Ⅰ.肺癌の診断

6

分子診断

文献検索と採択

文献検索期間
  • 2001年1月1日から2017年12月31日
文献検索方法
  • キーワード:lung cancer, molecular diagnosis, EGFR, KRAS, ALK, RET, ROS, PD-L1, BRAF
  • 委員がPubMedを用いて検索し,2014年版からは順次,医学図書館協会の協力を得てより詳細な検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
採択方法
  • 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,ランダム化比較第Ⅱ相試験から抽出した。
  • 原著論文のみを選択し,エビデンスの質の高いものを最初に採用した。
  • review articleもしくは検索時点で日本における未承認薬を用いた試験は除外した。
  • 分子診断領域の文献では通常の基準によるエビデンスの質の高いものは極めて少数であった。したがって,分析疫学的研究や症例数の多い論文を次に採用した。
  • 診断上,重要と考えられる文献,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
  • 2017年版で採用し,今回も必要と判断したものは引き続き採用した。

CQ22.

治療方針を決めるための,分子診断の項目は何か?

推 奨
  • a.
  • 進行・再発非扁平上皮非小細胞肺癌の場合は,EGFR遺伝子変異検査,ALK融合遺伝子検査,ROS1融合遺伝子検査,BRAF遺伝子変異検査,PD-L1免疫組織化学染色検査(IHC)を行い,進行・再発扁平上皮肺癌の場合は,PD-L1 IHCを行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:A,合意率:100%〕

  • b.
  • EGFR-TKIに治療抵抗性(耐性)となった進行・再発非扁平上皮非小細胞肺癌の場合は,EGFR遺伝子変異検査を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:B,合意率:100%〕

解 説
  • a.EGFR遺伝子変異,ALK融合遺伝子を有する症例のみを対象とした第Ⅲ相試験において,いずれもEGFR-TKI単剤もしくはALK阻害剤単剤が細胞障害性抗癌剤と比較してPFSの有意な延長をもたらすことが報告された1)2)。ALK融合遺伝子陽性症例やBRAF遺伝子変異症例では,患者数が少ないことからそれらのキナーゼ阻害剤と細胞障害性抗癌剤との第Ⅲ相試験は実施されていないが,第Ⅱ相試験でキナーゼ阻害剤の有効性が示されている3)4)。したがって,EGFR遺伝子変異検査,ALK融合遺伝子検査,ROS1融合遺伝子検査,BRAF遺伝子変異検査は,それぞれのキナーゼ阻害剤の適応を決定するために行うよう勧められる。

     PD-L1 IHCにて腫瘍細胞の50%以上が陽性と判定された非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,ペムブロリズマブ単剤が細胞障害性抗癌剤と比較してPFS,OSの有意な延長を示した5)。また,PD-L1 IHCにて腫瘍細胞の1%以上が陽性と判定された既治療非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験にて,ペムブロリズマブ単剤がドセタキセル単剤と比較してPFS,OSの有意な延長を示した6)。したがって,PD-L1 IHCはペムブロリズマブによる治療の適否を決定するために行うよう勧められる。

     EGFR遺伝子検査やALK融合遺伝子検査は,扁平上皮癌をはじめ腺癌成分をまったく含まない症例における陽性頻度は極めて低い7)8)。したがって,腺癌成分をまったく含まない症例におけるEGFR遺伝子検査は有用でない可能性が高く,腺癌もしくは腺癌組織をわずかでも有する組織型において行うよう勧められる。しかし,生検試料や細胞診試料などの微量なサンプルにおいては,全体像を把握することは困難であり腺癌成分の完全な除外を行うことはできないため,腺癌以外の組織型と診断された症例においても,臨床背景(若年,非喫煙者など)により検査を行うことを考慮してもよい。

     以上より,エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018年
行うことを
推奨
行うことを
提案
推奨度決定不能 行わないことを
提案
行わないことを
推奨
100%
(19/19)
0% 0% 0% 0%
  • b.第一・二世代のEGFR-TKIによる治療の後にT790M変異陽性となった患者を対象とした第Ⅲ相試験において,第Ⅲ世代EGFR-TKIであるオシメルチニブが細胞障害性抗癌剤と比較してPFSの有意な延長をもたらすことが報告された9)。したがって,EGFR遺伝子変異検査は第一・二世代のEGFR-TKIに治療抵抗性(耐性)となった患者に対するオシメルチニブ治療の適応を決定するために行うよう勧められる。

     以上より,エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018年
行うことを
推奨
行うことを
提案
推奨度決定不能 行わないことを
提案
行わないことを
推奨
100%
(19/19)
0% 0% 0% 0%

CQ23.

非小細胞肺癌の治療方針決定のために行う分子診断は,検査項目に優先順位をつけるか?

推 奨
検査項目に優先順位をつけず,同時に行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:D,合意率:68%〕

解 説

 EGFR遺伝子検査,ALK融合遺伝子検査,ROS1融合遺伝子検査,BRAF遺伝子検査,PD-L1 IHCは,いずれもキナーゼ阻害剤や免疫チェックポイント阻害剤選択ために必要な検査である1)~5)

 EGFR遺伝子変異は肺腺癌の約半数に存在するものの,ALK融合遺伝子,ROS1融合遺伝子,BRAF遺伝子変異は,それぞれ非小細胞肺癌の2~5%,2%,1~3%と希少頻度である。またそれぞれのドライバー変異は相互排他的に存在している。しかしながら,治療開始までの時間を短縮するために,初回診断時にこれらのドライバー遺伝子検査とPD-L1 IHCを,同時に測定することが望まれる。

 現時点で優先順位をつかるかどうかについて示されたデータはなく,エビデンスの強さはD,また総合的評価では,優先順位をつけないよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018年
行うことを
推奨
行うことを
提案
推奨度決定不能 行わないことを
提案
行わないことを
推奨
32%
(6/19)
68%
(13/19)
0% 0% 0%
引用文献
1)
Mitsudomi T, Morita S, Yatabe Y, et al. Gefitinib versus cisplatin plus docetaxel in patients with non-small-cell lung cancer harbouring mutations of the epidermal growth factor receptor(WJTOG3405): an open label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2010; 11(2): 121-8.
2)
Solomon BJ, Mok T, Kim DW, et al; PROFILE 1014 Investigators. First-line crizotinib versus chemotherapy in ALK-positive lung cancer. N Engl J Med. 2014; 371(23): 2167-77.
3)
Shaw AT, Ou SH, Bang YJ, et al. Crizotinib in ROS1-rearranged non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2014; 371(21): 1963-71.
4)
Planchard D, Besse B, Groen HJM, et al. Dabrafenib plus trametinib in patients with previously treated BRAF(V600E)-mutant metastatic non-small cell lung cancer: an open-label, multicentre phase 2 trial. Lancet Oncol. 2016; 17(7): 984-93.
5)
Reck M, Rodríguez-Abreu D, Robinson AG, et al; KEYNOTE-024 Investigators. Pembrolizumab versus Chemotherapy for PD-L1-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2016; 375(19): 1823-33.
6)
Herbst RS, Bass P, Kim DW, et al. Pembrolizumab versus docetaxel for previously treated, PD-L1-positive, advanced non-small-cell lung cancer(KEYNOTE-010): a randomised controlled trial. Lancet. 2016; 387(10027): 1540-50.
7)
Marchetti A, Martella C, Felicioni L, et al. EGFR mutations in non-small-cell lung cancer: analysis of a large series of cases and development of a rapid and sensitive method for diagnostic screening with potential implications on pharmacologic treatment. J Clin Oncol. 2005; 23(4): 857-65.
8)
Cancer Genome Atlas Research Network. Comprehensive genomic characterization of squamous cell lung cancers. Nature. 2012; 489(7417): 519-25.
9)
Mok TS, Wu Y-L, Ahn M-J, et al. Osimertinib or Platinum-Pemetrexed in EGFR T790M-Positive Lung Cancer. N Engl J Med. 2017; 376(7): 629-40.
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