禁煙宣言
日本肺癌学会は、2000年に「禁煙宣言」を行いました。加熱式タバコをはじめとする新型タバコの普及に対しても広く注意喚起する必要があると考え、一部内容を改訂いたしましたので、公表いたします(2024年4月制定)。
禁煙宣言2024
1.喫煙と肺癌
日本肺癌学会は呼吸器外科医・内科医、放射線科医、病理医、統計学者、基礎学者などから構成される会員数7300人を超える学会である。本会の活動目標は、肺癌およびこれに関する領域の研究の進歩ならびに知識の普及をはかり、これらを通して肺癌の予防、早期診断、治療成績の向上に貢献することである。
肺癌の治療成績は年々向上し、男女の喫煙率も低下してきているが、本邦での肺癌死亡者数は1998年以降、全悪性腫瘍中の第一位であり、今後もしばらく増加すると予測されている1)。
本邦における肺癌増加の原因は、高齢者人口が著しく増加したこと、男性における喫煙率が高かったことがあげられる。非喫煙者に比べて喫煙者の肺癌リスクは男性で4-5倍、女性で2-3倍高いと報告されており、喫煙本数、喫煙年数が増加すれば肺癌リスクも増加する。喫煙は肺癌の最大のリスク因子であり、喫煙に起因する肺癌は男性で70%、女性で15%と推定されている。一方、受動喫煙も肺癌リスクとなり、夫が喫煙者の場合、非喫煙者の妻の肺癌リスクは1.3-1.5倍に増加すると報告されており、近年の研究で、本邦での女性の肺癌における受動喫煙の寄与は米国に比べて大きいことが特徴であるとの報告もある2)。健康増進法が改正され、2020年4月から受動喫煙防止対策が強化されているが、いまだ非喫煙者のうちの約3割が、職場や飲食店などで受動喫煙する機会があるという状況である3)。
タバコが健康に悪影響を及ぼすことは、多くの研究報告によって明らかにされている。研究報告は少ないが三次喫煙/残留受動喫煙の健康に対する影響も懸念されている。本邦でのタバコによる超過死亡数は年間21.2万人(2019年)で4)、高血圧や食生活上のリスクをしのいでいる一方で、身近に禁煙治療が受けられる医療機関を知らない国民が半数おり、効果が立証されている禁煙治療の普及が十分でない現況にある3)。禁煙は肺癌リスクを回避する有効な手段であり、罹患予防への取り組みの重要性を再認識すべきである。
2.新型タバコ
本邦では2016年ごろから、新型タバコの一種である加熱式タバコ(タバコ葉を熱して発生させたニコチンや発がん性物質を含んだエアロゾルを吸引するタバコ)が急速に流行している。紙巻きタバコとの併用も含め、習慣的喫煙者の約3割が加熱式タバコを使用しており、比較的若い世代では約半数が使用している3)。加熱式タバコの禁煙効果は明らかではなく、ハームリダクションの可能性も現時点では否定的である。
また電子タバコ(さまざまなフレーバー入りのEリキッドと呼ばれる溶液を加熱して吸引するタバコ)では、急性呼吸器疾患を発症した事例が報告されている。未成年の使用は法律で禁止されておらず、本格的な喫煙へのゲートウェイとなることが危惧される。最近では、水タバコ(シーシャ)が若者を中心に広がり始めていることも懸念される。
3.喫煙に関する勧告
喫煙が肺癌リスクを大きくし、また肺癌患者の生存を不良にする十分な証拠が蓄積されたことを踏まえて、日本肺癌学会は、医療従事者はもとより広く国民全体にタバコのない社会づくりを強く勧告する。肺癌学会とその会員は、禁煙を希望する者に対して、禁煙治療が適切に提供できるように対策を講じ、加熱式タバコを含む新型タバコについて広く注意喚起をするとともに、長期的な健康影響についての研究を進め、今後も正しい情報提供を行っていく。
―参考文献―
- 平成28年度科学研究費補助金基盤研究(B)(一般)日本人におけるがんの原因・寄与度:最新推計と将来予測 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
- 片野田耕太、望月友美子、雑賀公美子、祖父江友孝.わが国における受動喫煙起因死亡数の(推計.厚生の指標.2010;57(13):14-20.
- 厚生労働省国民健康・栄養調査(2020年公表)
- 令和元~3年度厚生労働科学研究「受動喫煙防止等のたばこ対策のインパクト・アセスメントに関する研究」
(文責 タバコ対策委員会)