5

Ⅱ.非小細胞肺癌(NSCLC)

Ⅲ期非小細胞肺癌・肺尖部胸壁浸潤癌
*病期について
本ガイドラインの病期は肺癌取扱い規約第8版に準じているが,収載されているエビデンスは第7版もしくはそれ以前の病期分類に従っている。
2017年版ver1.1について

5-1.Ⅲ期非小細胞肺癌

文献検索と採択

Ⅲ期非小細胞肺癌:切除不能例

本文中に用いた略語および用語の解説

CBDCA カルボプラチン
CDDP シスプラチン
CPT-11 塩酸イリノテカン
DTX ドセタキセル
ETP エトポシド
MMC マイトマイシンC
PTX パクリタキセル
VBL ビンブラスチン
VDS ビンデシン
VNR ビノレルビン
プラチナ製剤 CDDPとCBDCAの総称
第3世代細胞障害性抗癌剤 CPT-11,DTX,GEM,PTX,VNRの総称
3D-CRT 3-dimentional conformal radiation therapy 3次元原体照射
ENI elective nodal irradiation 予防的リンパ節照射
IF involved field 病巣部(病巣関連)照射野:主として肉眼的腫瘍体積(画像上明らかな腫瘍病巣部)に限局した照射野を意味する
OS overall survival 全生存期間
PFS progression free survival 無増悪生存期間
PS performance status 一般状態
V20 20 Gy以上照射される肺体積の全肺体積に対する割合
根治照射可能症例の定義
 根治照射とは治癒を目指す照射のことである。根治照射可能症例とは,病巣部(原発巣およびリンパ節転移)すべてに対して根治線量を照射可能で,かつ正常組織障害を最小限に抑えることができる症例のことである。Ⅲ期の中で,対側肺門リンパ節転移を有する症例は根治照射不能例となる。根治照射が可能か否かは,腫瘍の大きさや腫瘍の部位,肺機能や既存肺の状態などから放射線腫瘍医とともに総合的に判断する。

5-1-1.化学放射線療法

GRADE
CQ9.切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態良好(PS 0-1)の患者に対して化学放射線療法は勧められるか?
推 奨
切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態良好(PS 0-1)の患者に対して化学放射線療法を行うよう推奨する。(1A)
解 説
 切除不能局所進行非小細胞肺癌に対する放射線単独療法と化学放射線療法の比較試験をまとめたメタアナリシスの結果,CDDPを含む化学療法と放射線療法の併用群の生存率が放射線単独群の生存率に比して有意に良好であった(HR 0.87,P=0.0052,2年時点での死亡リスクを15~30%減少)1)2)。ただし,これらの比較試験では,PSが良好な症例を対象にしており,化学療法により生存期間延長効果が得られる対象もPS 0-1である1)~3)。また,これらのメタアナリシスには年齢上限のない比較試験も含まれるが70歳以上の高齢者の割合は低く,高齢者に対する有用性は不明確である。本邦においては 71歳以上のPS 0-1の高齢者を対象としたJCOG0301のランダム化比較試験の結果でも,化学放射線療法群(低用量CBDCA 30 mg/m2/日,週5 回,計20 日間投与 + 同時胸部放射線照射60 Gy)は放射線単独療法群(胸部放射線照射60 Gy)に比べて,主要評価項目であるOSを有意に延長することが示されている(生存期間中央値22.4カ月 vs 16.9カ月,HR 0.68,95%CI:0.47-0.98,P=0.0179)4)
 以上より,切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態良好(PS 0-1)の患者に対して化学放射線療法を行うよう勧められる。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。ただし,化学放射線療法の有害事象発生頻度は,放射線単独療法のそれより高いため,十分な配慮が必要である。
GRADE
CQ10.切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態が良好(PS 0-1)な患者の化学放射線療法における放射線療法の最適なタイミングとしては化学療法との同時併用が勧められるか?
推 奨
切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態が良好(PS 0-1)な患者の化学療法と放射線療法の併用時期は同時併用を行うことを推奨する。(1A)
解 説
 化学療法と放射線療法の併用時期は同時のほうが併用効果は高い5)6)。CDDP,VDS,MMC(MVP療法)併用下に放射線療法の同時併用と逐次併用を比較した第Ⅲ相試験では,同時併用群においてOSの有意な延長(16.5カ月 vs 13.3カ月,P=0.03998)を認めた5)。同様に,CDDP,VBL併用下に放射線療法の同時併用と逐次併用を比較した結果,同時併用群においてOSの有意な延長(17.0カ月 vs 14.6カ月,HR 0.812,95%CI:0.663-0.996,P=0.046)を認めた。しかし,同時併用群では急性期のGrade 3以上の好中球減少(88% vs 77%),血小板減少(9% vs 5%),食道炎(23% vs 4%)と有害事象の頻度が高かった。一方,同時併用では急性の有害事象の頻度が高く注意が必要であるが,慢性の有害事象は逐次併用と同等であることが示されている6)。また,最近の同時併用と逐次併用の臨床比較試験をまとめたメタアナリシスにおいても,同時併用群は,逐次併用群に比してOSの有意な延長を示した(HR 0.84,95%CI:0.74–0.95,P=0.004)7)
 以上より,切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態が良好(PS 0-1)な患者の化学放射線療法における放射線療法の最適なタイミングとして化学療法との同時併用が勧められる。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。
GRADE
CQ11.化学放射線療法においてプラチナ製剤と第3世代以降の細胞障害性抗癌剤併用を勧められるか?
推 奨
化学放射線療法においてプラチナ製剤と第3世代以降の細胞障害性抗癌剤併用を行うよう推奨する。(1A)
解 説
 現在までに本邦においてMVP療法に対するCBDCA+CPT-11併用療法,CBDCA+PTX併用(CP)療法,CDDP+DTX併用(CD)療法が比較検討され,OSではMVP療法に対するCP療法(CP 22.0カ月 vs MVP 20.5カ月,HR 0.876,P=0.876)の非劣性やCD療法(CD 26.7 カ月 vs MVP 23.7カ月,P> 0.05)の優越性は証明されなかった。しかし,CP療法の生存曲線は密に重なっており,有害事象が軽微であることからCP併用療法が標準治療の1つと結論された8)。CD療法は主評価項目である2年生存率でMVP療法に対する優越性は証明された(CD 60.3% vs MVP 48.1%,P=0.044)が,OSでの優越性は上述のように証明されなかった9)。また,海外において非扁平上皮癌を対象にCDDP+ETP併用(PE)療法に対するCDDP+PEM併用(PP)療法が比較検討された。OSではPP療法はPE療法に対する優越性を示せなかったが(PE 26.8カ月 vs PP 25.0カ月,HR 0.98,95%CI:0.79-1.20,P=0.831),骨髄抑制はPE療法に比較し軽微であった10)。ただし,この比較試験には日本人は含まれておらず,日本人における安全性,有効性のデータは十分ではない。したがって,レジメンとしてはCP療法あるいはCD療法が日本人における十分なエビデンスを有している。
 以上より,化学放射線療法においてプラチナ製剤と第3世代以降の細胞障害性抗癌剤併用を行うよう勧められる。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。
GRADE
CQ12.切除不能局所進行非小細胞肺癌,シスプラチン一括投与が不適な高齢者に対して,連日カルボプラチン投与による化学放射線療法は勧められるか?
推 奨
切除不能局所進行非小細胞肺癌,シスプラチン一括投与が不適な高齢者に対して,連日カルボプラチン投与による化学放射線療法を行うよう提案する。(2B)
解 説
 本邦において,71歳以上の高齢者を対象とし化学放射線療法群(低用量CBDCA 30 mg/m2/日,週5 回,計20 日間投与+同時胸部放射線照射60 Gy)を放射線単独療法群(胸部放射線照射60 Gy)と比較した第Ⅲ相試験では,主要評価項目であるOSを有意に延長することが示された(生存期間中央値22.4カ月 vs 16.9カ月,HR 0.68,95%CI:0.47-0.98,P=0.0179)4)。一方で,血液学的毒性に関しては化学放射線療法群で,放射線単独療法群に比較し高い頻度で認められ(Grade 3,4 好中球減少: 57.3% vs 0%,Grade 3,4 血小板減少: 22.9% vs 2.0%), 重篤な感染症も化学放射線療法群で多く認められた(Grade 3,4 感染症: 12.5% vs 4.1%)。
 以上より,切除不能局所進行非小細胞肺癌,シスプラチン一括投与が不適な高齢者に対して,連日CBDCA投与による化学放射線療法を行うよう勧められる。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Bとした。下記に,ガイドライン検討委員会薬物療法及び集学的治療小委員会(作成班)において推奨度決定のために行われた投票結果および議論の経緯を記載する。
[3回目投票]
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
評価不能・推奨なし 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
54% 46% 0% 0% 0%
 推奨度については 1 回目の投票で,行うよう推奨:46%,行うよう提案:50%,白票:4%となり,委員の施設における使用状況などを踏まえた 2 回目の投票(行うよう推奨:52%,行うよう提案:48%),その後議論を行った 3 回目の投票(行うよう推奨:54%,行うよう提案:46%)でも結論が出なかった。意見が集約できないことも考慮すると「行うことを提案する(2B)」 と判断せざるを得ないことで最終的に合意が得られた。
GRADE
CQ13-1.同時化学放射線療法後に地固め化学療法を行うよう勧められるか?
推 奨
同時化学放射線療法後に薬剤を変更しての地固め化学療法は行わないよう提案する。(2B)
New(2017年版ver1.1)

CQ13-2.同時化学放射線療法後に免疫チェックポイント阻害剤による地固め療法を行うよう勧められるか?

推 奨
同時化学放射線療法後にデュルバルマブによる地固め療法を行うよう提案する。(2B)
解 説
CQ13-1.
CDDP+ETPと胸部放射線同時併用療法後にDTXによる地固め化学療法の意義を検証する第Ⅲ相比較試験が行われた。予定されていた中間解析の結果,DTXによる地固め化学療法により生存期間延長効果は得られず(全生存期間中央値 21.2カ月 vs 23.2カ月,P=0.883),Grade 3~5の有害事象(発熱性好中球減少症 10.9%,感染症 11.0%,肺臓炎 9.6%)の有意な増加および5.5%の治療関連死亡が報告され,試験は早期無効中止となった11)
 以上より,同時化学放射線療法後に薬剤を変更しての地固め化学療法は行わないよう勧められる。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Bとした。
CQ13-2.
同時化学放射線療法後,病勢がコントロールされているⅢ期非小細胞肺癌を対象として,デュルバルマブによる地固め療法(デュルバルマブ群)を,プラセボ群と比較する第Ⅲ相試験が行われた。この試験は,放射線療法終了から42日以内にデュルバルマブ(またはプラセボ)を開始するデザインで実施された。主要評価項目は,PFS,OSの両者に設定され,中間解析においてPFSはHR 0.52(16.8カ月vs 5.6カ月,95%CI:0.42-0.65,P<0.001)で,デュルバルマブ群はプラセボ群に対してPFSを有意に延長した。OSについては,PFS中間解析時の解析は計画されておらず,2018年7月時点で詳細な結果は未公表である12)
 毒性に関して,放射線肺臓炎はデュルバルマブ群33.9%,プラセボ群24.8%で認められたが,Grade 3~4の放射線肺臓炎については,デュルバルマブ群3.4%,プラセボ群2.6%であった。Grade 5の放射線肺臓炎については,デュルバルマブ群1.1%,プラセボ群1.7%で認められた12)13)。また,免疫学的有害事象については,デュルバルマブ群24.2%,プラセボ群8.1%で認められ,Grade 3~4の有害事象は,デュルバルマブ群3.4%,プラセボ群2.6%であった12)
 上記試験における日本人サブセットの解析も報告されている(日本人集団/全体集団 112/713例)13)。日本人集団における放射線肺臓炎は,デュルバルマブ群73.6%(53/72例),プラセボ群60.0%(24/40例)であった。そのうち,Grade 3~4の放射線肺臓炎は,デュルバルマブ群5.6%(4/72例),プラセボ群2.5%(1/40例)であった。Grade 5の放射線肺臓炎については,デュルバルマブ群1.4%(1/72例),プラセボ群2.5%(1/40例)で認められた13)
 以上のように,デュルバルマブによる地固め療法は,OSの詳細な結果は未公表であるがPFSを有意に延長しており,同時化学放射線療法後,病勢がコントロールされているⅢ期非小細胞肺癌を対象としたデュルバルマブによる地固め療法を行うよう提案する。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Bとした。
 ガイドライン検討委員会薬物療法及び集学的治療小委員会(作成班)での投票の結果,推奨度は2Bと判断したが,一部の委員からはOSの結果が未公表であることから評価不能(推奨なし)という意見もあった。下記に,同委員会において推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
行うことを
推奨
行うことを
弱く推奨(提案)
評価不能・推奨なし 行わないことを
弱く推奨(提案)
行わないことを
推奨
0% 94% 6% 0% 0%
GRADE
CQ14.化学療法併用時の放射線療法の最適な照射線量は?
推 奨

a.化学療法併用時の放射線療法として,通常分割照射で少なくとも60 Gyを用いるよう勧められる。(1A)

b.74 Gyの高線量照射は行わないよう推奨する。(1B)

解 説
a.
化学療法に放射線療法を併用する場合の放射線の推奨照射線量は,化学療法と放射線を併用するタイミングを検討する試験,同時化学放射線療法における化学療法の比較や地固め化学療法を比較した試験に用いられた放射線療法の分割照射法・投与線量がすべて1回1.8~2 Gyで週5回,計59.4~66 Gyであったことを元としている。RTOG9410でCDDP+VBL同時併用放射線療法,遂時放射線照射,CDDP+ETPと同時過分割照射(計69.6 Gy)を比較した試験でも,過分割照射の有用性は証明されていない6)。また,本邦で行われた化学放射線療法に関する比較第Ⅲ相試験は1回2 Gy週5回,計28~30回,56~60 Gyである5)8)9)。化学療法に放射線照射を併用する場合においても,放射線単独療法と同じ最低推奨照射線量は安全性の観点から同時に照射が可能であり,60 Gy/30回/6週を最低総線量とするよう勧められる。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。
b.
近年のCT治療計画による3D-CRTの普及により,予防的リンパ節照射(elective nodal irradiation;ENI)を省くinvolved field(IF)を用いた高線量照射が試みられるようになった。Yuanらの1回2 Gyの通常分割照射によるIF照射(総線量68~74 Gy)とENI(総線量60~64 Gy)による比較試験の結果によると,5年局所制御率はそれぞれ51%,36%と有意にIF照射群が良好で,肺臓炎の発症割合はENI群で有意に高く,両者の2年生存率はそれぞれ39.4%,25.6%で,2年生存率においてのみIF照射群のほうが有意に予後良好であったと報告されている14)。その後,標準線量60 Gyと高線量74 Gyの生存延長効果を比較した第Ⅲ相試験(RTOG0617)の結果が報告された15)。高線量74 Gyによる同時化学放射線療法は,標準線量60 Gyの場合よりも局所再発リスクと死亡リスクをそれぞれ37%と56%有意に上昇させた。
 以上より,化学放射線療法においてENIを省くIFを用いた74 Gyの高線量照射は行わないよう勧められる。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Bとした。
引用文献

5-1-2.放射線単独療法

GRADE
CQ15.切除不能のⅢ期非小細胞肺癌で化学療法併用不能なものに対して,放射線単独療法は勧められるか?
推 奨
放射線単独療法を行うよう勧められる。(1C)
解 説
 無症状のⅢ期非小細胞肺癌240人を対象に,A群:通常照射(50 Gy/25回/5週),B群:小分割照射(40 Gy/10回/5週,3週間の休止期間を含む),C群:症状が出るまで無治療で,症状が出たら姑息照射を行う3群のランダム化比較試験が行われ,2年生存率は,A群18%,B群6%,C群0%と通常照射群の生存率が有意に良好であった1)
 以上より,切除不能のⅢ期非小細胞肺癌で化学療法併用不能なものに対する放射線単独療法は1本のランダム化比較試験の結果のみではあるが,すでにコンセンサスとして標準的に行われており勧められる。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。
GRADE
CQ16-1.切除不能のⅢ期非小細胞肺癌に対する放射線単独療法の最適な線量は何か?
推 奨
放射線単独療法では,通常分割照射で少なくとも60 Gyを用いるよう勧められる。(1A)
CQ16-2.切除不能のⅢ期非小細胞肺癌に放射線単独療法を行う際に通常分割照射以外の照射方法は勧められるか?
推 奨
切除不能のⅢ期非小細胞肺癌に放射線単独療法を行う際に,通常分割照射以外の照射方法(過分割照射・加速過分割照射など)を行わないよう提案する。(2B)
解 説
a.
非小細胞肺癌を対象に,40 Gy,50 Gy,60 Gyをランダム化比較したRTOG73-01では2),生存曲線には有意差がないものの,3年生存率が,60 Gyで15%,50 Gyで10%,40 Gyで6%であった。照射野内再発率は,40 Gy,50 Gy,60 Gyと線量が増加するにつれて低くなり,線量依存性は有意であった。放射線単独で線量分割をランダム化比較した英国の4つの臨床試験と,米国の第Ⅲ相試験(RTOG73-01)との検討では3),放射線単独治療では,線量が正常組織反応および局所制御率と相関していた。以上,少なくとも60 Gy以下では治療成績が合計線量に依存することが示されている。
 線量が70 Gyを超える領域に関して,T1-3N2M0のⅢ期非小細胞肺癌を対象とした60 Gyから79.2 Gyまでの過分割照射のランダム化比較試験(RTOG83-11)では4),生存期間中央値や年次生存率は60 Gyから69.6 Gyまで線量が増加するほど改善する傾向にあったが,70 Gy以上では改善しなかった。有害事象については各群で有意差はなかったが,事象によっては線量増加に従って増える傾向も認められた。
 これらのデータは2次元治療に基づいたものであるが,現在も標準的に用いられている60 Gyの理論的根拠となっている。
 以上より,複数の試験で60 Gy以上の照射による生存率の向上が確認されており,化学放射線療法の適応とならない切除不能のⅢ期非小細胞肺癌に放射線単独療法を行う際には通常分割照射で少なくとも60 Gy/30回/6週を行うよう勧められる。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。
b.
照射期間を短縮する加速照射や1日に複数回照射する過分割照射に関する検討がいくつか行われている。通常分割照射(60 Gy/30回/6週)と過分割照射(69.6 Gy/1.2 Gy bid/6週)を比較したランダム化比較試験では5),両群に生存率の有意差はみられていない。連続加速過分割照射(1.5 Gy/回,1日3回,合計54 Gyを12日間連続照射)と通常分割照射(60 Gy/30回/6週)のランダム化試験では6),2年生存率は29% vs 20%と前者で有意に良好であり,連続加速過分割照射によって死亡のハザード比(HR)が22%,局所再発のHRが21%有意に減少した。一方,この試験では症例の約80%が扁平上皮癌であったが,組織型のサブセット解析では扁平上皮癌で生存率,局所制御率,無病生存率,および無遠隔転移生存率の有意な改善を認めたものの,それ以外の組織型における加速過分割照射の有効性は示されなかった。通常分割照射(60 Gy/30回/6週)と加速過分割照射(2 Gy/回,1日2回,合計60 Gyを3週間で施行)の比較試験では5),両群の生存率に有意差なく,加速過分割照射群で食道炎が高率にみられ(32% vs 12%),かつ長期間持続した(3.2カ月 vs 1.8カ月)。通常分割照射(60 Gy/30回/6週)と過分割照射〔60 Gy/40回/6週(2週間休止)〕のランダム化比較試験では7),照射期間の変わらない休止期間を有する過分割照射は,通常分割照射と生存率に差がなかった。
 以上より,照射方法の検討については,連続加速過分割照射による生存率の向上が示されてはいるものの,いずれも海外のデータであり,本邦において土日も含めて1日3回照射する連続加速過分割照射は汎用性に乏しいと考えられる。また,加速過分割照射や過分割照射を行った他の報告では生存の延長は示されていない。よって,通常分割照射以外の照射方法を行わないよう提案する。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Bとした。
引用文献

5-2.肺尖部胸壁浸潤癌

文献検索と採択

肺尖部胸壁浸潤癌

本文中に用いた略語および用語の解説

CDDP シスプラチン
DTX ドセタキセル
ETP エトポシド
PTX パクリタキセル
MVP療法 マイトマイシン,ビンデシン,シスプラチン併用療法
第3世代細胞障害性抗癌剤 CPT-11,DTX,GEM,PTX,VNRの総称
OS overall survival 全生存期間
SST superior sulcus tumor 肺尖部胸壁浸潤癌
GRADE
CQ17.切除可能な肺尖部胸壁浸潤癌(臨床病期T3-4N0-1)に対する最適な治療は?
推 奨
術前化学放射線療法後に外科治療を実施する集学的治療を行うよう推奨する。(1C)
解 説
 肺尖部胸壁浸潤癌(SST)では外科治療を基本とした治療が行われ,術後30日以内の死亡率は4~8.9%である1)~3)。Paulsonの報告以来,放射線治療あるいは化学放射線療法を外科治療に組み合わせた集学的治療が行われてきた1)~8)。SSTは稀な疾患であり,大規模な術前化学放射線療法に関するランダム化比較試験やメタアナリシスは報告されていない。それゆえ,SSTに対して術前に化学放射線療法を施行することのエビデンスは明確ではないが,SWOG9416/INT0160では9),術前治療のnon PD率は86%,完全切除割合が75%であり,長期経過観察による生存期間の中央値は36カ月で5年生存割合は44%であった。また,国内でもSSTに対する術前化学放射線療法+手術治療の第Ⅱ相試験が行われ(JCOG9806),術前治療の奏効割合は61%で完全切除割合は68%,全例の5年生存割合が56%であったと報告した10)。放射線治療についてはいずれの試験においても,原発巣および同側の鎖骨上窩に限局した照射野で行われ総線量は45 Gy/25回であった。N1症例でも肺門リンパ節は照射野に含めていない。併用した化学療法はCDDP+ETP(SWOG9416/INT0160),MVP療法(JCOG9806)であり,第3世代の細胞障害性抗癌剤は用いられていない。一方,SSTでは術後化学放射線療法に関してもランダム化比較試験やメタアナリシスは報告されていない。唯一,SSTに対する手術治療+術後化学放射線療法の第Ⅱ相試験が実施され,完全切除割合は72%で全例の5年生存割合が50%であった11)。しかしながら,本試験では,エントリー時の手術の可否基準が不明確であることに加え,登録期間が1994~2007年までと長く,症例数も少ないため,研究の質に問題があると考えられる。
 以上より,術前化学放射線療法+手術治療の2つの第Ⅱ相試験の結果は従来の治療成績(5年生存割合23~36%1)3)6)~8)をはるかに上回るものであり,切除可能な肺尖部胸壁浸潤癌(臨床病期T3-4N0-1)に対して術前化学放射線療法後に外科治療を実施する集学的治療を行うよう勧められる。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。なお,術前化学放射線療法後に外科治療を実施する集学的治療については実施可能性の検討を含め専門医施設で行うことを考慮する。
引用文献

レジメン:Ⅲ期非小細胞肺癌の同時併用

CP療法 胸部放射線治療 60 Gy/30回(6週),day 1~
化学療法 CBDCA (AUC=2),day 1,8,15,22,29,36
PTX 40 mg/m2,day 1,8,15,22,29,36
CBDCA (AUC=5),day 1 2コース
PTX 200 mg/m2,day 1 2コース
CD療法 胸部放射線治療 60 Gy/30回(6週),day 1~
化学療法 CDDP 40 mg/m2
day 1,8,29,36
地固め化学療法は行わない
DTX 40 mg/m2
day 1,8,29,36
高齢者
CBDCA療法
胸部放射線治療 60 Gy/30回(6週),day 1~
化学療法 CBDCA 30 mg/m2

合計20回の投与を40 Gyまでの照射日に一致して照射前60分以内に投与

地固め療法 免疫チェック
ポイント阻害剤
デュルバルマブの投与は最大1年間
デュルバルマブ 10 mg/kg, day 1 <q2w>
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