Ⅰ.診 断
2
確定診断
文献検索と採択
- 文献検索期間
-
- 1990年1月1日から2019年12月31日
- 文献検索方法
-
- 2018年版では委員がPubMedを用いて検索し,今回,国際医学情報センターの協力を得て以下の検索式で検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
- 検索式(検索日:2020年3月18日)
-
キーワード 検索式 Malignant pleural mesothelioma, Diagnosis, Biopsy, Cytology, Thoracocentesis, Thoracoscopy, Video assisted thoracoscopic surgery(VATS), Sensitivity, Specificity - #1:悪性胸膜中皮腫(ヒト,言語,年代限定)
- #2:#1×診断
- #3:#2×指定キーワード
- #4:#2×血中マーカー
- #5:#2×胸水×(腫瘍マーカー,ヒアルロン酸)
- #6:#2×検体採取
- #7:#2×画像所見
- #8:#2×胸腔鏡×生検
#3+#4+#5+#6+#7+#8
- 採択方法
-
- 文献はメタアナリシス,第Ⅲ相試験,第Ⅱ相試験を中心に抽出した。なお,論文化されていない重要な学会報告は上記以外でも採用した。
- これ以前の文献でも,今回の改訂に際し重要と考えられたものについては採用としている。
CQ2.
末梢血中のマーカーによる中皮腫の確定診断は勧められるか?
- 推 奨
- 末梢血中のマーカーにより中皮腫の確定診断を行わないよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:評価できず,合意率:85%〕
中皮腫の確定診断に末梢血中のマーカーが勧められるかどうかを確定診断,つまり生検組織と前向きに比較した試験はない。検査の信頼性を示す指標として,診断率,つまり感度と特異度に関する観察研究がある。
感度,特異度:血清の可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)値について16研究から中皮腫1,026例および対照症例4,491例を含むメタアナリシスにおいて,2.0nmol/Lをカットオフ値とすると,感度は19〜68%,特異度は88〜100%であった1)。感度が低いことから,早期診断での有用性は限られる。つまり,中皮腫を疑う症例で血清メソテリンが陽性であった場合には,次の診断手順に進むことが推奨される。SMRPとオステオポンチンの推移と病態進行を前方視的に解析した報告では,血清SMRPの変化と化学療法による腫瘍縮小には有意な関連が認められたが,オステオポンチンでは認められなかった2)。アスベストに関連する非悪性肺疾患を有する被験者69例,アスベスト曝露のない被験者45例,および胸膜中皮腫患者76例を比較した研究において,48.3ng/mLをカットオフ値とすると,感度は77.6%,特異度は85.5%であった3)。したがって,血清中のバイオマーカーだけで中皮腫の診断を行うことは難しい。
以上より,エビデンスの強さは評価できず,また総合的評価では末梢血中のマーカーによる中皮腫の確定診断を行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 推奨 |
行うことを 弱く推奨(提案) |
推奨度決定不能 | 行わないことを 弱く推奨(提案) |
行わないことを 推奨 |
---|---|---|---|---|
5% (1/20) |
0% | 0% | 10% (2/20) |
85% (17/20) |
CQ3.
胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定は,中皮腫の確定診断に勧められるか?
- 推 奨
- 胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定で,中皮腫の確定診断を行わないよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:評価できず,合意率:80%〕
中皮腫の確定診断に胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸が勧められるかどうかを確定診断,つまり生検組織と前向きに比較した試験はない。検査の信頼性を示す指標として,診断率,つまり感度と特異度に関する観察研究がある。
感度,特異度:中皮腫50例を含む334例の日本人で胸水ヒアルロン酸について行われた検討では,ROC解析のAUC=0.832(95%CI:0.765-0.898)で,100,000ng/mLをカットオフ値としたときの感度は44%,特異度は96.5%であった4)。感度が低いことから,早期診断での有用性は限られる。
胸水の可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)値について13研究から中皮腫759例,中皮腫ではない悪性胸水1,061例,および良性疾患の胸水1,539例を含むメタアナリシスで,感度は68%,特異度は91%であった5)。
したがって,胸水中のバイオマーカーだけで中皮腫の診断を行うことは難しい6)。中皮腫を疑う症例で胸水メソテリン,ヒアルロン酸が高値であった場合には,次の診断手順に進むことが推奨される。
以上より,エビデンスの強さは評価できず,また総合的評価では胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定による中皮腫の確定診断を行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 推奨 |
行うことを 弱く推奨(提案) |
推奨度決定不能 | 行わないことを 弱く推奨(提案) |
行わないことを 推奨 |
---|---|---|---|---|
5% (1/20) |
0% | 5% (1/20) |
10% (2/20) |
80% (16/20) |
CQ4.
確定診断のための胸膜採取法として,何が勧められるか?
- 推 奨
-
- a.
- 全身麻酔下の外科的胸膜生検により,十分な量の生検を行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:85%〕
-
- b.
- 外科的胸膜生検の適応がない症例において腫瘤形成がある場合は,CTガイド下針生検をまず行うよう推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:C,合意率:85%〕
胸膜中皮腫の確定診断のためには,胸膜生検によって確実な組織診断を行い,組織亜型や病変の浸潤度まで診断をつけることが望ましい。
胸膜生検の方法としては,経皮的針生検(盲目的生検,CTや超音波による画像ガイド下生検),内科的(局所麻酔下)胸腔鏡下生検,外科的全身麻酔下(胸腔鏡下,開胸)生検などがある。
a.
診断率:生検方法の違いによる確定診断率を比較した報告7)では,Abrams針生検68%,胸腔鏡下生検87%,開胸生検91%であった。
胸腔鏡下生検(局所麻酔下もしくは全身麻酔下)の診断率は95%以上と報告されている8)9)。全身麻酔下胸腔鏡下生検では,CT下もしくは超音波下による画像ガイド下生検では確定診断に至らなかった25例の検討において,全例確定診断が得られた(23例は胸膜中皮腫,2例は慢性膿胸)との報告がある8)。
局所麻酔下胸腔鏡下生検の問題点として,病理亜型までの診断がつきにくいことが挙げられる。病理亜型の診断において,内科的胸腔鏡下生検を行った胸膜中皮腫95例の報告10)では,上皮型の診断でsensitivity 94%,specificity 20%,positive predictive value 86%,negative predictive value 37%であり,二相型ではsensitivity 20%,specificity 98%,positive predictive value 75%,negative predictive value 87%であった。このため,内科的胸腔鏡下生検は胸膜中皮腫の診断には有用であるが,亜型までは診断できないとされた。
また,採取組織径10mm以上では診断率が75%であったが,10mm未満では8%であり,生検標本の大きさは確定診断には重要な要素であるとされた11)。
安全性:全身麻酔下での胸腔鏡下もしくは開胸胸膜生検と局所麻酔下胸腔鏡もしくは針生検の安全性に関するランダム化比較試験はないうえ,重大な合併症が起こることも少ないためか,合併症に関して記載している報告が少ない。全身麻酔下での胸腔鏡下もしくは開胸胸膜生検において周術期死亡の報告は見当たらない。Boutinらによる胸腔鏡下生検を行った188例の検討では,皮下気腫1例,限局性胸膜炎4例,術中脈管損傷による100mL以下の出血3例,38度以上の発熱26例,生検創部の播種再発12例が報告されており,重大な合併症は認めなかったが,ほとんど合併症を認めない針生検よりは一定の頻度で合併症を認めると報告している9)。
中皮腫の生検において問題となる生検切開創の播種に関して,播種の発生率は,画像ガイド下針生検4%,外科的生検22%であり,外科的生検による播種発生率の高さが指摘された12)。このため,外科的生検を行う場合は,その必要性を十分検討し,できるかぎり生検の切開創を少なくかつ小さくすることを推奨する。また,生検切開創は,上記の記述の通り腫瘍播種の可能性があるため,後日の切除手術の皮膚切開線上に設定し,切除手術時に生検切開創を合併切除できるようにすることを推奨する。
b.
診断率:Abrams針生検とCTガイド下針生検のランダム化比較試験(50例の登録)では,前者のsensitivity 47%,negative predictive value 44%に対して,後者ではsensitivity 87%,negative predictive value 80%と後者が有意に良好な結果であった13)。
安全性:上述したAbrams針生検とCTガイド下針生検のランダム化比較試験では,Abrams針生検を行った1例に治療を要さない皮下血腫を認めたが,CTガイド下生検においては合併症を認めなかったと報告されている13)。
以上より,推奨aについてはエビデンスの強さはC,総合的評価では全身麻酔下の外科的胸膜生検により,十分な量の生検を行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。また,推奨bについてはエビデンスの強さはC,総合的評価では外科的胸膜生検の適応がない症例において腫瘤形成がある場合は,CTガイド下針生検をまず行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 推奨 |
行うことを 弱く推奨(提案) |
推奨度決定不能 | 行わないことを 弱く推奨(提案) |
行わないことを 推奨 |
|
---|---|---|---|---|---|
a | 85% (17/20) |
15% (3/20) |
0% | 0% | 0% |
b | 85% (17/20) |
15% (3/20) |
0% | 0% | 0% |
- 1)
- Hollevoet K, Reitsma JB, Creaney J, et al. Serum mesothelin for diagnosing malignant pleural mesothelioma: an individual patient data meta-analysis. J Clin Oncol. 2012; 30(13): 1541-9.
- 2)
- Wheatley-Price P, Yang B, Patsios D, et al. Soluble mesothelin-related Peptide and osteopontin as markers of response in malignant mesothelioma. J Clin Oncol. 2010; 28(20): 3316-22.
- 3)
- Pass HI, Lott D, Lonardo F, et al. Asbestos exposure, pleural mesothelioma, and serum osteopontin levels. N Engl J Med. 2005; 353(15): 1564-73.
- 4)
- Fujimoto N, Gemba K, Asano M, et al. Hyaluronic acid in the pleural fluid of patients with malignant pleural mesothelioma. Respir Investig. 2013; 51(2): 92-7.
- 5)
- Gao R, Wang F, Wang Z, et al. Diagnostic value of soluble mesothelin-related peptides in pleural effusion for malignant pleural mesothelioma: An updated meta-analysis. Medicine(Baltimore). 2019; 98(14): e14979.
- 6)
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