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Ⅱ.治 療

緩和医療

4-1.胸膜癒着

文献検索と採択

胸膜癒着
4-1.胸膜癒着術
推 奨
胸水制御と胸水貯留による症状の軽減を目的とした治療(緩和目的)として,胸膜癒着術を施行することができる。(グレードC1)
エビデンス
a.
胸膜中皮腫の臨床的に診断し得る最も早期の病態は胸水貯留であり,発見の動機になることが多い。縦隔を変位させるほど,大量に貯留することもある。胸水による症状は,DOE,胸部圧迫感等がある。外科治療などの積極的な治療の適応の有無にかかわらず,胸水制御と症状軽減を目的とした胸膜癒着術は施行することができる。硬化剤にはタルク(含水珪酸マグネシウム)またはOK432を用いる。タルクによる胸水コントロールは85%(146/172例)に得られ,3カ月以上の肺の再拡張は49%(85/172例)に得られている1)。成功例の生存期間中央値は19.4カ月であるが2),胸水pHが7.30以下だと成績が悪くなる2)
b.
タルク懸濁液による胸膜癒着術とVATSによる胸膜部分切除とのランダム化比較試験では,胸水制御は前者の77%,後者の70%に成功し,1年生存率はそれぞれ57%,52%であった。一方,合併症はそれぞれ14%と31%であり,胸水貯留のある中皮腫に対する胸膜部分切除の有用性は示されなかった。両治療法の比較では,タルク懸濁液による胸膜癒着のほうが成績がよい3)。一方,後方視研究で,臨床病期も示されていないが,胸腔鏡を用いたタルクの噴霧は,胸膜中皮腫(85例中)の78.8%に効果があったことが報告されている4)
c.
タルクによる胸膜癒着には,生食懸濁液として胸腔内注入を行う方法と胸腔鏡下に直接噴霧する方法がある。後者は保険適応になっていないが,本ガイドラインでは,両者について評価している点にご留意頂きたい。一般的に,タルクを胸腔内に万遍なく投与するには,チェストチューブによる懸濁液の注入よりも胸腔鏡下に投与したほうがよいが,後者は全麻下に実施されることが多く,その対象にならない場合に,より簡便な懸濁液の注入が選択される5)。したがって,ランダム化比較ではない胸腔鏡下の直接噴霧の治療成績が優るとの報告には,selection biasがある5)。一方,2005年の中皮腫4例を含む悪性胸水482例の第Ⅲ相比較試験では両投与法の効果に差がみられていない6)
d.
胸腔鏡下タルク噴霧を行った84例(中皮腫を含まない悪性胸水74例と良性胸水10例)にみられた肺合併症に対する後方視検討の結果,癒着術施行前の酸素投与,2週間以内の化学療法,四肢浮腫がタルクによる肺合併症の予測因子であることが示されている7)。タルクによるARDSの発生の症例報告があり,石綿肺合併例では投与後の慎重な観察が望まれる。
e.
胸膜中皮腫に対するOK432の硬化剤としての文献はほとんどないが,本邦では実臨床で悪性胸水に対してOK432が用いられている。動物モデルでのタルクとOK432の胸腔投与後の比較では,タルクのほうが胸膜の変化が強いが8),ヒトでの比較はない。胸膜中皮腫に対する硬化剤にはタルクまたはOK432を用いる。
引用論文

4-2.緩和照射

文献検索と採択

緩和照射
4-2.緩和照射
推 奨
疼痛緩和目的の放射線治療は行うように勧められる。(グレードB)
エビデンス
 進行した胸膜中皮腫では,圧迫や浸潤により疼痛をきたすことが多い。緩和目的で放射線治療を施行した報告では,約60%の症例に疼痛緩和が得られたとされている1)2)。これらの報告では,主として40 Gy/20回または36 Gy/13回が用いられていた。また,単施設で189症例,227コースの緩和照射例を検討した報告では,1回線量4 Gyの症例のほうが,1回線量4 Gy未満の症例よりも緩和効果が高かった(50% vs 39%)とされている3)。20 Gy/5回の多施設第Ⅱ相試験の報告で,35%の症例で疼痛緩和効果があったとの報告もある4)
 現在のところ最適な分割方法は不明であるが,胸膜中皮腫の疼痛に対して緩和照射は有効であり行うよう勧められるため,推奨グレードをBとした。
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