Ⅱ.治 療
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治療後の経過観察
文献検索と採択
- 文献検索期間
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- 1980年1月1日から2023年11月30日
- 文献検索方法
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- 2022年版のガイドラインで検索された1980年1月1日から2021年11月30日の期間の文献に加えて,新たに2021年12月1日から2023年11月30日の期間に出版された論文を検索した。
- 国際医学情報センターの協力を得て,詳細な検索を行い,各CQにおいて採用を検討した。
- 検索式(検索日:2023年12月28日)
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#1 Thymic epithelial tumor OR Thymic epithelial neoplasm OR Thymoma OR Thymic carcinoma OR Thymic cancer OR Thymic carcinoid OR Thymic neuroendocrine tumor OR Thymic neuroendocrine carcinoma #2 Definitive treatment OR Complete resection OR Total resection #3 Observation OR Follow up OR Check up #4 #1 AND #2 AND #3
- 採択方法
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- 胸腺上皮性腫瘍の治療成績,再発腫瘍,および根治治療後の予後に影響を及ぼす事象に関する文献に限り,症例報告は除外した。
- 上記条件以外のもので,必要と判断したものは採用した。
- 追加の検索期間では,追加すべき新たな論文はなかった。
CQ24.
胸腺上皮性腫瘍に対し根治的治療が行われた場合,定期的な経過観察は行うべきか?
- 推 奨
- 胸腺腫の場合10年以上,胸腺癌の場合5年以上の経過観察を行うよう弱く推奨する。
〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:C〕
胸腺上皮性腫瘍に対する根治治療後の経過観察を,どの程度の期間,どのような方法で,どのような間隔で行うべきかを検討した研究は行われていない。しかし,これまでの外科治療成績や再発腫瘍に関する報告から,根治治療後の再発は組織型や病期に関連して頻度が増加し,再発までの期間が20年以上に及ぶ例も知られている1)~4)。組織型ではいずれも中央値が,胸腺腫61カ月(2~242カ月),胸腺癌10カ月(2~54カ月),胸腺カルチノイド54カ月(5~97カ月)と異なっていたとの報告もあり,胸腺癌に比し胸腺腫では再発までの期間が長期にわたることが知られている2)。また,進行期例であるほど再発の頻度は高いものの,Ⅰ期例での再発も経験されている1)~4)。「5.再発腫瘍の治療」の項(CQ25,26)でも述べられているが,再発に対しても積極的に治療を行うことで生存期間の延長が可能となることから,再発の早期発見は意義あるものと考えられる1)~5)。
経過観察の方法については一定の見解はないものの,再発巣の多くが胸部に限局していることから5),通常の外来診療とともに,CT(胸部~上腹部)を含めた画像診断法を用いて行うのが一般化している4)。術前に無症状の胸腺腫患者においても,術後重症筋無力症(post-thymectomy myasthenia gravis)を発症する可能性がある。術前無症状の患者に術後重症筋無力症が発症する場合,多くは術前の抗アセチルコリン受容体抗体が陽性であるが,術前に抗体が陰性の症例でも重症筋無力症が発症することがある6)。また,経過観察が終了した胸腺腫術後の患者に重症筋無力症が発症したことで精査され,胸腺腫の再発が発見されるという報告もある7)。以上より,根治治療後に抗アセチルコリン受容体抗体を測定することは妥当であると考えられる。一方,胸腺腫例では二次癌(多重癌)の発生頻度が非胸腺腫例より高いことが報告されており8)9),これらを早期発見することも胸腺腫例の経過観察では念頭におく必要がある。しかし,経過観察を行う適切な間隔は明らかにされておらず,少なくとも6カ月ないし12カ月毎には行うことを考慮してもよいとした。
以上より,胸腺上皮性腫瘍に対し根治的治療が行われた場合には,定期的な経過観察を行うよう勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 強く推奨 |
行うことを 弱く推奨 |
推奨に至る根拠が 明確ではない |
行わないことを 弱く推奨 |
行わないことを 強く推奨 |
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22% (4/18) |
78% (14/18) |
0% | 0% | 0% |
- 1)
- Margaritora S, Cesario A, Cusumano G, et al. Single-centre 40-year results of redo operation for recurrent thymomas. Eur J Cardiothorac Surg. 2011;40(4):894-901.
- 2)
- Hamaji M, Allen MS, Cassivi SD, et al. The role of surgical management in recurrent thymic tumors. Ann Thorac Surg. 2012;94(1):247-54.
- 3)
- Hamaji M, Ali SO, Burt BM. A meta-analysis of surgical versus nonsurgical management of recurrent thymoma. Ann Thorac Surg. 2014;98(2):748-55.
- 4)
- Bae MK, Byun CS, Lee CY, et al. Clinical outcomes and prognosis of recurrent thymoma management. J Thorac Oncol. 2012;7(8):1304-14.
- 5)
- Mizuno T, Okumura M, Asamura H, et al. Surgical management of recurrent thymic epithelial tumors:a retrospective analysis based on the Japanese nationwide database. J Thorac Oncol. 2015;10(1):199-205.
- 6)
- Nakajima J, Murakawa T, Fukami T, et al. Postthymectomy myasthenia gravis:relationship with thymoma and antiacetylcholine receptor antibody. Ann Thorac Surg. 2008;86(3):941-5.
- 7)
- Sakuraba M, Onuki T, Nitta S. Measurement of antiacetylcholine receptor antibody in patients with thymoma without myasthenia gravis complications. Jpn J Thorac Cardiovasc Surg. 2001;49(12):690-2.
- 8)
- Pan CC, Chen PC, Wang LS, et al. Thymoma is associated with an increased risk of second malignancy. Cancer. 2001;92(9):2406-11.
- 9)
- Engels EA. Epidemiology of thymoma and associated malignancies. J Thorac Oncol. 2010;5(10 Suppl 4):S260-5.