総 論
肺癌の診断(病理・細胞診断の総論は後述)
解 説

1)危険因子と臨床症状,検出方法について

 肺癌は日本人における癌死の第1位であり,発生率は50歳以上で急激に増加する。日本人が生涯のうちに肺癌になる割合は男性で7.4%,女性で3.1%である。喫煙は危険因子の1つであり,非喫煙者に比べて,喫煙者が肺癌になるリスクは男性で4.4倍,女性で2.8倍と高い。喫煙開始年齢が若いほど,喫煙量が多いほど,肺癌リスクは高くなる。喫煙の他に慢性閉塞性肺疾患,間質性肺炎,アスベスト症などの吸入性肺疾患,肺癌の既往歴や家族歴,年齢,肺結核なども肺癌リスクを高めると報告されている。肺癌に特徴的な臨床症状はないが,咳嗽,喀痰,血痰,発熱,呼吸困難,胸痛といった呼吸器症状がみられることもある。このような危険因子例・有症状例に対しては,肺癌検出のための検査を行う。

 最初に行うべき検査は胸部X線で,肺癌の検出感度は60〜80%程度と報告されている。胸部X線で異常がある場合は,胸部CTを行う。胸部CTは,肺癌を検出する形態診断法として,現時点で最も有力な検査である。肺癌の検出感度93.3〜94.4%,特異度72.6〜73.4%であり,胸部X線(検出感度59.6〜73.5%,特異度91.3〜94.1%)よりも有用である。特に,早期肺癌においては,CT検査が最も有用である。肺癌の検出には,胸部X線写真,胸部CT以外にも,喀痰細胞診や腫瘍マーカー,FDG-PETなどを組み合わせて検出する場合もある。なお,本項で推奨されている検査の中には,施設によっては一部施行不可能なものも存在するが,その場合には近隣施設と連携して行うことが勧められる。

2)質的画像診断

 検診などのスクリーニング検査や臨床症状によって撮影された胸部X線で肺癌を疑う所見を得た場合,CTでその存在の確認と病変の性状を評価しなければならない。

 CTにて3 cmを超える肺病変で肺癌を疑う場合には,良悪性の鑑別診断のため必ず確定診断を行う。3 cm以下の結節では確定診断が不要な良性病変である可能性もあり,良悪性の鑑別を行うために質的画像診断が施行される。質的画像診断として,まず,肺結節部の高分解能CT(薄層CT)を行う。高分解能CTは,病変部を拡大し,高周波強調で再構成した2 mm以下の薄いスライス厚のCT画像である。多列検出器型CT装置が普及した現在では,通常,撮影した画像から再度撮影することなく簡単に高分解能CTが再構成できる。高分解能CTでは病理像に対応した特徴的な画像所見がみられ,肺結節の良悪性鑑別に有用な情報を得ることが可能であり,結節の周囲の既存構造も明瞭に描出されることから,結節周囲の血管,小葉間隔壁,胸膜などとの関係も観察することができる1)〜4)。充実型結節において,均一あるいは中心部の粗大石灰化,層状の石灰化を伴う場合や,確実な脂肪濃度を認めた場合には,炎症後の肉芽腫や過誤腫などの良性結節と診断できる5)。一方,結節にスピキュラやノッチ,胸膜陥入,辺縁部の境界明瞭なすりガラス部分が認められた場合,あるいは不整な壁を有する空洞性結節の場合には,肺癌を疑って確定診断を行う5)。また,胸膜下の境界明瞭な小さな充実型結節が,peri-fissure noduleと称される一連の性状を呈していれば,肺内リンパ節などの肉芽腫性結節と診断可能である4)

 高分解能CTで良性結節と診断できる確実な所見がなく,積極的に肺癌を疑う所見も認められない充実型結節や,肺気腫・肺線維症・担癌患者など肺悪性腫瘍の高危険群に生じた非特異的な充実型結節の場合には,確定診断を行う前に質的画像診断として造影CTやMRI,FDG-PET/CTを行う場合がある。造影CTやFDG-PET/CTは日本でもよく行われているが,MRI検査は欧米では結節の良悪性の鑑別診断に有効との報告があるものの日本ではこの目的で行っている施設は限られている。これらの検査で肺癌を疑う所見が認められた場合には,確定診断に進む。一方,これらの検査を行っても良性結節と診断できないか,肺癌が否定しきれない充実型結節やすりガラス影を伴う結節では,高分解能CTでの結節の大きさや性状,患者背景の危険因子の有無に応じて,一定間隔での経過観察を行う。

3)確定診断

 胸部CT,造影CT,MRI,PET/CTなどの画像診断は良悪性の鑑別に有用であるが,肺癌の確定診断には病変部から採取した組織もしくは細胞による病理診断が必要である。肺癌は組織型,ドライバー遺伝子の有無,PD-L1の発現状況などにより治療方針が異なるため,一部の手術例を除き,治療開始前に確定診断を行う。確定診断のための方法には,気管支鏡検査・生検,経皮針生検,胸腔鏡検査・胸膜生検,外科的肺生検などがあるが,簡便で低侵襲な検査から実施することが原則である。さらに各検査の診断率・感度・特異度や合併症率だけではなく,各施設での普及度や術者の習熟度などの状況も加味したうえで,それぞれの検査の必要性や優先度を検討し,確定診断方法を選択することが必要である。

4)病期診断

 肺癌はTNM分類による病期診断により予後予測が可能で,病期分類に従い治療方針を決するため,肺癌と診断した場合に病期診断は必須である。

 従来は胸腹部造影CTに加え,骨シンチグラフィ,頭部MRIなどの検査を行い,病期診断を行うことが通常であったが,FDG-PET/CTの急速な普及により,病期診断,特にリンパ節転移(N因子),遠隔転移(M因子)はより正確な診断が可能となっている。しかし,FDG集積の偽陽性,偽陰性も一定数認めるため,結果の解釈には注意が必要で,特に抗酸菌感染症の多い本邦では,肺野の結節や縦隔リンパ節を含め,FDG集積を認めても偽陽性を念頭に慎重に判断することが求められる。近年はEBUS-TBNAやEUS-FNAなど,縦隔リンパ節に対して比較的低侵襲な組織学的検査のエビデンスも蓄積されており,画像診断でリンパ節転移や遠隔転移を疑った症例には,組織学的な診断を追加することも検討すべきである。

 一方,いずれの検査も簡便で低侵襲な検査から実施することが原則であり,各施設での検査の普及度や習熟度などの状況も加味して,各検査の必要性や優先度を検討することが必要である。

5)分子診断

 キナーゼ阻害剤は癌発生の直接的な原因となるようなドライバー遺伝子の異常に対する阻害薬である。ドライバー遺伝子異常を有する非小細胞肺癌患者に対して,それぞれのキナーゼ阻害剤は,ORRやPFSにおいて有意な改善が示されている。10種類のドライバー遺伝子について解析した前向き研究では,733人中466人(64%)にいずれかのドライバー遺伝子異常を認め,それらを標的とした治療を受けた群で有意に全生存期間(OS)が延長していた6)。以上より,ドライバー遺伝子異常陽性例に対して,それらを標的としたキナーゼ阻害剤の投与機会を逸しないことが重要である。

 免疫チェックポイント阻害剤は,腫瘍免疫における調節因子であるPD-1などの免疫チェックポイント分子を標的とした抗体薬である。PD-L1陽性細胞50%以上を有する非小細胞肺癌患者に対して,PD-1阻害剤(ペムブロリズマブ)は,ORR,PFS,OSにおいて有意な改善を示されている。

 Ⅳ期非小細胞肺癌の治療方針は,ドライバー遺伝子変異/転座陽性例,PD-L1陽性細胞50%以上,それ以外,のサブグループ毎に治療内容が提示されている。組織診断が確定した後に,病期診断を考慮して遺伝子異常の有無とPD-L1の発現状況を確認する必要がある。

 各検査の詳細に関しては,日本肺癌学会編「肺癌患者におけるEGFR遺伝子変異検査の手引き」「肺癌患者におけるALK融合遺伝子検査の手引き」「肺癌患者におけるPD-L1検査の手引き」「肺癌患者におけるROS1融合遺伝子検査の手引き」「肺癌患者におけるBRAF遺伝子変異検査の手引き」(日本肺癌学会ホームページ:各種ガイドラインhttps://www.haigan.gr.jp)を参照すること。

引用文献
1)
Li F, Sone S, Abe H, et al. Malignant versus benign nodules at CT screening for lung cancer : comparison of thin-section CT findings. Radiology. 2004; 233(3): 793-8.
2)
Lee SM, Park CM, Goo JM, et al. Invasive pulmonary adenocarcinomas versus preinvasive lesions appearing as ground-glass nodules : differentiation by using CT features. Radiology. 2013; 268(1): 265-73.
3)
Lee KH, Goo JM, Park SJ, et al. Correlation between the size of the solid component on thin-section CT and the invasive component on pathology in small lung adenocarcinomas manifesting as ground-glass nodules. J Thorac Oncol. 2014; 9(1): 74-82.
4)
MacMahon H, Naidich DP, Goo JM, et al. Guidelines for management of incidental pulmonary nodules detected on CT images : from the Fleischner Society 2017. Radiology. 2017; 284(1): 228-43.
5)
de Hoop B, van Ginneken B, Gietema H, et al. Pulmonary perifissural nodules on CT scans : rapid growth is not a predictor of malignancy. Radiology. 2012; 265(2): 611-6.
6)
Kris MG, Johnson BE, Berry LD, et al. Using multiplexed assays of oncogenic drivers in lung cancers to select targeted drugs. JAMA. 2014; 311(19): 1998-2006.

本文中に用いた略語および用語の解説(病理・細胞診断の略語は後述)

ALK anaplastic lymphoma kinase 未分化リンパ腫キナーゼ
BRAF v-raf murine sarcoma viral oncogene homolog B1
CA carbohydrate antigen 糖鎖抗原
CEA carcinoembryonic antigen 癌胎児性抗原
CYFRA cytokeratin fragment サイトケラチンフラグメント
DWI diffusion-weighted magnetic resonance imaging 拡散強調像
EBUS endobronchial ultrasonography 気管支腔内超音波断層法
EBUS-TBNA endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration 超音波気管支鏡ガイド下針生検
EGFR epidermal growth factor receptor 上皮成長因子受容体
EUS-FNA endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration 経食道的超音波内視鏡ガイド下針生検
GGN ground-glass nodule すりガラス様陰影
HU Hounsfield unit
IHC immunohistochemistry 免疫組織化学
NSE neuron specific enolase 神経特異エノラーゼ
ORR objective response rate 客観的奏効率
OS overall survival 全生存期間
PD-L1 programmed cell death ligand 1 プログラム細胞死リガンド1
PFS progression free survival 無増悪生存期間
ProGRP pro-gastrin releasing peptide ガストリン放出ペプチド前駆体
PTNB percutaneous transthoracic needle biopsy 経皮針生検
RCT randomized controlled trial ランダム化比較試験
ROS1 c-ros oncogene 1 receptor tyrosine kinase
RR response rate 奏効率
SCC squamous cell carcinoma related antigen 扁平上皮癌関連抗原
SLX sialyl Lewis-x antigen シアリルLex抗原
SUV standardized uptake value
TKI tyrosine kinase inhibitor チロシンキナーゼ阻害剤
TPA tissue polypeptide antigen 組織ポリペプタイド抗原
VBN virtual bronchoscopic navigation 仮想気管支鏡ナビゲーション
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