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Ⅱ.非小細胞肺癌

切除不能Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌

文献検索と採択

切除不能Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌
3-1.Ⅰ-Ⅱ期に対する放射線療法
推 奨

a.医学的な理由で手術できないⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌には,根治的放射線治療の適応があり,行うように勧められる。(グレードB)

b.医学的な理由で手術できないⅠ期非小細胞肺癌の根治的放射線治療では,予防的リンパ節領域照射を行うよう勧められるだけの科学的根拠が明確でない。(グレードC2)

c.Ⅰ期非小細胞肺癌に対する放射線治療の方法としては,体幹部定位放射線照射など線量の集中性を高める高精度放射線照射技術を用いることが勧められる。(グレードB)

エビデンス
a.
26の非ランダム化試験から集めた手術不能Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌2,003人の治療成績を比較すると,2年生存率22~72%,5年生存率0~42%であった1)。肺癌以外で他病死する患者が11~43%あり,原病2年生存率は54~93%,原病5年生存率は13~39%,また局所再発は6~70%にみられた。
 Ⅰ期非小細胞肺癌に対する根治的放射線療法の1988~1998年の10論文の解析では,15%の長期生存が得られ,25%は他病死,30%は遠隔転移死,30%は局所再発死であった2)。放射線治療に伴うGrade 3~5の毒性は2%未満であった。
 Ⅰ期非小細胞肺癌の放射線治療(1998~2000年)に関する18論文に対して行ったレビューでは,3年,5年生存率は各々34±9%,21±8%であった3)。原病生存率は3年,5年でそれぞれ39±10%,25±5%であった。再発形式では,局所再発率が6.4%~70%であったのに対して,所属リンパ節再発は0~3%と少なかった。
 日本の代表的な10施設において1980~1989年に55~75 Gy(平均64.7 Gy)照射したⅠ期非小細胞肺癌149人の放射線治療成績は5年生存率が22%で生存期間中央値が27カ月であった4)
 ガイドライン8件のレビューでも,「Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌の非手術症例は放射線治療の適応がある」としたガイドラインがⅠ期で6件,Ⅱ期で5件であった5)
 医学的な理由で手術できないⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して経過観察と根治的放射線治療とのランダム化比較試験はなくエビデンスレベルはVである。しかし,いずれのレビューにおいても医学的な理由で手術不能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対しては,経過観察より根治的放射線療法を行うべきと結論されているので,推奨グレードをBとした。
b.
Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して,照射範囲に関して縦隔の予防照射をランダムに比較した試験はない。しかし,26の非ランダム化比較試験から集めたⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌2,003人の治療成績の分析では,Ⅰ期であれば局所照射のみで肺門および縦隔に単独再発する確率は0~3%である1)。また他の解析でもⅠ期非小細胞肺癌に対する縦隔への予防照射野有効性は確認できていない2)
 以上の点より,Ⅰ期非小細胞肺癌では,局所照射でよいと考えられる。ただし,Ⅱ期非小細胞肺癌では縦隔への予防照射の意義を検討した報告はなく,病態に応じて行うことを考慮してもよいと考えられる。
c.
近年は,末梢型Ⅰ期非小細胞肺癌については,体幹部定位放射線照射(SBRT)や陽子線・炭素線照射などを用いて線量を局所に集中し,従来より高い線量を照射する高精度放射線治療が積極的に行われている。Ⅰ期肺癌に対する48 Gy/4分割のSBRTでは中央値30カ月の経過観察中でGrade 3以上の重篤な合併症はなく,ⅠA期の3年無病累積生存率および累積全生存率は各々72%,83%であり,同じくⅠB期では71%,72%と報告されている6)。国内14施設のSBRT症例の局所制御率は86%であり,BED10>100 Gyの照射を行い,かつ手術可能であった症例の5年生存率は70.8%と良好であった7)。RTOG0236による60 Gy/3分割のSBRTでは,局所制御率が98%と極めて高値であり,かつ致死的な有害事象もなかったとしている8)。また,中枢型肺癌の定義については未だ議論があるが,中枢型肺癌に対するSBRTの局所制御率は85%以上,BED3<210 Gyでは治療関連死は1%以下,Grade 3~4の有害事象も9%以下と報告されている9)
 以上のように,手術不能のⅠ期非小細胞肺癌,特に末梢型に対しては,複数の臨床試験を含めた多くの報告でSBRTの高い局所制御率と原病生存率が示されている。
 一方,炭素線照射による長期観察結果報告では,すべての患者の局所制御率は94.7%であった10)。5年原病,全生存率はそれぞれ75.7%,50%であった。またGrade 3以上の有害事象はなかったとしている。また陽子線照射による治療成績の報告では,24カ月の平均観察期間で,2年の局所無再発生存率が80%で,全生存率が84%であり11),晩期有害事象も軽度であったとしている。
 また,Ⅰ期非小細胞肺癌に対して粒子線治療(重粒子線・陽子線治療)による線量増加や線量の集中性を高めた照射法はSBRTと同等の治療成績であったという報告もあり12),優位性についてのエビデンスは乏しいが,局所制御率を高める方法として検討されるべき治療法と考えられる。ただし,本邦では肺癌に対する粒子線治療は保険診療としては認められておらず,先進医療として行われており,患者負担も高額である。
 手術可能肺癌に対する手術とSBRTのランダム化比較試験の統合解析が報告されたが,完遂不能であった小数例の解析であり,結論付けることはできない13)
引用文献
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