA)との比較試験が,本邦および中国で非劣性のデザインで行われ,PIに対してPAは非劣性を証明することはできなかった(PI対PA:生存期間中央値 17.7カ月 vs 15.0カ月,HR 1.43,95%CI:1.10-1.85)9)。一方,PEに対しては,非劣性は証明されたものの両群の生存期間に有意差はなかった(PE対PA:生存期間中央値10.3カ月 vs 11.8カ月,HR 0.81,95%CI:0.63–1.03)10)。
PIの特徴として血液毒性が軽度な一方,嘔吐,下痢の頻度が高いことが示されている7)8)11)。また,間質性肺炎を有する患者には禁忌とされている。そのため,下痢の発症が懸念される患者,間質性肺炎の発症が懸念される,もしくは間質性肺炎を合併している患者には PEを行うよう勧められる。
以上の結果から,PS 0–2の70歳以下の患者にはPIを行うよう推奨される。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。一方,PEは世界的に標準とされるレジメンであるが,JCOG9511においてPIに劣り,メタアナリシスでも同様の結果が認められている。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Aとした。
GRADE
CQ72.進展型小細胞肺癌(PS 0–2,71歳以上)における最適な1次治療は何か?
- 推 奨
a.シスプラチンの一括投与が可能な場合にはシスプラチン+エトポシド療法を行うよう推奨する。(1B)
b.シスプラチンの一括投与が困難な場合にはカルボプラチン+エトポシド療法あるいはsplit PE療法を行うよう推奨する。(1C)
解 説
- a.
- 1980年代以降CDDP+ETP(PE)は小細胞肺癌の治療に頻用され,海外の第Ⅲ相試験では年齢制限なく臨床試験が行われていることが多い。本邦では75歳未満のPS 0–3の小細胞肺癌(限局型,進展型を含む)に対しPEとCPA+DXR+VCR(CAV)とCAV/PE交代療法を比較する第Ⅲ相試験が行われ,PE療法とCAV/PE療法の奏効率がCAVより有意に高く(PE 78%,CAV/PE 76%,CAV 55%,P<0.005),毒性は許容範囲であった12)。
以上より,PS 0–2,71歳以上の進展型小細胞肺癌に対する1次治療としてPEが推奨される。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Bとした。
なお,CDDP+CPT-11(PI)に関して,71歳以上の高齢者の小細胞肺癌に対する本邦のエビデンスは現時点では存在しない。しかしながら,本邦で行われたPS 0–2の進展型小細胞肺癌に対する比較試験の結果PIがPEに比べ有意に生存期間を延長することが示されたこと3),ならびに本邦で行われた74歳までのPS 0-1の進行非小細胞肺癌を対象にCDDP+CPT-11,CDDP+GEM,CDDP+VNR,CBDCA+DTXの4群を比較する第Ⅲ相試験13)の結果より毒性は許容範囲であることから,実地臨床ではPIが74歳までの進展型小細胞肺癌に使用されることもある。 - b.
- 本邦で,70歳以上のPS 0–2の高齢者および70歳未満のPS 3の患者を対象としたCBDCA+ETP(CE)とsplit PE(SPE:CDDP 3日間分割投与)との比較第Ⅲ相試験が行われ,CE群でGrade 3/4の血小板減少がより多く認められた(CE 56% vs SPE 16%,P<0.01)が,奏効率(73% vs 73%),70歳以上かつPS 0–2のサブセットOS(10.8カ月 vs 10.1カ月)はほぼ同様であった14)。
以上より,PS 0–2,71歳以上の進展型小細胞肺癌に対する1次治療として,CDDP一括投与が困難な場合にはCEあるいはSPEが推奨される。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。
GRADE
CQ73.進展型小細胞肺癌(PS 3)における最適な1次治療は何か?
- 推 奨
- カルボプラチン+エトポシド療法あるいはsplit PE療法を行うよう提案する。(2C)
解 説
海外で行われた,PS 3を含めた2つの第Ⅲ相試験15)16)(ただしいずれもWHO PS 3)もあり,PS 3に関しては小細胞肺癌に対する治療効果によってPSの改善が得られる可能性があれば薬物療法の対象になり得る。
本邦で,70歳以上のPS 0–2の高齢者および70歳未満のPS 3の患者を対象としたCBDCA+ETP(CE)とsplit PE(SPE:CDDP 3日間分割投与)との比較第Ⅲ相試験が行われ,CE群でGrade 3/4の血小板減少がより多く認められた(CE 56% vs SPE 16%,P<0.01)が,奏効率(73% vs 73%),70歳未満のPS 3のサブセットOS(7.1カ月 vs 6.9カ月)はほぼ同様であった14)。しかし,この試験におけるPS 3の登録は8%(18/220例)にとどまることは留意すべきである。
以上から,PS 3の進展型小細胞肺癌に対してCE療法もしくはsplit PE療法による薬物療法を行うよう提案する。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Cとした。
本邦で,70歳以上のPS 0–2の高齢者および70歳未満のPS 3の患者を対象としたCBDCA+ETP(CE)とsplit PE(SPE:CDDP 3日間分割投与)との比較第Ⅲ相試験が行われ,CE群でGrade 3/4の血小板減少がより多く認められた(CE 56% vs SPE 16%,P<0.01)が,奏効率(73% vs 73%),70歳未満のPS 3のサブセットOS(7.1カ月 vs 6.9カ月)はほぼ同様であった14)。しかし,この試験におけるPS 3の登録は8%(18/220例)にとどまることは留意すべきである。
以上から,PS 3の進展型小細胞肺癌に対してCE療法もしくはsplit PE療法による薬物療法を行うよう提案する。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Cとした。
GRADE
CQ74.進展型小細胞肺癌(PS 4)に薬物療法は勧められるか?
- 推 奨
- 進展型小細胞肺癌(PS 4)に対して薬物療法は行うよう勧めるだけの根拠が明確でない。(推奨なし)
解 説
PS 4を含めた第Ⅲ相試験16)はあるが,PS 4の登録は3%(9/339例)とごくわずかであり,かつ薬物療法同士の比較試験でありBSCとの比較試験ではないため,薬物療法を勧められるかどうかのエビデンスにはならない。その他にPS 4を主たる対象にしての前向き試験の評価は行われておらず,進展型小細胞癌(PS 4)に関するエビデンスはないのが現状である。
以上より,PS 4に対しては毒性も考慮し薬物療法は行うよう勧めるだけの根拠が明確でなく,推奨なしとした。
以上より,PS 4に対しては毒性も考慮し薬物療法は行うよう勧めるだけの根拠が明確でなく,推奨なしとした。
引用文献
- 1)Pujol JL, Carestia L, Daurès JP. Is there a case for cisplatin in the treatment of small-cell lung cancer? A meta-analysis of randomized trials of a cisplatin-containing regimen versus a regimen without this alkylating agent. Br J Cancer. 2000; 83(1): 8-15.
- 2)Baka S, Califano R, Ferraldeschi R, et al. Phase III randomised trial of doxorubicin-based chemotherapy compared with platinum-based chemotherapy in small-cell lung cancer. Br J Cancer. 2008; 99(3): 442-7.
- 3)Noda K, Nishiwaki Y, Kawahara M, et al. Irinotecan plus cisplatin compared with etoposide plus cisplatin for extensive small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2002; 346(2): 85-91.
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- 11)Jiang L, Yang KH, Mi DH, et al. Safety of irinotecan/cisplatin versus etoposide/cisplatin for patients with extensive-stage small-cell lung cancer: a metaanalysis. Clin Lung Cancer. 2007; 8(8): 497-501.
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- 14)Okamoto H, Watanabe K, Kunikane H, et al. Randomised phase III trial of carboplatin plus etoposide vs split doses of cisplatin plus etoposide in elderly or poor-risk patients with extensive disease small-cell lung cancer: JCOG 9702. Br J Cancer. 2007; 97(2): 162-9.
- 15)Souhami RL, Spiro SG, Rudd RM, et al. Five-day oral etoposide treatment for advanced small-cell lung cancer: randomized comparison with intravenous chemotherapy. J Natl Cancer Inst. 1997; 89(8): 577-80.
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レジメン:進展型小細胞肺癌
PI療法 | CDDP | 60 mg/m2,day 1 | q4w |
---|---|---|---|
CPT-11 | 60 mg/m2,day 1,8,15 | ||
PE療法 | CDDP | 80 mg/m2,day 1 | q3w |
ETP | 100 mg/m2,day 1,2,3 | ||
CE療法 | CBDCA | AUC=5,day 1 | q3~4 w |
ETP | 80 mg/m2,day 1,2,3 | ||
SPE(CDDP分割)療法 | CDDP | 25 mg/m2,day 1,2,3 | q3~4 w |
ETP | 80 mg/m2,day 1,2,3 |