Ⅱ.治 療
6
偶発的に発見された
小さな前縦隔病変への対応
文献検索と採択
- 文献検索期間
-
- 2011年1月1日から2023年11月30日
- 文献検索方法
-
- 2022年版のガイドラインで検索された1980年1月1日から2021年11月30日の期間の文献に加えて,新たに2021年12月1日から2023年11月30日の期間に出版された論文を検索した。
- 検索式(検索日:2023年12月28日)
-
#1 Thymoma OR Thymic carcinoma OR Thymic cancer OR Thymic epithelial tumor OR Thymic epithelial neoplasm OR Thymic neuroendocrine tumor OR Thymic neuroendocrine carcinoma OR Thymic nodule OR Thymic tumor OR Anterior mediastinal tumor OR Thymic mass #2 Small nodule OR Small tumor OR Small mass #3 Asymptomatic OR No symptom OR Incidental OR Accidental OR Screening #4 Natural history OR Follow up OR Observation OR Treatment OR Surgery OR Surgical treatment OR Resection #5 #1 AND #2 AND #3 AND #4
- 採択方法
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- エビデンスレベルの高い前向き研究やランダム化臨床試験の報告はなく,比較的症例数の多い後ろ向き観察研究の報告を採用した。
本文中に用いた略語および用語の解説
HU | hounsfield unit |
---|---|
MALT | mucosa-associated lymphoid tissue |
CQ27.
偶発的に発見された小さな前縦隔病変に対して,外科的切除は勧められるか?
- 推 奨
-
- a.
- 充実性病変が疑われる場合,外科的切除を行うよう強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D〕
-
- b.
- 嚢胞(胸腺嚢胞や心膜嚢胞など)が疑われる場合,外科的切除を行わないよう強く推奨する。
〔推奨の強さ:1,エビデンスの強さ:D〕
近年,肺癌CT検診や人間ドックの普及など,胸部CT検査の普及に併い,偶然に無症状の小さな前縦隔腫瘤が発見される機会が増えており,その頻度は0.7~0.9%と報告されている1)~3)。しかし,その後の診療方針について推奨を作成するにあたり,エビデンスの質が高い報告がないことから,エキスパートのコンセンサスとして提案した。
-
a.Yanoらは3 cm以下の前縦隔充実性病変28例に対して手術を行った結果,腫瘍性病変は胸腺腫24例,胸腺癌1例,MALTリンパ腫1例の計26例(92.9%)であったと報告している4)。多くが胸腺腫や胸腺癌であるが,サイズが小さいことからほとんどが早期のステージで完全切除がなされており,低侵襲手術の良い適応であるとしている。Fangらは,CTで偶発的に発見された無症候性3 cm以下の前縦隔結節419例の検討で,手術を受けた91例中84例(92.3%)が胸腺腫瘍であり,MRIを併用した症例で腫瘍性病変の診断感度が上昇したという5)。胸腺腫の割合が最も多く,胸腺腫は一般的に発育が遅いことを考えると,1 cm程度の小病変で画像上浸潤傾向がなく,高齢の患者や手術リスクのある患者では,経過観察を考慮してもよい。しかし,その場合でも胸腺癌の可能性も考慮した注意深い観察が必要である。
以上より,エビデンスの強さはD,総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 強く推奨 |
行うことを 弱く推奨 |
推奨に至る根拠が 明確ではない |
行わないことを 弱く推奨 |
行わないことを 強く推奨 |
---|---|---|---|---|
88% (15/17) |
12% (2/17) |
0% | 0% | 0% |
-
b.嚢胞(胸腺嚢胞や心膜嚢胞など)は治療の必要がないことはコンセンサスが得られている。病変内部のCT値が液体成分を示し分葉や壁肥厚のない場合は,胸腺嚢胞や心膜嚢胞の可能性が高い。ただし,Yoonらは偶発的に発見された前縦隔病変413例中,内部濃度がCT値20 HU以下の嚢胞を疑わせる病変は20%で,残りの80%は腫瘍との鑑別が困難であったと報告している3)。正確な画像診断は容易ではないが,前述のFangらの報告では,非手術例328例のうち,269例(82.0%)が初診時にMRIを併用して良性嚢胞と診断され,観察期間(中央値36カ月)中に2例のみサイズが増大したという5)。このようにCTやMRIでサイズの小さい嚢胞と診断された場合は,安全に経過観察できるが,どのくらいの期間追跡すべきかを示すエビデンスはない。画像的に壁在結節や壁肥厚を伴う場合や分葉不整な形状の嚢胞,あるいは経過観察中にサイズが増大したり,壁在結節の出現を認めた場合は,腫瘍性病変の可能性があり,外科的切除を考慮してもよい6)。ただし,嚢胞であっても増大あるいは縮小することがあり注意が必要である1)3)5)。
以上より,エビデンスの強さはD,総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを 強く推奨 |
行うことを 弱く推奨 |
推奨に至る根拠が 明確ではない |
行わないことを 弱く推奨 |
行わないことを 強く推奨 |
---|---|---|---|---|
0% | 0% | 0% | 29% (5/17) |
71% (12/17) |
- 1)
- Henschke CI, Lee IJ, Wu N, et al. CT screening for lung cancer:prevalence and incidence of mediastinal masses. Radiology. 2006;239(2):586-90.
- 2)
- Araki T, Nishino M, Gao W, et al. Anterior mediastinal masses in the framingham heart study:prevalence and CT image characteristics. Eur J Radiol Open. 2015;2:26-31.
- 3)
- Yoon SH, Choi SH, Kang CH, et al. Incidental anterior mediastinal nodular lesions on chest CT in asymptomatic subjects. J Thorac Oncol. 2018;13(3):359-66.
- 4)
- Yano M, Sasaki H, Moriyama S, et al. Clinicopathological analysis of small-sized anterior mediastinal tumors. Surg Today. 2014;44(10):1817-22.
- 5)
- Fang W, Xu N, Shen Y, et al. Management of incidentally detected small anterior mediastinal nodules:Which way to go? Lung Cancer. 2022;168:30-5.
- 6)
- Barrios P, Avella Patino D. Surgical indications for mediastinal cysts-a narrative review. Mediastinum. 2022;6:31.