第4章 治療の概要
Q31
「治療法がない」「治療をしないほうがよい」といわれました。どうすればよいでしょうか

 「治療法がない」「治療をしないほうがよい」と患者さんに伝えることは,医師にとっても非常につらいことです。しかし,これらの判断はけっしてあなたを見放すという意味ではありません。医師が,抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)での治療(化学療法)を勧めなかったり,提案する薬剤がないことには理由があります。

 薬物による治療の目的は,それによって生存期間を延長させることですが,使える抗がん剤があれば順番に使っていけばよいということではありません。薬物療法は必ず副作用を伴うので,予測される治療効果とのバランスによって治療を行うかどうかを判断します。「治療法がない」とは,再発・再燃した場合の治療が副作用に見合う有用な効果が期待できないのです。また,「治療をしないほうがよい」とは,治療を受ける患者さんの体力や合併症などから治療を受けられる全身状態ではなく,副作用に耐えられないおそれがあることを意味します。

 薬物療法を続けていくことは大事なことですが,もっと大切なことはいかにQOL(生活の質)を保ちながら治療をしていくかです。化学療法のような積極的な治療以外にもQOLを維持,または高めるために緩和ケアを取り入れる方法もありますし,積極的な治療との両立も可能です。緩和ケアを治療開始時のより早期から取り入れることで,がん治療を受けながらでもQOLを維持することが可能となるため,緩和ケアは早期からの導入が勧められます(Q26274647参照)。標準治療を受け終わってもあなたの体調が普段と変わらない状態を維持できていて,積極的な治療を受けたいという希望があれば,治験など臨床試験に参加するということも可能です。積極的治療だけががんの治療ではありませんので,「もう治療法がない」ということはけっしてありません。治療法がない,治療をしないほうがよいといわれたときは,積極的な治療以外の治療について担当医に聞いたり,治験や臨床試験について相談するのがよいと思います。

参考情報

 臨床試験,治験の情報については,下記のウェブサイトが参考になります。

  • 参考情報
  • タイトルをクリックするとWEBページへうつります。

臨床試験について(国立がん研究センター がん情報サービス)
臨床試験のQ&A:基礎知識(国立がん研究センター がん情報サービス)

 米国臨床腫瘍学会(ASCO)でも,次の項目を満たす肺がんを含む固形がんの患者さんに対しては,積極的ながん治療(化学療法など)を行わないことと発表しています。

  • パフォーマンスステータス(PS,Q27参照)が悪い(3または4)
  • これまでのエビデンス(科学的根拠)に基づいた治療に効果がみられなくなったとき
  • 臨床試験の適格基準を満たさないとき
  • さらなる薬物療法による臨床的意義を支持する強いエビデンスがないとき

参考文献:Schnipper LE,et al. American Society of Clinical Oncology identifies five key opportunities to improve care and reduce costs:the top five list for oncology. J Clin Oncol. 2012;30(14 ):1715-24.

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