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Ⅲ.小細胞肺癌(SCLC)

限局型小細胞肺癌(LD-SCLC)

文献検索と採択

限局型小細胞肺癌

本文中に用いた略語および用語の解説

CBDCA カルボプラチン
CDDP シスプラチン
CPT-11 イリノテカン
ETP エトポシド
プラチナ製剤 CDDPとCBDCAの総称
BSC best supportive care 緩和治療,ベストサポーティブケア
CR complete remission 完全寛解
IASLC International Association for the Study of Lung Cancer 国際肺癌学会
LD limited disease 限局型
OS overall survival 全生存期間
PCI prophylactic cranial irradiation 予防的全脳照射
PS performance status 一般状態
SCLC small cell lung cancer 小細胞肺癌
小細胞肺癌の限局型(Limited disease;LD)および進展型(Extensive disease;ED)の定義
 肺癌取扱い規約第7版(日本肺癌学会編)では小細胞肺癌について,「limited disease」(限局型)と「extensive disease」(進展型)の分類には意見の一致が得られておらず,「limited」と「extensive」の定義が確立していない現状では,TNMの記載は重要であるとしている。
 しかし,小細胞肺癌の治療選択の面からは,限局型と進展型の区分は重要と考えられるため,本ガイドラインでは多くの第Ⅲ相臨床試験で採用されている定義,すなわち病変が同側胸郭内に加え,対側縦隔,対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており悪性胸水,心嚢水を有さないものを限局型小細胞肺癌と定義付けた。

樹形図

GRADE
CQ64.臨床病期Ⅰ期の小細胞肺癌に外科治療は勧められるか?
推 奨
臨床病期Ⅰ期の小細胞肺癌に対して,外科治療を行うよう推奨する。(1C)
解 説
 限局型小細胞肺癌(LD)に対する標準治療は化学放射線療法とされているが,なかでも臨床病期Ⅰ期(特にcT1N0M0)については,外科治療を含む治療法により,治癒や長期生存が期待でき1)2),外科治療単独あるいはこれに薬物療法や放射線治療を加えることで,5年生存率が40~70%に達することが報告されている3)~6)。術式では,肺葉切除以上の術式が,部分切除術と比較して生存期間が良好であると報告されており7),また薬物療法単独群や化学放射線療法群よりは,外科治療に薬物療法を加えた群での局所制御率と生存期間中央値が有意に良好であることが報告されている8)9)
 しかしながら,外科治療の対象となる症例数は少ないため,外科治療を含む治療法とこれ以外の治療法の比較試験は存在せず,今後も施行の可能性は極めて乏しいことが予想される。臨床病期Ⅰ期小細胞肺癌に対する外科治療を含む治療は治癒が得られる可能性があり,切除後に小細胞肺癌の診断が得られるケースも存在することから,すでに実地臨床においてもこの方針が踏襲されつつある。エビデンスレベルの高い研究を列挙することは困難であるが,治療法の選択肢の1つとして推奨され得る治療法である。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。
 一方,リンパ節転移を認めるLDにおける手術療法の有用性は明らかでない。国際肺癌学会(IASLC)による肺癌患者12,620例のデータベースから,349例の小細胞肺癌症例に外科治療が施行された結果が報告されている。その結果,病理病期N0症例では生存期間中央値が51カ月(5年生存率49%)であったのに対し,N1症例では24カ月(5年生存率33%)と低下することが示されている10)
GRADE
CQ65.小細胞肺癌の手術後の治療は何が勧められるか?
推 奨

a.小細胞肺癌の手術後の治療として,薬物療法を行うよう推奨する。(1C)

b.小細胞肺癌の手術後の治療として,放射線治療を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。(推奨なし)

解 説
 外科治療と併用される治療法として,どのタイミングでどの治療法を組み合わせるのがよいかということに関しては,推奨の根拠となる十分なエビデンスは存在しない。主として術前,術後の全身薬物療法が併用された報告が多く5)6)11),術後の放射線治療については報告が少ない12)13)。本邦で行われた,外科治療後にCDDP+ETPによる薬物療法の有用性を検証する第Ⅱ相試験の報告では,臨床病期Ⅰ期の44症例では3年生存率が68%であり,病理病期ⅠA期症例では5年生存率が73%,局所再発率が10%と良好な成績であった14)
 Ⅰ期の完全切除例の術後治療に関するコホート研究では,術後に薬物療法を施行した群で,外科治療単独群と比較しOSは有意に良好であり,生存に関する多変量解析では,術後薬物療法または術後薬物療法+予防的全脳照射(PCI)で有意に良好な結果であった15)
 術後の放射線治療に関しては,完全切除された限局型小細胞肺癌3,017例の後ろ向き研究において,放射線治療施行群の5年生存率は,放射線治療非施行群に比べて有意に劣っていたことが報告されている。一方,この研究におけるサブグループ解析で,pN0群の5年生存率は放射線治療施行群で劣っていたが,pN2症例では,放射線治療施行群で有意に良好であった16)
 外科治療の対象となるLDの症例数が極めて少ないことを考えると,外科治療に付加する併用療法の意義を検証する比較試験は,今後も実現不可能と考えられる。
 小細胞肺癌は薬物療法に対する感受性が高いこと,また術後の薬物療法に対する良好な治療成績が報告されていること,さらに実地臨床においては切除して初めて小細胞肺癌と診断される症例も存在することなどを考慮に入れると,エビデンスレベルの高い研究を列挙することは困難であるが,外科治療後の全身薬物療法は,行うよう勧められる治療法の選択肢の1つと考えられる。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。
 一方,Ⅰ期症例における外科治療後の放射線治療に関しては,行うよう勧められるだけの根拠が明確ではなく,推奨なしとした。
GRADE
CQ66.限局型小細胞肺癌(PS 0-2)において化学放射線療法は勧められるか?
推 奨
限局型小細胞肺癌(PS 0-2)に対して,化学放射線療法を行うよう推奨する。(1A)
解 説
 LDに対して薬物療法と胸部放射線治療の併用は,薬物療法単独に比べて生存を改善することが2つのメタアナリシスにより明らかにされている。13の比較試験のメタアナリシスでは,薬物療法に胸部放射線治療を併用すると,死亡の絶対リスクが14%減少し,3年生存率が5.4±1.4%改善することが報告されている17)。11の比較試験のメタアナリシスでは,薬物療法に胸部放射線治療を併用すると,2年生存率が5.4%,局所制御率が25.3%改善することが報告されている18)。有害事象に関しては,薬物療法と胸部放射線治療の併用により治療関連死が1.2%増加することが報告されており,併用の際には有害事象の発生について十分に注意する必要がある。
 以上,複数のメタアナリシスにて放射線治療と薬物療法の併用の有用性が示されていることから,化学放射線療法を行うよう推奨される。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。
GRADE
CQ67.限局型小細胞肺癌(PS 0–2)の化学放射線療法における放射線治療のタイミングは,早期同時併用が勧められるか?
推 奨
限局型小細胞肺癌(PS 0–2)の化学放射線療法における放射線治療は,早期同時併用を行うよう推奨する。(1B)
解 説
 薬物療法に胸部放射線治療を併用する場合のタイミングとして,主に同時併用(早期・後期)と逐次併用が挙げられる。CDDP+ETP療法に過分割照射を用いた放射線同時併用と逐次併用の比較試験では,前者において良好な生存期間中央値が得られ(27.2カ月 vs 19.7カ月,P = 0.097),毒性も認容可能であった19)。同時併用における放射線療法の時期を検討する比較試験においては,いくつかの試験で早期同時併用することにより生存が改善することが示されている20)~25)。放射線治療のタイミングを検討したこれらの試験のメタアナリシスでは,早期同時併用の2年生存率の有意な改善26),プラチナ製剤併用療法を用いた場合の早期同時併用の2年生存率の有意な改善27),治療開始(放射線治療もしくは薬物療法)から放射線治療の終了日までの期間が30日以内であった場合の5年生存率の有意な改善28),薬物療法のコンプライアンスが同様であった場合に早期もしくは短期間の放射線併用療法でOSの有意な改善29)などが報告されている。これらの結果は早期の放射線治療の施行と照射期間の短縮が独立した因子あるいは相互的に影響して予後を改善する可能性を支持している。
 一方,有害事象に関しては,同時併用や早期同時併用において食道炎や肺臓炎,骨髄抑制(白血球減少,好中球減少,貧血)の頻度が増加することが報告されている。
 以上より,限局型小細胞肺癌(PS 0–2)の化学放射線療法における放射線治療は早期同時併用を行うよう推奨される。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Bとした。
GRADE
CQ68.限局型小細胞肺癌(PS 0–2)に対する放射線照射法は,通常照射法と加速過分割照射法のどちらが勧められるか?
推 奨
限局型小細胞肺癌(PS 0–2)に対する放射線照射法は,加速過分割照射法を行うよう推奨する。(1B)
解 説
 化学療法と放射線治療を併用する際の放射線照射方法に関しては,過分割照射法と通常照射法を比較した2つのランダム化試験が報告されている。通常照射法45 Gy/25回/5週と加速過分割照射法45 Gy/30回/3週の比較試験では,加速過分割照射法群で有意に生存を改善した30)。一方,通常照射法50.4 Gy/28回/6週と2.5週間の休止期間を含む過分割照射48 Gy/32回/6週の比較試験ではOS,局所制御率,無再発生存期間において両群間で差がなかった31)。上記2試験が異なる結果となった理由の1つとして,全照射期間の違いが挙げられる。全照射期間の延長は照射中の腫瘍の加速再増殖を促す可能性があり,全照射期間の短縮は治療成績の向上につながると考えられるため,放射線治療の成績に影響したと考えられる。もう1つの理由としては通常照射法の線量の違いが指摘されている。通常照射法45 Gy/25回/5週と加速過分割照射法45 Gy/30回/3週を用いた試験では,総線量は同じであるものの生物学的な効果を示す線量として加速過分割照射法が高い線量となっている。一方,通常照射法50.4 Gy/28回/6週を用いた試験では前者の試験の通常照射法と比べてより高い線量を使用しており通常照射法の線量の違いが治療成績に影響した可能性がある。一方,有害事象に関しては,加速過分割照射法で通常照射法より食道炎の頻度が高いことが報告されている。
 以上より,限局型小細胞肺癌(PS 0–2)に対する放射線照射法は,1つのランダム化比較試験において加速過分割照射の有効性が認められ,複数のランダム化比較試験で加速過分割照射,45 Gy/30回/3週が採用されていることから加速過分割照射法を行うよう勧められる。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Bとした。なお,加速過分割照射による急性障害の増強の懸念や,通常照射でも線量増加により同程度の治療効果が得られる報告も存在することから,加速過分割照射が困難であれば通常照射での治療も選択肢となる。
GRADE
CQ69.限局型小細胞肺癌(PS 0–2)に対する化学放射線療法に併用する最適な薬物療法は何か?
推 奨

a.限局型小細胞肺癌(PS 0–2)に対する放射線治療と同時併用する際の薬物療法は,シスプラチン+エトポシド療法を行うよう推奨する。(1C)

b.シスプラチン+エトポシド療法の投与が困難な場合,カルボプラチン+エトポシド療法後に逐次放射線療法を行うよう提案する。(2D)

解 説
a.
化学放射線療法に併用する薬物療法のレジメンに関しては,放射線治療の照射方法を一定にして薬物療法のレジメンを比較検討した臨床試験はない。薬物療法と過分割照射による放射線治療の同時併用の比較試験においてCDDP+ETP療法が多く用いられており19)30)31),本邦で行われたCDDP+ETP療法(1サイクル)と多分割照射同時併用療法後にCDDP+CPT-11療法へ変更する群(3サイクル)とCDDP+ETP療法を継続する群(3サイクル)を比較した第Ⅲ相試験において,IP群における生存期間延長効果を認めなかった32)ことより,化学放射線療法に併用する薬物療法のレジメンは,CDDP+ETP療法を行うよう勧めらる。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。
b.
CDDP+ETP療法以外の化学放射線療法に併用するレジメンとしては,CBDCA+ETP療法などが検討されているが,エビデンスは少なく骨髄抑制の頻度が高いことが報告されている33)34)。高齢者に関しては,LDに対する化学放射線療法を評価する多くの臨床試験において対象が75歳以下に限定されておりデータは少ない。一部の臨床試験では年齢制限を設けておらず,少数ではあるが75歳以上の患者も登録されており,70歳以上と70歳以下のサブグループ解析では,毒性は有意に増すものの生存期間などの治療成績は同等と報告されている35)。 また,70歳以上のLD症例における8,637例のコホート研究では,薬物療法と放射線治療(同時併用もしくは遂時併用)を施行した群で,薬物療法単独群よりOSの有意な延長を認めたことが報告されている36)。LDの治療目標は治癒であることから,高齢であることのみを理由に治療強度を減弱させるのは好ましくないが,化学放射線療法の同時併用療法はその毒性を鑑みると慎重に行う必要がある。実臨床においてはCDDP+ETP療法の投与が困難な症例,高齢者,PS不良例においては毒性を考慮し薬物療法+遂時放射線療法が選択されることが多い。
 以上より,CDDP+ETP療法の投与が困難な場合には,CBDCA+ETP療法後に逐次放射線療法を提案する。エビデンスレベルはD,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Dとした。
GRADE
CQ70.PS 3-4の限局型小細胞肺癌に対して薬物療法は勧められるか?
推 奨

a.PS 3の限局型小細胞肺癌に対して薬物療法を行うよう提案する。(2C)

b.PS 4の限局型小細胞肺癌に対して薬物療法は行うよう勧めるだけの根拠が明確でない。(推奨なし)

解 説
a.
PS 3の限局型小細胞肺癌 に対する化学放射線療法のデータはない。進展型小細胞肺癌ではPS不良例に対しても至適な薬物療法を検討する臨床試験がいくつか行われており37)38),PS悪化の原因が小細胞肺癌によるものであり,小細胞肺癌に対する治療効果によってPSの改善が得られる可能性があれば薬物療法単独治療の対象になり得る。また,薬物療法中もしくは薬物療法後にPSが0–2に改善した場合,LDに対して薬物療法と放射線治療の併用が薬物療法単独に比べて生存を改善することが2つのメタアナリシスにより明らかにされており17)18),同時併用でなくとも放射線治療を追加することで生存期間が延長する可能性があることから,薬物療法施行後にPSの改善が得られれば放射線治療の追加も検討する。
 以上より,PS 3の小細胞肺癌に対する治療のデータは少ないが,小細胞肺癌に対する薬物療法の良好な効果を考慮し行うよう提案する。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Cとした。
b.
PS 4に対する薬物療法の有効性や安全性のデータは極めて少ない37)。 小細胞肺癌に対する薬物療法の有効性を考慮すると,PSの悪化の原因が小細胞肺癌によるもので小細胞肺癌に対する治療効果によってPSの改善が得られる可能性があれば薬物療法の対象になり得ると考えられるが,PS 4に対しては毒性も考慮し薬物療法は行うよう勧めるだけの根拠が明確でなく,推奨なしとした。
引用文献

レジメン:限局型小細胞肺癌

胸部放射線治療 加速過分割照射法 1日2回,45 Gy/30回 3週
化学療法 CDDP 80 mg/m2, on day 1 3-4週毎
(放射線治療施行中は4週毎)
ETP 100 mg/m2, on day 1, 2, 3
  • ※1.放射線治療は化学療法1コース目の第2日目から開始(早期併用)
  • ※2.化学療法は放射線治療完遂後も合計4コースまで継続
  • ※3.加速過分割照射法が困難であれば,通常分割照射法50~60 Gy/25~30回(5~6週)を推奨
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