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Ⅱ.非小細胞肺癌(NSCLC)

転移など各病態に対する治療

本文中に用いた略語および用語の解説

BLM ブレオマイシン
CBDCA カルボプラチン
CDDP シスプラチン
DOXY ドキシサイクリン
ETP エトポシド
MINO ミノサイクリン
MMC マイトマイシンC
OK-432 ピシバニール
PEM ペメトレキセド
PTX パクリタキセル
Talc タルク
TC テトラサイクリン
BP製剤 ビスフォスフォネート製剤
ALK anaplastic lymphoma kinase 未分化リンパ腫キナーゼ
BSC best supportive care 緩和治療,ベストサポーティブケア
ECOG eastern cooperative oncology group 米国東海岸癌臨床試験グループ
EGFR epidermal growth factor receptor 上皮成長因子受容体
HR hazard ratio ハザード比
OS overall survival 全生存期間
PS performance status 一般状態
QOL quality of life 生活の質
RR relative risk 相対危険度
SRE skeletal related event 骨関連事象
STI stereotactic irradiation 定位放射線照射
 以下の2つに分けられる
 SRS stereotactic radiosurgery 定位手術的照射:1回照射
 SRT stereotactic radiotherapy 定位放射線治療:分割照射

7-1.骨転移

文献検索と採択

文献検索と採択

樹形図

骨転移 CQ48 CQ50 CQ51 CQ52 CQ51
GRADE
CQ48.症状を有する骨転移に対して放射線治療が勧められるか?
推 奨
放射線治療を行うよう勧められる。(1A)
解 説
 肺癌の骨転移は進行非小細胞肺癌では約30~40%に生じるとされ,生存期間の中央値は1年にも満たないとされる。本邦における259人の非小細胞肺癌でのレトロスペクティブな解析1)では,その経過で70人(30.4%)に骨転移が認められている。そのうち46人(65.7%)は初回Staging時で認められ,また35人(50%)は骨関連事象(SRE)をその経過で認めた。特に疼痛は最も多い症状であり,肺癌の骨転移症例の約80%に認められるという報告もある。
 未治療の骨転移合併非小細胞肺癌では,可能なら全身治療としての薬物療法を導入すべきであるが,症状を有する,または病的骨折の危険性が高い,または脊椎転移が脊髄圧迫を生じている場合は放射線治療が優先されることがある。
 16のランダム化試験のメタアナリシス2)によると,放射線治療による痛みの改善は50~80%と高率に得られ,有害事象の頻度も少なかった(病的骨折2.8~3.2%,脊髄圧迫1.9~2.8%)。以上より,放射線治療によって高い局所制御率と臨床的有効性がメタアナリシスにて確認されている。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。
GRADE
CQ49.症状を有する骨転移に対する放射線治療として
a.分割照射は勧められるか?
b.単回照射は勧められるか?
推 奨

a.分割照射を行うよう推奨する。(1A)

b.単回照射を行うよう提案する。(2A)

解 説
 従来,骨転移に対する放射線治療としては総線量20~30 Gyの分割照射が行われてきた。8 Gy単回照射については,総線量20~30 Gyの分割照射との比較を行った前向き試験がいくつかあり,これら16のランダム化試験に関するメタアナリシスが報告されている2)。これによると痛みの改善は単回照射群58% vs分割照射群59%と同等であった(HR 0.99,95%CI:0.95-1.03)。有害事象も病的骨折3.2% vs 2.8%(P=0.75),脊髄圧迫2.8% vs 1.9%(P=0.13)と有意差を認めなかったが,再照射率は20% vs 8%と単回照射群で有意に高かった(HR 2.5,95%CI:1.76-3.56)。このメタアナリシスに含まれる試験で照射後の長期フォローアップを行った研究3)でも,有害事象は両群で有意差を認めず,再照射率は単回照射群で有意に高かった(27% vs 9%,P=0.002)。
 以上より,骨転移に対する標準的な照射方法としては,20 Gy/5回,30 Gy/10回などの分割照射が勧められる。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。一方,期待生存期間3カ月以内,連日の治療が困難,原腫瘍が増悪しているなど症例によっては単回照射が選択肢と考えられる。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Aとした。
 なお,PS良好で原疾患が制御されている孤立性転移など長期予後が期待される患者に限れば高線量の放射線治療も考慮される4)
GRADE
CQ50.脊椎転移が脊髄圧迫を生じている骨転移に対して外科治療が勧められるか?
推 奨
外科治療を行うよう提案する。(2C)
解 説
 脊髄圧迫を呈する転移性骨腫瘍に対して除圧術+放射線治療と放射線治療単独を比較したランダム化試験において5),治療後の歩行可能者割合は84% vs 57%(オッズ比6.2,95%CI:2.0-19.8,P=0.001)と手術群で良好で,歩行を維持できた期間も前者で長かった(122日間 vs 13日間,P=0.003)ことから,試験は早期中止となった。しかし,この試験は100例の集積に10年を要するなど,患者選択にバイアスがかかっている可能性や放射線治療単独群における歩行維持期間が短すぎることなどいくつかの問題が指摘されている。そこでこの試験の患者と予後因子を合わせたペアマッチ解析が検討されたが6),治療後の歩行可能者割合は69% vs 68%と有意差を認めず,単変量解析でも治療内容は予後に影響しなかった。
 以上より,脊椎転移が脊髄圧迫を生じている骨転移に対する外科治療は少数の比較試験で有効性が示唆されているものの,相反する報告も存在している。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Cとした。
GRADE
CQ51.骨転移を有する症例に対して骨関連事象の抑制(発現率を軽減し,発現までの時期を延長させる)に骨修飾薬(ゾレドロン酸またはデノスマブ)は勧められるか?
推 奨
骨修飾薬(ゾレドロン酸またはデノスマブ)を推奨する。(1B)
解 説
 乳癌および前立腺癌以外の肺癌を中心とした固形癌の骨転移患者(非小細胞肺癌50%,小細胞肺癌8%)を対象に,ビスフォスフォネート(BP)製剤であるゾレドロン酸とプラセボを,骨関連事象(SRE)の発症率および発症までの期間で比較した第Ⅲ相試験が行われた7)。21カ月までのSRE発現割合は,ゾレドロン酸4 mg投与群が38.9%,プラセボ投与群が48.0%とゾレドロン酸投与群が有意に低く,発症時期を2カ月以上延長させた(236日 vs 155日)。疼痛スコアや鎮痛剤の使用およびPSの変化に関しても,有意ではないものの改善傾向であった。
 乳癌,前立腺癌を除く,進行癌と多発性骨髄腫患者(非小細胞肺癌40%)を対象に,デノスマブとゾレドロン酸を,SRE発症までの期間で比較した第Ⅲ相試験が行われた。初回SRE発症までの期間は,デノスマブ群20.6カ月,ゾレドロン酸群16.3カ月で,非劣性が証明されたが,優越性は証明されなかった。一方で,疼痛スコアの増悪や骨病変に対する放射線治療のリスクは,デノスマブ群が有意に少なかった8)9)
 以上より,骨転移を有する症例では,SREの発現率の軽減とSRE発現までの期間を延長させることが複数の研究で示されているため,ゾレドロン酸またはデノスマブの投与は勧められる。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Bとした。
 BP製剤とデノスマブの重要な有害事象に顎骨壊死と腎機能障害が報告されている。顎骨壊死のリスク因子は,直近の歯科的処置やBP製剤の36カ月以上の長期投与が挙げられている10)。そのため,日常診療におけるBP製剤の長期使用では,顎骨壊死は十分に注意すべき有害事象である。デノスマブとゾレドロン酸の比較試験の統合解析では,両薬剤で,顎骨壊死の頻度に有意差を認めず11),デノスマブもBP製剤と同様な対応が必要である(参考資料:http://jsbmr.umin.jp/guide/pdf/bronjpositionpaper2012.pdf)。
 BP製剤の腎障害は,BP製剤を使用した症例の4%に報告されている12)。一方,デノスマブは,海外第Ⅲ相試験2)3)において,クレアチニンクリアランス値が30 ml/min未満の重度腎疾患患者および透析の必要な末期腎不全患者は対象から除外されており,慎重投与となっている。
 デノスマブで注意すべき有害事象は,低カルシウム(Ca)血症である。低Ca血症の頻度がBP製剤と比較して有意に多いという報告(ゾレドロン酸投与群5.8%,デノスマブ投与群10.8%)があり,予防のためにCa製剤,ビタミンD製剤の内服,定期的な血清Caの測定が推奨されている2)3)
GRADE
CQ52.病的骨折の危険性が高い,または脊椎転移が脊髄圧迫を生じている骨転移に対して放射線治療が勧められるか?
推 奨
放射線治療を行うよう勧められる。(1C)
解 説
 従来,病変が2.5 cm以上,もしくは荷重骨で皮質の50%以上に破壊がみられる場合は病的骨折のリスクが高いとされ,固定と放射線治療の適応がある13)。脊髄圧迫については,単群第Ⅱ相試験ではあるが,放射線治療によって82%で除痛が得られ,76%で歩行機能が回復または維持されていたと報告されている14)。また,この中で画像上圧迫を認めるものの症状が顕在化していない時期に放射線治療をすることで,全例にその後の歩行能力が保持されていたとも報告されている。
 以上より,病的骨折の危険性が高い,または脊椎転移による脊髄圧迫が切迫していると判断される場合には,明らかな神経症状がなくても放射線治療を行うよう勧められる。単群試験やこれまでのコンセンサスによる部分が多いため,エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。
引用文献

7-2.脳転移

文献検索と採択

文献検索と採択

樹形図

脳転移 CQ53 CQ54 CQ55 CQ59 CQ57 CQ60
GRADE
CQ53.脳以外の病巣がコントロールされており,かつ単発の脳転移に対して,定位手術的照射や外科治療は勧められるか?
推 奨
脳以外の病巣がコントロールされており,かつ単発の脳転移に対して,定位手術的照射や外科治療を行うよう推奨する。(1C)

*定位放射線照射(STI)は,線量分割の違いにより,1回照射の場合を定位手術的照射(SRS),分割照射の場合を定位放射線治療(SRT)と定義されている。ガンマナイフはSRSに含まれる。脳幹など重要組織が近接している場合や大きい腫瘍にはSRTで治療を行うことがある。

解 説
 全身コントロール良好な単発性脳転移を有する症例を対象とした,SRSと手術+全脳照射の比較試験において,SRS単独群の生存期間中央値は約10カ月と報告されている1)。またPS良好な単発性脳転移を有する症例を対象とした手術と手術+全脳照射の比較試験において,手術単独群の生存期間中央値は約10カ月と報告されている(全脳照射の追加による生存期間の延長はなし☞CQ582)。これらはいずれも他癌腫を含んだデータで,肺癌患者は3~6割程度を占めていた。近年報告された,非小細胞肺癌患者を対象とした観察研究のシステマティックレビューでは,原発巣がコントロールされ,脳転移に対してSRSや手術などの局所治療を行った患者の生存期間中央値19.7カ月(範囲6.8-52カ月)と報告されている3)
 以上より,脳以外の病巣がコントロールされており,かつ単発の脳転移に対して,SRSや外科治療を行う妥当性はあると考えられる。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。
GRADE
CQ54.症状を有する脳転移に対して,外科治療は勧められるか?
推 奨
症状を有する単発性脳転移に対して,外科治療を行うよう提案する。(2C)
解 説
 肺癌は脳転移を生じる頻度が高く,これによって生じた様々な神経症状はQOLを低下させる。このため,QOL改善を目的とした手術が治療選択肢の1つとして汎用されてきた。単発性脳転移を有する固形癌患者を対象とした手術と手術+全脳照射とのランダム化比較試験において,手術単独群の生存期間中央値は約10カ月・頭蓋内無増悪期間中央値は約6カ月であった(全脳照射の追加による生存期間の延長はなし☞CQ582)。疾患の性質からBSCとの比較試験は存在しないが,症状を有する単発性脳転移に対する手術については治療選択肢として提案可能である。一方,定位照射の有効性が期待できる場合には手術より優先されることが考えられる。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Cとした。
GRADE
CQ55.症状を有する脳転移に対して,放射線治療は勧められるか?
推 奨
症状を有する脳転移に対して,放射線治療は行うよう勧められる。(1C)
解 説
 肺癌は脳転移を生じる頻度が高く,これによって生じた様々な神経症状はQOLを低下させる。疾患の性質からBSCとの比較試験は存在しないが,2つの前向き試験では放射線治療によって70~90%の患者に症状の寛解が得られたと報告されており4),☞CQ57に示すように全脳照射やSRSいずれにおいても良好な頭蓋内無増悪期間・生存期間が報告されている。以上より,エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。なお,予後不良と考えられる場合はステロイド単独治療が勧められる(☞CQ59参照)。
GRADE
CQ56.癌性髄膜炎に対して,放射線治療は勧められるか?
推 奨
癌性髄膜炎に対して,放射線治療を行うよう勧める根拠は明確でない。(推奨なし)
解 説
 髄膜播種に対する放射線治療(全脳照射)の有用性を検討した前向き臨床試験は存在しない。後方視的研究では,髄膜播種症例での全脳照射の有用性は認められていないが5),中には症状緩和が得られる症例が経験されることもある。以上より,髄膜播種に対する放射線治療について勧めるだけの根拠は明確でなく,推奨なしとした。
GRADE
CQ57.多発性脳転移に対して,放射線治療は勧められるか?
推 奨

a.多発性脳転移に対して,全脳照射を行うよう勧められる。(1C)

b.4個以下で腫瘍径3 cm程度までであればSRSが勧められる。(1C)

c.5~10個の脳転移に対するSRSを行うだけの根拠が明確でない。(推奨なし)

*定位放射線照射(STI)は,線量分割の違いにより,1回照射の場合を定位手術的照射(SRS),分割照射の場合を定位放射線治療(SRT)と定義されている。ガンマナイフはSRSに含まれる。脳幹など重要組織が近接している場合や大きい腫瘍にはSRTで治療を行うことがある。

解 説
a・b.
従来,多発性脳転移に対しては全脳照射が行われてきた。前向き試験ではその生存期間中央値は3.5~7.5カ月程度であり,頭蓋内無増悪期間は中央値約6カ月程度と報告されている6)~10)
 4個以下,3 cm程度の脳転移に対してはSRSのエビデンスも蓄積されており,前向き試験のデータでは生存期間中央値は約8~15カ月,照射1年後の局所コントロール率は4~9割程度と報告されている11)12)
 脳腫瘍に対する放射線照射の有害事象として治療後のQOLの低下が問題となることがある。手術やSRSに全脳照射を追加することで,活動性の低下や認知機能障害が生じることを示す報告13)がある一方で,評価の方法や時期の違いの影響から差がなかったとする報告もある11)。一方,全脳照射を省くことで脳内再発によって認知機能の悪化がみられることがある。
 以上より,多発性脳転移に対する全脳照射,4個以下で腫瘍径3 cm程度までに対するSRSは複数の前向き試験でその有効性が示唆されている。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。
c.
5個以上の脳転移に対するSRSの有効性については,前向き観察研究で5~10個の脳転移と2~4個の脳転移に対する治療成績の比較によって,生存率に差がなかったとする結果が本邦から報告されており,有害事象の出現率にも差を認めなかった(9% vs 9%,P=0.89)14)。ただし,本研究の適格基準として最大経3 cm未満,最大腫瘍体積10 ml 未満,合計体積15 ml などが挙げられており,この結果を適応できる患者は限られる可能性がある。現在,海外で5個以上の脳転移に対するSRSと全脳照射のランダム化比較試験が行われており,多発脳病変に対するSRSの適応については今後の検討課題であり,現時点で推奨するだけの根拠は明確でなく,推奨なしとした。
GRADE
CQ58.手術やSRSに全脳照射の追加は勧められるか?
推 奨
手術,SRSに全脳照射の併用を行わないことを勧める。(1A)
解 説
 単発の脳転移を要する患者に対しての手術と,手術+全脳照射との併用療法を比較したランダム化比較試験は1つあり,生存期間に有意差は認められなかったが(43週 vs 48週,RR 0.91,95%CI:0.59-1.40,P=0.39),局所再発は有意に減少した(46% vs 10%,P<0.001)2)
 4個以下の脳転移に対するSRSと,SRS+全脳照射との併用療法を比較した試験は複数あり,ランダム化比較試験のメタアナリシスで局所制御率については併用群で有意に良好であった(HR 2.61,95%CI:1.68-4.06,P<0.0001)が,OSに有意差を認めなかった(HR 0.98,95%CI:0.71-1.35,P=0.88)15)。認知機能に関しては1つのランダム化比較試験ではSRS群とSRS+全脳照射群間でMini Mental State Examinationの結果に有意差は認められなかったが11),もう1つのランダム化比較試験ではHopkins Verbal Learning Test-Revisedを用いて評価を行ったところ,記憶学習能力が併用群で有意に低下したため早期中止となっている12)
 また,手術もしくはSRSを行った患者に対して全脳照射の追加を検討したランダム化比較試験において,全脳照射併用群は健康関連QOLが悪い傾向にあった13)
 以上より,4個以下の脳転移に対する手術やSRSに全脳照射の追加は,局所制御には有効であると考えられるが生存には寄与せず,認知機能低下などの有害事象も懸念されることが複数の臨床試験で示されている。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。
GRADE
CQ59.症状を有する脳転移に対して,ステロイド単独治療は勧められるか?
推 奨
症状を有する脳転移に対して,予後不良と考えられる場合はステロイド単独治療も勧められる。(1B)
解 説
 従来,症状を有する脳転移に対してステロイド治療は選択肢の1つとして汎用されてきた。外科治療や定位照射の適応とならない脳転移症例を対象とした,ステロイド+全脳照射とステロイド単独療法の非劣勢試験が行われ,生存期間とQOLの指標である質調整生存期間(QALY)の非劣性は証明されなかったものの,生存期間・QOLに有意差はなかった16)。なお,本試験における生存期間中央値は両群とも8~9週程度と非常に短く,このために全脳照射の有用性が認められなかったと考えられている。
 以上から,症状を有する脳転移に対して,予後不良と考えられる場合はステロイド単独治療も勧められる。エビデンスレベルはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Bとした。
GRADE
CQ60.無症候性脳転移に対して,薬物療法は有効か?
推 奨
薬物療法は有効であり,行うよう勧められる。(1C)
解 説
 無症候性脳転移に対しては全身治療として薬物療法が治療の中心となるものの,放射線治療も高い局所制御を示すことからその時期を逸さないことは重要である。一方で近年,新規薬物療法(細胞障害性抗癌剤,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害剤)の登場によって進行非小細胞肺癌の予後は延長しており,治療方針を決定する際のアウトカムとして,生存期間・脳転移制御率だけでなく神経学的予後に対する配慮もより重要となっている。
 よって,無症候性脳転移に対して薬物療法・放射線治療のどちらを先行させるかという重要なクリニカルクエスチョンが生じるが,現時点で明確なエビデンスは乏しいことから,脳転移巣のサイズ・個数・部位,医療状況などをもとに放射線腫瘍医と十分検討のうえで判断されるべきである。
 なお,これまで本ガイドラインでは無症候性脳転移に対する薬物療法の有効性に関する言及がなかったため,今回本CQでその意義について遺伝子変異の有無に分けて検討した(放射線治療に関しては,☞CQ57を参照すること)。

<遺伝子変異陽性例>

 遺伝子変異を有する無症候性脳転移患者に対して,分子標的治療薬の有効性が複数の試験で検討されている。本邦のEGFR遺伝子変異陽性患者41例を対象にゲフィチニブ単剤を行った単群第Ⅱ相試験では,頭蓋内病変の奏効割合・制御割合は87.8%・97.6%,頭蓋内病変の無増悪期間中央値は14.5カ月(95%CI:10.2-18.3)であった。脳転移の増悪に対して放射線治療を受けるまでの期間の中央値は17.9カ月(95%CI:12.4-24.7)であった。脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性例に対しては,その他に,ゲフィチニブまたはエルロチニブ単剤を行った単群第Ⅱ相試験(28例)とアファチニブとプラチナ製剤併用療法の第Ⅲ相試験におけるサブセット解析(48例)が報告されているが,いずれの試験でも頭蓋内病変に対する効果は個別には報告されていない。全体の治療成績について,前者にはPS 3の患者が約10%含まれているため,無増悪生存期間中央値6.6カ月,生存期間中央値15.9カ月の解釈には注意が必要である。後者についても,無増悪生存期間中央値は11.1カ月(95%CI:4.0-19.1)と良好であるが,アファチニブ開始前に全脳照射が約35%で施行されていることを加味する必要がある17)~19)。ALK融合遺伝子転座陽性患者では,クリゾチニブを投与した第Ⅱ相試験と第Ⅲ相試験の統合解析に未治療脳転移症例が109例含まれ,全身の奏効割合が53%であるのに対して頭蓋内病変奏効割合は18%と高くはないものの,12週時点での制御割合は56%,頭蓋内病変の増悪までの期間の中央値は7.0カ月(95%CI:6.7-16.4)であった20)。アレクチニブについては,本邦で行われた初回治療におけるクリゾチニブとの第Ⅲ相試験で,25例と少数のサブセットではあるが未治療脳転移における無増悪生存期間のHRは0.10(95%CI:0.01-0.77)と良好であった21)
 以上より,遺伝子変異を有する無症候性脳転移症例に対する分子標的治療薬については,いずれも単群第Ⅱ相試験や第Ⅲ相試験のサブセットで症例数は少ないものの,高い有効性を示唆するデータが複数報告されており,推奨グレードは1Cとした。

<遺伝子変異陰性または不明の場合>

 遺伝子変異を有さないまたは不明の無症候性脳転移患者に対して,細胞障害性抗癌剤の有効性が複数の試験で検討されている。非扁平上皮非小細胞肺癌43例を対象としてCDDP+PEM療法を行った第Ⅱ相試験では,頭蓋内病変の奏効割合は41.9%で頭蓋外病変の34.9%と遜色なく,頭蓋内病変制御率は86.0%であった。頭蓋内病変に関する無増悪期間中央値は5.7カ月(95%CI:4.0-7.6),無増悪生存期間中央値は4.0カ月(95%CI:2.7-6.2),生存期間中央値は7.4カ月(95%CI:5.8-9.6)であった22)。同様に非扁平上皮非小細胞肺癌67例を対象にCBDCA+PTX+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験では,頭蓋内病変の奏効割合は61.2%で頭蓋外病変の64.2%と遜色なく,頭蓋内病変に関する無増悪期間中央値は8.1カ月(95%CI:5.5-11.3),無増悪生存期間中央値は6.7カ月(95%CI:5.7-7.1),生存期間中央値は16.0カ月(95%CI:12.0-21.0)であった。約半数の33例が後治療として全脳照射を行っており,全脳照射までの期間中央値は12.7カ月(範囲2.8-34.7)であった23)
 以上より,遺伝子変異を有さないまたは不明の無症候性脳転移に対する細胞障害性抗癌剤については,有効性を示唆するデータが複数報告されているものの,いずれも単群第Ⅱ相試験の結果である。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Cとした。
引用文献

7-3.胸部病変に対する緩和的放射線治療

文献検索と採択

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GRADE
CQ61.縦隔・肺門病変による気道狭窄,上大静脈狭窄など胸郭内の腫瘍増大に伴う症状の緩和を目的とした胸部放射線治療は,行うよう勧められるか?
推 奨
放射線治療を行うよう勧められる。(1A)
解 説
 肺癌治療においては根治治療を行うことが難しい場合でも,症状の緩和や延命を目的とした胸部への放射線治療の役割は大きく,対症的に放射線治療を行うよう勧められる。照射線量に関するシステマティックレビューでは,総合的な症状緩和効果は高線量分割照射のほうが低線量照射より優れ(77.1% vs 65.4%,P=0.003),1年生存割合も良好であった1)。ただし,治療による食道炎の頻度は高線量分割照射のほうが高かった(20.5% vs 14.9%,P=0.01)。一方,30 Gy/10回と同等あるいはそれ以上の高線量分割照射と,より少ない総線量での照射とを比較した5つの臨床試験のメタアナリシスでは,症状改善率(咳嗽:約50%,胸痛:50~86%,血痰:75~97%)や1年および2年生存割合に差は認められなかった2)。以上,緩和的胸部照射については,いずれの報告においても高い割合で症状緩和が得られており,有効性がメタアナリシスで示されている。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。一方で患者背景などが様々であり,最適な線量を明示するだけの根拠は不足している。
引用文献
  • 1)Fairchild A, Harris K, Barnes E, et al. Palliative thoracic radiotherapy for lung cancer: a systematic review. J Clin Oncol. 2008; 26(24): 4001-11. (II)
  • 2)Ma JT, Zheng JH, Han CB, et al. Meta-analysis comparing higher and lower dose radiotherapy for palliation in locally advanced lung cancer. Cancer Sci. 2014; 105(8): 1015-22. (I)

7-4.癌性胸膜炎

文献検索と採択

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GRADE
CQ62.胸腔穿刺・ドレナージを行った癌性胸膜炎に対して,どのような治療が勧められるか?
推 奨

a.胸膜癒着術を行うよう推奨する。(1A)

b.薬物療法未治療例には,胸膜癒着術の代わりに薬物療法を行うよう提案する。(2C)

解 説
a.
胸膜癒着術の使用薬剤としては抗菌薬(TC,DOXY,MINOなど),抗癌剤(BLM,CDDPなど),鉱物(Talc),溶連菌製剤(OK-432)などが報告されている。
 本邦でTalcが承認される前に行われたBLM,OK-432,CDDP+ETP(PE)胸腔内投与のランダム化第Ⅱ相試験では,4週間後の胸水コントロール率は,BLM(68.6%),OK-432(75.8%),PE(70.6%)であった。PEでは消化器毒性の頻度が多く,治療効果に有意差は認めなかったものの胸水コントロール率の高いOK-432が汎用される根拠となった1)
 各薬剤を比較したメタアナリシスでは,Talc噴霧法による胸水制御が良好で,BLM,DOXY,TCなどより優れていた2)。Talc噴霧法とTalc懸濁法を比較した第Ⅲ相試験では,78%と71%で胸水制御が得られ,有意差は認めなかった3)。重篤な副作用として急性呼吸促迫症候群があるが,粒子径の大きいもの(平均24.5μm)では低頻度であった(558例中0例)4)。よって,2013年に本邦でもTalc懸濁法が承認されてから,胸水制御のエビデンスのあるTalcが汎用されるようになった。胸腔ドレナージ後の胸膜癒着術は,ドレナージ単独より胸水コントロール率に優れていることがエビデンスレベルの高い研究で示されている。エビデンスレベルはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断し,推奨度は1Aとした。
b.
分子標的治療薬による胸水制御を前向きに検討した報告はなかったが,日常臨床において,遺伝子変異例では,胸水に対しても分子標的治療薬が有効であることはしばしば経験される。一方,胸水に対して胸膜癒着術を行わずに,細胞障害性抗癌剤の投与を行うことが有効であると示した報告が2つある。CBDCA+PEM+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験では,28例の胸水コントロール率は92.9%で5),CBDCA+PTX+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験では,23例の胸水コントロール率は86.9%であった6)。前者では貧血(CTCAE Grade 3以上)が25%,後者では発熱性好中球減少症が26.1%で報告され,POINTBREAK試験やECOG4599試験より有害事象の頻度が高い傾向にあった。
 胸膜癒着術を行わずに全身薬物療法を導入することで,長期の持続ドレナージに伴うPSの増悪や全身薬物療法導入時期の遅れを回避できる可能性がある。一方で,前述の報告は遺伝子変異陽性例や扁平上皮癌を対象としておらず,限られた患者集団およびレジメンでの単群の第Ⅱ相試験であり,十分なエビデンスがあるとは言い難い。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Cとした。

7-5.癌性心膜炎

文献検索と採択

文献検索と採択
GRADE
CQ63.心囊穿刺・ドレナージを要する癌性心膜炎に対して,どのような治療が勧められるか?
推 奨
心膜癒着術を行うよう提案する。(2C)
解 説
 心囊水は単回穿刺では再貯留率が高いため,長期的な心囊水制御のためにはドレナージが推奨される。BLMによる心膜癒着術についての79例を対象としたランダム化比較試験では,主要評価項目であったドレナージ後2カ月時点での心囊液の増悪を伴わない生存割合に有意差はないもののBLM群でよい傾向があり(ドレナージ単独群29% vs BLM群46%,P=0.086),生存期間の延長傾向(中央値79日 vs 119日)もみられた1)。心膜癒着術の使用薬剤としては,各種薬剤について少数例で検討されており,30日後の心囊水コントロール率,生存期間中央値はそれぞれ,BLM(46~95%,119~125日)1)2),MMC(75%,80日)3),CBDCA(80%,69日)4)と報告されている。
 なお,血行動態が不安定な場合は心膜開窓術などの手術も治療選択肢であるが,心囊水制御について前向きに検討した文献はなく,各施設の医療状況や経験をもとに判断されるべきである。
 対象集団が少ないことからランダム化試験が施行しにくく,十分なエビデンスがないものの,短期の症状緩和に関する益と害のバランスを考慮した場合,心囊ドレナージ後の心膜癒着術を考慮してよいと考えられる。エビデンスレベルはC,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断し,推奨度は2Cとした。
引用文献
  • 1)Kunitoh H, Tamura T, Shibata T, et al. A randomised trial of intrapericardial bleomycin for malignant pericardial effusion with lung cancer(JCOG9811). Br J Cancer. 2009; 100(3): 464-9.
  • 2)Maruyama R, Yokoyama H, Seto T, et al. Catheter drainage followed by the instillation of bleomycin to manage malignant pericardial effusion in non-small cell lung cancer: a multi-institutional phase II trial. J Thorac Oncol. 2007; 2(1): 65-8.
  • 3)Kaira K, Takise A, Kobayashi G, et al. Management of malignant pericardial effusion with instillation of mitomycin C in non-small cell lung cancer. Jpn J Clin Oncol. 2005; 35(2): 57-60.
  • 4)Moriya T, Takiguchi Y, Tabeta H, et al. Controlling malignant pericardial effusion by intrapericardial carboplatin administration in patients with primary non-small-cell lung cancer. Br J Cancer. 2000; 83(7): 858-62.

レジメン:転移など各病態に対する治療

転移性骨腫瘍

緩和的放射線治療 30 Gy/10回(2週),20 Gy/5回(1週),8 Gy/1回(1日)など
薬物療法 ゾレドロン酸4 mg 3~4週毎投与
デノスマブ120 mg 4週毎投与
 Ca製剤 500 mg/日 連日投与
 天然型ビタミンD 400 IU/日 連日投与
(デノスマブ使用においては,高Ca血症を認めないかぎり,低Ca血症予防のためCa製剤とビタミンD製剤の補充を推奨)

転移性脳腫瘍

緩和的放射線治療
(全脳照射)
30 Gy/10回(2週),37.5 Gy/15回(3週),40 Gy/20回(4週)など

胸部病変

緩和的放射線治療 30 Gy/10回(2週),37.5 Gy/15回(3週),40 Gy/20回(4週)など
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