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Ⅱ.非小細胞肺癌(NSCLC)

Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対する放射線療法

文献検索と採択

(切除不能)

切除不能

(切除可能)

切除可能
4-1.Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対する放射線療法
推 奨

a.医学的な理由で手術できないⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌には,根治的放射線治療の適応があり,行うように勧められる。(グレードB)

b.肺葉切除可能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌には,根治的放射線治療を行うよう勧められるだけの科学的根拠が明確でない。(グレードC2)

c.Ⅰ期非小細胞肺癌で外科切除が可能であるが肺葉以上の切除が不可能な患者には,根治的放射線治療を行うことを考慮してもよい。(グレードC1)

d.医学的な理由で手術できないⅠ期非小細胞肺癌の根治的放射線治療では,予防的リンパ節領域照射を行うよう勧められるだけの科学的根拠が明確でない。(グレードC2)

e.Ⅰ期非小細胞肺癌に対する根治的放射線治療の方法としては,体幹部定位放射線照射など線量の集中性を高める高精度放射線照射技術を用いることが勧められる。(グレードB)

エビデンス
a.
26の非ランダム化試験から集めた手術不能Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌2,003人の治療成績を比較すると,2年生存率22~72%,5年生存率0~42%であった1)。肺癌以外で他病死する患者が11~43%あり,原病2年生存率は54~93%,原病5年生存率は13~39%,また局所再発は6~70%にみられた。また,Ⅰ期非小細胞肺癌に対する根治的放射線治療の80~90年代の報告では,5年生存率,原病生存率はそれぞれ13~29%,20~32%であった2)~4)
 ガイドライン8件のレビューでも,「Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌の非手術症例は放射線治療の適応がある」としたガイドラインがⅠ期で6件,Ⅱ期で5件であった5)
 医学的な理由で手術できないⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して経過観察と根治的放射線治療とのランダム化比較試験はなくエビデンスレベルはVである。しかし,いずれのレビューにおいても医学的な理由で手術不能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対しては,経過観察より根治的放射線治療を行うべきと結論されているので,推奨グレードをBとした。
b.
肺葉切除可能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して,根治的放射線治療〔主に体幹部定位放射線照射(SBRT)〕と肺葉切除を無作為に比較した臨床試験は報告されていない。完遂不能であったランダム化比較試験の統合解析や傾向スコアを用いたSBRTと肺葉切除との比較が報告されているが,一定の見解を得るには至っていない。現状ではこのような対象に対し,SBRTを行うよう勧められるだけの科学的根拠が明確でなく,推奨グレードをC2とした6)~9)
c.
肺葉切除不能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対しては,縮小手術(区域切除または楔状切除)と根治的放射線治療(主にSBRT)が考慮される。傾向スコアを用いた縮小手術とSBRTとの53例の比較では,5年生存割合が縮小手術で55.6%,SBRTで40.4%と,縮小手術で良好な傾向ではあるものの有意差は認めなかった(P=0.124)10)。同様に両者で有意差を認めなかったという報告もなされており11),現状で,この両者を無作為に比較した臨床試験は報告されていないことから,肺葉切除不能の場合は縮小手術と同様にSBRTを中心とした根治的放射線治療を考慮してもよく,推奨グレードをC1とした。
d.
Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して,照射範囲に関して縦隔の予防照射をランダムに比較した試験はない。しかし,26の非ランダム化比較試験から集めたⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌2,003人の治療成績の分析では,Ⅰ期であれば局所照射のみで肺門および縦隔に単独再発する確率は0~3%である1)。また,最近のSBRTにおいても予防照射は行っていないが,本邦で行われた前向き試験においても,肺門および縦隔への単独再発は3%であり12),Ⅰ期非小細胞肺癌に対する縦隔への予防照射野有効性は確認できていない2)
 以上の点より,Ⅰ期非小細胞肺癌では,局所照射でよいと考えられるため推奨グレードをC2とした。一方,Ⅱ期非小細胞肺癌では縦隔への予防照射の意義を検討した報告はない。
e.
近年は,末梢型Ⅰ期非小細胞肺癌については,SBRTや陽子線・炭素線照射などを用いて線量を局所に集中し,従来より高い線量を照射する高精度放射線治療が一般的になりつつある。Ⅰ期肺癌に対する48 Gy/4分割のSBRTではⅠA,ⅠB期の3年生存率は各々83%,72%と報告されており13),国内14施設のSBRT症例の解析では,BED10>100 Gy の照射を行い,かつ手術可能であった症例の5 年生存率は70.8%と良好であった14)。本邦で行われた前向き試験では,ⅠA期に対する48 Gy/4分割のSBRTを行い,手術可能例,不能例の3年生存率はそれぞれ76.5%,59.9%で,Grade 5の有害事象は認めなかったとしている12)。RTOG0236 による60 Gy/3分割のSBRTでは,局所制御率が98%と極めて高値であり,かつ致死的な有害事象もなかったとしている15)。また,中枢型肺癌の定義については未だ議論があるが,中枢型肺癌に対するSBRTの局所制御率は85%以上,BED3<210 Gy では治療関連死は1%以下,Grade 3~4 の有害事象も9%以下と報告されている16)
 以上のように,手術不能のⅠ期非小細胞肺癌,特に末梢型に対しては,複数の臨床試験を含めた多くの報告でSBRTの高い局所制御率と原病生存率が示されているが,手術不能のⅠ期を対象とした通常分割照射 70 Gy/35分割とSBRT 66 Gy/3分割を比較したSPACE trialでは,3年無病生存率は42%,3年生存率はそれぞれ59%,54%と有意差は認めなかった。しかし,SBRTのほうが局所制御される傾向にあること,照射回数の少なさ,低い毒性により標準治療と考えるべきと結論付けられている17)。一方,炭素線照射による長期観察結果報告では,すべての患者の局所制御率は94.7%であった18)。5年原病,全生存率はそれぞれ75.7%,50%であった。またGrade 3 以上の有害事象はなかったとしている。また陽子線照射による治療成績の報告では,24カ月の平均観察期間で,2年の局所無再発生存率が80%で,全生存率が84%であり19),晩期有害事象も軽度であったとしている。以上より,推奨グレードをBとした。
 また,Ⅰ期非小細胞肺癌に対して粒子線治療(重粒子線・陽子線治療)による線量増加や線量の集中性を高めた照射法はSBRTと同等の治療成績であったという報告もあり20),優位性についてのエビデンスは乏しいが,局所制御率を高める方法として検討されるべき治療法と考えられる。ただし,本邦では肺癌に対する粒子線治療は保険診療としては認められておらず,先進医療として行われている。
引用文献
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